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初めてのタチウオ(太刀魚)釣り。ドラゴンへの道

釣りを始める前まで、東京湾のイメージはあまり良くなかった。
汚そうな、汚染されてそうな。
お台場のビーチで泳ごうとする人はいないじゃない?

その印象は、東京湾で何度か糸を垂らすうちに変わっていったが、それでもタチウオ(太刀魚)が釣れると聞いた時は驚いた。

あんな見た目がミステリアスで、巨大で、なんなら珍魚っぽい奴が、我らが海にいるのですか?

今までチャレンジしてきたアジなんかとはサイズが全く違う。
釣り上げた時の感動も桁違いに大きいだろう。
笑顔で釣り上げる自分の姿が思い浮かんだ。
いつか釣ってみたいと思った。

そして時は来た。2023年9月2日(土)朝7:30、羽田「えさ政」さんの仕立船は出港した。

船宿「えさ政」さんは、羽田空港の手前にある天空橋駅から徒歩10分弱

そう、この日も会社の釣り部の仲間20名ほどで船を借り切った。
仕立船は勿論仲間しかいないので遠足のようで楽しいし、オマツリ(隣人と糸が絡むこと)で他のお客さんに迷惑を掛ける心配がない安心感なんかもある。

船宿では、魚種ごとに船に乗り込む

そして、理由はよく分からないが、船長さんが通常の乗合船よりも優しい気がする。
船を借り切ってくれるのは大口と見做されるからなのか、下手な人もいる前提?だからなのか。
ともあれ、乗合船が特に怖いわけではないが、仕立船の船長さんはどこもとても感じが良く、親切な気がするのですよ。

今回も過去に一度お世話になったにこやかな船長の舵取りでスポットへ向かった。

行き先は横須賀を越えた走水沖・観音崎沖エリア。なんでも東京湾タチウオ釣りのメッカらしい。そこまで1時間、船を飛ばす。
であらば、横須賀など近場の船宿に集合して向かう方が手っ取り早いのだが、釣り船の集合時間は早い。
僕をはじめ数人が車ではなく電車で船宿に向かうため、始発の時間を考慮して東京から最も近い羽田の船宿を利用しているのだ。釣り部の皆さん、いつもすみません。。

道中は仲間と今日の目標数などを語り合う。
僕は10匹を目指したいが、初めての魚種でもあるので、欲を出さず5匹を最低目標とする。
と、僕の釣りの師匠であるマサくんの小学生の娘さんIちゃんが「また2匹じゃない?」と突っ込んでくる。
Iちゃんとは何度か同船していて顔馴染みなのだが、随分と現実的な指摘だ。
というのも、2匹というのは僕の海釣りデビュー戦だったアジ釣りの釣果なのだ。
彼女はそれを覚えていて「どうせ、また同じだろ」と思ったようだ。
こしゃくな。2匹は超えねば!

そうこうしているとレインボーブリッジやランドマークタワーも通り過ぎ、横須賀へ。と、にわかに釣り船が密集するエリアが見えてくる。

少なく見積もっても20隻は集まっていたと思う

湾内とはいえ広い海の中で、笑っちゃうほどビッシリとここに集まっている。本日の戦場に違いない。潮流を考慮してなのか、一旦通り過ぎ、大きく弧を描くように時計回りで釣船銀座へ向かう。

さて、そろそろ準備をしよう。

タチウオの船釣り方法は、大体以下の3種類らしい。
①天秤(テンビン):道糸(リールに巻かれる長い糸)とハリス(針と繋がった糸)の間に、天秤という仕掛け(オモリを付けられる)を用い、餌は5cmほどの短尺状の魚(この日はコノシロ)の切り身を使う方法。
②テンヤ:針とオモリが一体になった仕掛けにイワシなどを括りつけて泳がせるように釣る方法。
③ジギング:擬似餌(メタルジグ)を使う方法。

マサくんの話では、
東京は元々天秤が基本だったが、最近は関西の釣り方であるテンヤも人気とのこと。
両者の違いは釣果にあるそうで、テンヤは難易度が上がるものの、大きい個体が釣れやすいそう。
「初心者は天秤で良い」という話を聞き、僕は天秤で勝負。

なお、この「地域によって釣り方が異なる」のは、国が違うと更に変わるようで、同僚の韓国人メンバーによると、同国では、針をたくさん付けて同時に何匹も釣るのだとか。

タチウオは、チェジュ島の名物で、以前旅行した際、西帰浦(ソギポ)の市場で煌びやかにたくさん並んでいるのを見た。

西帰浦の毎日オルレ市場で売られていたタチウオたち

現地で煮付けを食べたところ、一見辛そうだったが甘辛の甘の方が強く、美味しく食べられた。

煮付けには、ぶつ切りにされたタチウオがゴロゴロと入っていた

このタチウオの甘辛煮付けは、ソウルの南大門市場も有名だ。

閑話休題。

針にコノシロの切り身を付けるが、マサくん曰く、この餌付けの良し悪しでタチウオ釣りの半分が決まるらしい。
3度縫うように巨大な針に切り身を付け、真っ直ぐになるようにする。
針の上部にケン(返し)が付いているので、最初に縫った部位がしっかり止まって良い。
準備はできた。

