写真展:プリント/額装(フレーミング)サービスまとめ
こんにちは。丸山です。
昨年、日本とニューヨークの計4カ所で写真展を開催しました。
展示場所や条件が異なるため、複数の展示方法を用いることになりました。
海外在住の私にとって、遠隔でプリントやフレームを手配するのは予想以上に時間がかかりました。
フレーム業者を探す中で気づいたのは、この業界にはまだ職人気質も残っているということです。ウェブサイトのないサービスもあり、ネット上では見つけられない素晴らしいフレーム業者がまだ多く存在するのではないかと感じました。
これらのまとまった情報を見つけることができなかったので、基本的な連絡先情報をNotionにまとめました。
この過程で、多くの業者から見積もりをいただきました。発注に至らなかった場合でも、それらの情報は最終決定に大変参考になりました。ご協力いただいた全ての業者の方々に感謝しています。
もし同じような経験をお持ちの方や、お勧めの業者をご存知の方がいらっしゃいましたら、メッセージをいただけると嬉しいです。そうした情報も取り入れることで、このリストをより充実させ、次回の展示準備にも活かせるのではないかと考えています。
去年の展示での実例
主なフレームの形態には、以下のようなものがあります。
① フローティング フレーム
プリントがフレームの中で少し浮いたように見えます。
通常、このタイプの額装をニューヨークのLaumontに依頼しています。
2006年からここを利用していますが、仕事の丁寧さやクオリティーには大変満足しています。
日本での展示に際して、まず同じ額装をすることを検討しました。
Laumontで額装して日本に送る方法を考えましたが、今回の日本での展示は予算が限られており、フレーム制作費以外にも輸送費や保険料が高額だったため断念しました。
そこで、日本の業者にもいくつか見積もりを依頼しました。しかし、1メートルを超えるフレームになると400,000円以上になってしまいました。特に最近のインフレによる資材の高騰もあり、また無反射のガラスやアクリルが高額であることも分かりました。
ドイツ在住の写真家、小島康敬氏に相談したところ、Artproofを紹介していただきました。
140x110cmの大きさの額装で、テストプリントと最終プリント込みで1,400ユーロ(当時のレートで20万円以下)という見積もりでした。無反射アクリルにはこの製品を使用しているようです。
ヨーロッパでの制作となるため送料や関税はかかりますが、フリーのテストプリント、最終プリントもオーダーでき多数の額装を依頼する場合はコスト効率が良いと判断し、今回はArtproofに依頼しました。
結果的に小さい額装を2つだけ頼んだため割高になってしまいましたが、今後アメリカ以外での額装のオプションが増えたことは大きな収穫でした。
額装屋へのプリント送付には常にリスクが伴います。輸送中や額装時のダメージによりプリントをし直す必要が生じると、追加のコストと時間がかかってしまいます。一方、プリントと額装を一括して行う業者を利用すれば、額装時のトラブルにも対応してくれるため、全体的に安心かつ経済的です。
特にデジタルプリントの場合、テストプリントを行えば、自分で直接プリントしなくても希望に近い仕上がりを得られます。
② スペーサー フレーム
作品とガラスが直接触れないため、作品の保存性に優れています。オーバーマットや余白がないため、作品をより印象的に見せることができます。
Japanese Beerという作品では、このタイプのフレームを採用しています。
今回の展示のために急遽新作を制作したため、時間的制約から既製のフレームを使用しました。
選んだのは「極フレーム」という商品で、シンプルで上質な仕上がりでした。このフレームはスペーサーも一緒にオーダーできる利点があります。
スペーサーは1枚のマットから精密に切り抜かれており、非常に繊細な仕上がりでした。木製の中桟(なかさん)オプションもあるようです。
メインのJapanese Beerシリーズは80枚の写真で構成されています。
今回の展示では予算の制約があったため、比較的安価なフレームを採用しました。
このフレームはスペーサーを入れられず、写真とガラスが直接接触しているため、保存面では理想的ではありません。しかし、展示のコンセプトと予算のバランスを考えると、妥当な選択だったと思います。
③ フェイスマウント
