リンク薬局ができるまで (10)

【目指す薬局】

「稲田さんじゃないと無理だと思って…」

訪看さんからの依頼だ。月並みな言葉だ。

紹介状には「易怒性あり」と記載されており、
看護師さんも手を焼いているようだ。

うちの薬局にはいわゆる「普通の患者さん」の紹介は来ない。
訳ありの患者さんが多い。

ただ、うちは依頼されれば基本的に断らない薬局だ。

PCAポンプが必要だったり、
中心静脈栄養が必要な患者さん以外は引き受けている。

「僕が引き受けないとその患者さん、途方に暮れるんだろうな?」

そんなことを思うと断るという選択肢は選べない。
断れる程、経営的に余裕があるわけでもない。

前回、下請けからの脱却を目指していると言ったが、
リンク薬局はドクター、訪問看護師さん、ケアマネさんからの紹介で、実は100%下請けだ。

内訳はだいたい
ドクター → 40%
訪問看護師さん → 40%
ケアマネさん → 20%

100%下請けと言っても、紹介元が分散していればリスクは低くなる。

門前薬局、施設在宅薬局を経験した僕なりのリスクマネジメントだ。

少し前に「薬局は顧客から感謝される機会が少ない」と書いた。

それは患者さんが困っていないから。
困っていない患者さんに薬を渡そうとするから、飲まそうとするから。

僕はそう思っている。

外来患者さんは血液検査をすれば引っ掛かるが、元気な人が多かったりもする。

訪看さんやケアマネさんから紹介される患者さんは違う。

よくこんな人が家にいるなぁ…と思わされることもしばしば。

薬が山盛り残っていて、困っていて、ポリファーマシーの教科書みたいなこともあった。

その時はお薬手帳もなく、薬袋のみで何とか調剤している薬剤を確認した。

例えばこんな処方状況だ。

A病院
ビソプロロール0.625
ニフェジピンCR20
オルメサルタンOD20
ネキシウム20
チラーヂンS25
ワーファリン
プレタール
カルデナリン
ニコランジル

エチゾラム

ブロチゾラム

Bクリニック
プルゼニド
デパス
ハルシオン
アダラートCR40
シグマート
タケプロン
バイアスピリン
プラビックス
ワーファリン
チラーヂンS12.5
メインテート0.625
オルメテックOD20
ケイキサレート
ホスレノール
レグパラ
フランドルテープ

どこから突っ込んだらいいのかわからないほど、パニック処方である。

看護師さんが手に負えないのも理解できる。

正直なことを言えば、僕にも手に負えないと思った。

紹介を受けたのは真夏だったが、寒気がして鳥肌が立った。

僕の薬学的知識、経験ではこの患者さんの身体の中で何が起こっているのかわからなかった。

「今、目の前の患者さんは生きている」

この事実だけを信じて、患者さんと接している。

背伸びをせず、顧客目線で仕事をしていれば、

自然と顧客からの感謝も集まる(ような気がする)。

今では信頼関係もできて、「易怒性あり」の患者さんも可愛いおじちゃんだ。


…恐らく、開局すればこんな患者さんが多くを占めることになるだろう。

訪問したら転倒して起き上がれなくなっている患者さんもいるだろう。

昨日まで元気だったのに朝に自宅のお風呂で冷たくなっている患者さんもいるだろう。

退院時カンファレンスで退院日が決まっているのに、

状態が悪くなって会えなくなってしまう患者さんもいるだろう。

こんな薬局を開局の段階から想定していた。

超高齢社会、多死社会において、患者さんの看取りに付き合えない薬局は難しいと思っている。

凄い薬局だなんて思わないでほしい。

リンク薬局が開局した月の売り上げは約6万円。

今考えると顔面蒼白だが、当時の僕は焦らなかった。

自分のやってることが社会的ニーズに合致している自信があったんだと思う。

若さもあった。

今では、何とか生活できるくらいは稼げるようになった。

「医療とお金は切り離して考えるべき」

とお叱りを受けるかもしれないが、残念ながらそれは困難だ。

当たり前だが、薬剤師も人間として生きている。

お金が全てではないが、お金がないと何もできない。
事業も薬局も継続できない。

ただ、3年間苦しくても、5年、10年かければ十分回収できると考えていた。

何より医療機関へのフリーアクセスの制限によって、
大手チェーン薬局と患者さんが「契約」してしまうことを懸念していた。

僕が開局を急いだ一番の理由だ。



続く


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