この日使った針。パッケージのタチウオの面構えがグロくて最高だ

「はい、どうぞ。水深は55m。天秤は45mくらいまで狙っても大丈夫」
船長の声が響く。

いざ、プレイボール。

タチウオは割と深いところに住む魚だ。
その時々でいる深さ(棚)が異なるので、魚群探知機を見て船長が伝えてくれるこの情報がとても重要になる。

先の船長の発言は、まずは海底までオモリを落とし、そこから水深45mまで餌を巻いてきてくださいよ、ということだ。

水深は、糸を見れば測ることができる。10m毎に色が変わるようになっていて、更に1m毎にマークが付いているからだ。つまり、水深が55mで45mまで巻くなら、55-45=10m分を巻けば良いわけだ。

意外と簡単だ(と思ったけれど、色々なことを考えて釣っていると、しばしば「あれ? 今、何mだったっけ?」となるw)。なお、ベテラン勢は電動リールを使っているが、素人勢は手巻きのレンタル竿だ。うん、まずは手巻きで良いよ。やってみるよ。

誘い方はいくつかあって、その時々にあったものを見つけ出すことが重要だという。

予習していたのは、釣り部部長が事前に教えてくれた以下の動画。
https://youtu.be/IfJf0msgcjE?si=HYp8PrD0oV_QSoVL

一方、出船前の船長によるレクチャーでは「慣れた人は竿を上げつつリールを巻いていくけれど難しいから、初めてならリールを一回転させて3つ数える、を繰り返してあげていく、で良いですよ」とのことだった。なるほど。

予習したものは確かに少し難しそうだったので、船長方式と混ぜる感じで臨んだ。

と、早速、竿に振動が!
明らかに魚が触れた振動。だが、タチウオ釣りは焦ってはいけない(らしい)。

タチウオという魚はその名の通り、縦に立つように泳ぐそうだ(見た目が太刀のようだ、という意味もあるそう。どちらも共感)。
グロく凶悪な面構えのこの魚は、シン・ゴジラ第2形態である蒲田くんに似ていて、鋭利な歯を持っている。

その歯でもって下からガブッ! と獲物を噛み弱らせ、またガブッといっては弱らせを繰り返し、ついぞ相手が弱りきったところ、ガブガブガブッと飲み込むらしい。
割と猟奇的かつ、ネチっこい性格だ。あまり友達にはなりたくないですね。

ともあれ、一発ガブッと来たところでアワセてしまうと、まだ本噛みではないから糸が歯に当たってプツと切れてしまうそうだ。

傷を負わされた瀕死の獲物の演技をし、弱々しくも誘いを続けなければならない。おとり捜査感、ハンパない!

が、次のガブが来ない。。

何度か繰り返すが同じ状況。
どうも僕は、一回食らった後の、息も絶え絶えなプレイが下手なようだ。
「あれ? あいつ元気じゃね? これは罠だ!」
と見破られているに違いない。

あるいは、
「は? 何なん…? キモ!」
と、ビビられているのかもしれぬ。

そんな折「来た」と隣のマサくんから静かな声が。
焦らず丁寧に上げられた糸先には、メタリックな体をしなやかに波打たせる美しい魚が。

生きているタチウオは見惚れるほどの美しさだった

さすがマサくん、早い。早すぎる。まだ始まって30分経ってないのでは?

続かねば。

しかし、続かぬ…。

誘い方をちょいちょい変える。が、以降、当たりがパッタリと途絶える。。

それどころか、オマツリを4回くらいしたかなぁ…。
隣と後ろと同時に絡むというアクロバティック絡みもあったし、釣り上げ中のマサくんに絡んじゃった時は、外す作業をしている間にバレちゃった(魚が針から逃げちゃった)もんなぁ…。
あれは意外と大きかったような…。

しかし、優しいマサくんは怒らず「海底に着いたら、まず2mくらい巻くと良いですよ」とアドバイスをくれる。
なるほど、確かにオモリの先にハリスが付いているから、早く巻かないと糸はかなり長く弛んだ状態。しかも、船も揺れ動いているわけで、海底で他の人に絡みやすくなると言うわけか。学びを得て、オマツリは減らせた。マサくん、いつもありがとう。