写真をアクリル板に直接接着し、一体化させます。
この一体化した作品をフレームから少し離して設置することで、現代的で洗練された印象を与えます。
アンフォルメル中川村美術館での展示では、このタイプの個人所有作品「Kusho #1 2006」を1点展示しました。私は作品制作を始めた頃、全ての作品をこの方式でフレーミングしていました。
しかし、この方法には保存性の問題があります。
アクリル表面の清掃時に傷がつきやすい
経年変化により、アクリルと写真の間の粘着シートに問題が生じる可能性がある
ギャラリーとコレクターとの契約上、フレームに問題が生じた場合は再制作の責任があります。実際に、粘着シートの色変化により2回ほど再制作・納品した経験があります。
これらの問題から、現在はこのフレーミング方法を使用していません。
④窓抜きマット付きフレーム
オーバーマット付きフレームは、伝統的で一般的な額装方法です。
作品の周りに窓抜きされたマットを配置し、その上からガラスやアクリル板で覆います。このマットは作品とガラスの間に空間を作り、直接の接触を防ぐとともに、作品を視覚的に引き立たせる役割を果たします。
東京のブリッツギャラリーではギャラリー所有のフレームを使用しました。
高遠美術館では20年以上前に購入したFUJICOLORのフレームを活用しました。このフレームはシンプルで上質なため長期使用に適しています。
オーバーマットの交換だけで再利用でき、柔軟性があり様々な展示に対応できます。
オーバーマットはPGIに依頼しました。
長年の実績を持つPGIは、オーダーのやり取りがスムーズで、仕上がりも高品質でした。
オーバーマットに関しては、世界堂もよさそうでした。
額の大きさに対するプリントの大きさ、窓の位置についてはPGIのこのサイトを参考にしました。
このフレームを前回使用したのは、チベット文化圏スピティの写真展でした。
コダクロームで撮影
チバクロームプリントで仕上げ
アクリルにドライマウント
平面性が保たれ、色彩も劣化せず、美しい状態で保存されていました。
適切なプリント方法とマウント技術の選択が作品の長期的な保存と品質維持に大きく貢献することを実感しました。
ターポリン
Light Sculpture #22は、450 cm幅の大型作品で、今回初めて展示の機会を得ました。
オリジナルは3分割されており、UVプリントまたは転写方式のプリントを使用しています。
作品が大きく表面にアクリルを設置できないため、プリントがむき出しになっても表面が傷つかないプリントを採用しています。
アルミに昇華転写できる業者。ジェットグラフ株式会社、Blazing editions
UVプリントできる業者。FLATLABO、 Laumont
作品の制作過程の記事はこちら。
日本での見積もりでは、フレームを含めると100万円を超える金額となりました。予算の制約から、代替の展示方法を探ることにしました。
ターポリンという素材に着目しました。これは主に屋外広告や看板に使用される安価で丈夫な合成素材です。
美術館展示用の大型作品にも活用できる可能性があり、特に5メートル幅の1枚プリントが可能な点に魅力を感じました。
初めは屋外広告を制作している印刷所に何度かテストを依頼しましたが、美術館展示用の作品とは要求される品質が異なり、満足のいく結果を得られませんでした。特に暗部の階調表現に課題がありました。
アート関係のプリントにも対応しているという事でFujiartに御願いすることにしました。
Fujiartでは以下のようなプリンターを使っていました。○印
エプソンのSC-S80650というプリンターは、私が使っているP20000と同じく9色インクシステムを採用しており、色の再現性も優れています。
しかし5メートル幅のプリントを1枚で行うことはできませんでしたので、AGFAのUVプリンターを使うことにしました。Anapurna RTR3200i LED
アンフォルメル中川村美術館での展示では、会場がもともと写真展示用ではなく、展示場所の形状が複雑でライティングも固定的でした。そのため、額装したオリジナルプリントでは反射を制御できず、適切な展示が困難でした。この課題に対応するため、中川村での展示では額装を避け、ターポリンに直接プリントしたものを展示することにしました。プリンターはエプソンのSC-S80650とAGFA(アグファ)のUVプリンターの両方を使用しました。結果として、この方法により反射の問題を解決し、展示空間に適応することができました。
エプソンは発色が良く、オリジナルに近い仕上がりでしたが、暗いイメージが多く、薄手のターポリンを使用したためか、インクの量が多かったせいか平面性を保つのが難しかったです。
AGFAは画質がやや劣るものの、厚手ターポリンが使えて平面性が保たれ実用的でした。
両方を展示して比べたところ、結局AGFAの方が全体的に良い印象でした。
振り返ると、今回の展示ではすべてAGFAで制作した方がよかったかもしれません。
Fujiartは仕事の進め方がスムーズで、輸送時のトラブルにも迅速に対応してくれました。ターポリン等の大きなプリントをする際はお勧めです。
今回は依頼しませんでしたが、エプソンから紹介された東京リスマチック株式会社も対応が良く、オーダーする価値がありそうでした。
ターポリンへのプリントは作品としての展示には適さない可能性がありますが、展示会場のエントランスの大きな写真など、用途によっては有効だと感じました。
ルーズプリント展示(額装なし展示)
高遠美術館での展示では、予算が非常に限られていましたが、オリジナルの大きさで作品を展示したいという意図がありました。そこで、ルーズプリント展示、つまり額装なしの展示方法を採用し、プリントをそのまま壁に鋲で止めることにしました。
この方法では、フレームに入った上質な感じは得られませんが、大きな写真をオリジナルの画質のまま鑑賞してもらえるという利点があります。また、写真の前にアクリル等の余計なものがないため、作品をより直接的に体験できます。
ただし、この展示方法にはいくつかの制限があります。コレクターに所有してもらったり、他の場所へ移動させたりするのは難しく、主に短期間の展示に適しています。さらに、別の場所でのプリントの再利用は難しく、実質的に使い捨てになってしまいます。
大サイズプリント
通常は自身のエプソンP 20000でプリントしていますが、今回は日本でのプリントが必要となりました。エプソンのショールームで、自分で色を確認しながらプリントできるサービスがあることを知り、このサービスを利用することにしました。
150 × 200センチの大型プリントを含む、大小様々な大量のプリントを、色確認をしながら二日間で完了することができました。さらに、最新のプリンターを使用する機会も得られ、結果的にこちらでプリントして良かったと感じています。
このサービスの利点は以下の通りです:
エプソンのエンジニアに直接相談できる
時間単位でプリンターを借りられる
自前の用紙を持ち込んで使用できる
外注よりもかなり安価にプリントできる
これらの理由から、大きなプリントを行う際はこのサービスの利用をお勧めします。普段感じている疑問を解決し、最新の機器を使用しながら、コスト効率よくプリントできる良い機会となりました。
額縁屋「タクラマカン」
アンフォルメル中川村美術館の近くにある額装屋「タクラマカン」は、南信地方では有名な額装屋だそうです。
しかし、SNSやウェブサイトを全く運営していないため、ネット上で情報を見つけるのは困難です。
店を訪れてみると、ギャラリーを併設しており、展示が行われていました。驚いたのは、ギャラリーとしての広報活動を全くしていないにもかかわらず、多くの人が訪れ、作品がよく売れていることでした。
オーナーはお得意さんの仕事で忙しいらしく、SNSでの発信には全く興味がないようです。このようなマイペースな仕事の仕方も一つの形だと感じました。
このような職人的なフレーム制作工房が日本中に存在しているのではないかと思います。
ネット上での存在感は薄くても、地域に根ざした確かな技術と顧客基盤を持つ工房が、まだまだ多く残っているのかもしれません。
今回の展示で中川村在住の方が私の作品を購入してくださいました。
その方は「タクラマカン」でカスタムフレームを注文し、完成品の写真を送ってくれました。
コレクターと額装屋が相談しながら、作品のイメージに合ったフレームをカスタムで作る過程は、作家として喜ばしいものです。
地域の熟練職人とコレクターが直接やり取りして仕上げるフレームには、大量生産では得られない独特の魅力があります。
まとめ
今回の展示を通じて、様々な額装や展示方法を試す機会に恵まれ、とても良い経験になりました。
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