ただ、釣れぬは変わらず…。

と、少し離れたテンヤ組から歓声が。
Aさんが巨大な1匹を釣り上げた。
まさに、ドラゴン!
後で測ったところ130cmだったそう。大迫力だった。
(しかもAさんはその後も同サイズを2匹釣り上げ。凄すぎます)

僕と同様、割とまだビギナーで、タチウオ釣りは2回目という隣のNさんも釣れ、周りで釣れていないのは僕だけに…。

仕切り直して餌でも取り替えるか…。

と、糸を巻いたところ、なんと全く予期せぬことに、随分と小振りだが、細長い魚が掛かっているではないか!
が、待てよ、タチウオとは違うような…? アナゴ?
いや、小さいウツボだ…。

かわいいけど、ちょっと怖いウツボ

周囲も大ウケ。タチウオ釣りでウツボを釣る人は前代未聞だそうですw
興味深く見ていると通称「デスロール」と言われる恐怖のグルグル巻きを始め、ハリスはぐちゃぐちゃに(これも途中でマサくんからもらったハリスだったのだが><)。

捌くのも食べるのも怖いので、100均で買った魚掴みトングで海に帰す。あぁ、このトングを初めて使ったのが対ウツボかぁ…。いろいろなことがあるなぁ…。

さて、船は釣果が悪くなるとスポットを変えるを繰り返す。
その僅かな移動時間で、買ってきたコンビニのおにぎりを食べつつ、なぜ釣れないのだろう…と自問自答する。
皆の様子を伺いに回ってきた部長から「調子はどうですか?」と尋ねられ、
「全く見えないです…」と、つい本音が。

まずいなぁ…。
坊主(一匹も釣れないこと)は嫌だなぁ…。

「はい、どうぞ。水深65m。天秤は40mくらいまで来ても大丈夫かも。あと1時間で終わりにしましょう」
おぉ、もうそんな時間。これは本当にまずい、気合いを入れてやり直さないと。

今日、多様な誘い方を試した。
船長に言われた単に一回転巻いて待つを繰り返すやり方。
まず竿を上げ、次に上げた分だけ竿を下げ、その瞬間に糸を巻くやり方。
上記2種類の上げる幅や巻く長さを増やしたり減らしたりした。

そうそう、隣のIちゃんも何匹も釣っていた。
ゆっくり柔らかに竿を上下し、あっさり釣っていた…。
ので、その柔らか巻きも試した。

また、テンヤの釣りも真似した。
テンヤは、餌を細かく動かして誘うそうで、皆、一心不乱に願掛けをするように小刻みに動いていた。そう、海に激しく祈祷しているように見える。
なるほど、祈りが通じてAさんはドラゴンを釣れたのかしら、とか思った。

ラスト1時間。これら今までの方法をミックスしてみることにした。

わずかにしなやかに竿を上げると同時に1/4回転ほど、糸の弛みを取るように巻く。そして3秒ほど待つ、を繰り返す。

あとそう、餌のコノシロがなくなったので船長から新しいのをもらう。
ケースに20弱くらい入っていたのだが、最後の方は水分が抜けて餌がブチブチ切れ気味になっていたのだ。新しい餌は瑞々しくしなやかで見た目にも良い。

全てを一新して、40mほどまで上げて3秒待っていた時だった。

ガブッ

数時間ぶりの感触だった。

慌ててマサくんに言う。
「アタリが来た。もう40mほどだけど、誘い続けたほうが良いよね?」
「ですね。強いアタリが来るまでは誘ってください」
かなり上だけど、本当に大丈夫かしら?

ガブッ
おぉ、遂に2度目のアタリ! そしてもう一度巻いて待つと、

ガブガブガブッ!
間髪入れず、竿を強く上げ、合わせる(針を掛ける)。強い引き。
乗った!

マサくんから「焦らず巻いてください」とアドバイスを受け、ゆっくり着実に巻く。
頼む、バレないでくれ(外れないでくれ)、そして大ウツボではありませんように。

「あれ、オマツリしてません?」
突如、隣の隣から集中を切らせる声が。

すると、あれれ? 糸の引きが魚というより人間的な感じが。オマツリだったのか…。

と、少しがっかりしたところ、水面に光る魚体が。

「大塚さんのが掛かってます!」
マサくんがそう言って、3人がオマツリする糸を手繰り寄せ、タチウオを引き上げた。

割と大きな個体。そして、その口に掛かっているのは確かに僕の針だった。
逃げようと暴れて泳いでいるうちにオマツリしてしまったのだろう。

「大塚さん、ここの糸、切っちゃってください」とマサくんに言われ、タチウオの顔間近の糸を切る(なお、僕はハサミを持っていなかったので借りた。今度、買おうっと)。

タチウオを持ってみる。おぉ、デカい、そして美しい。
鱗のない、鉄のようなギラギラした見た目は確かに太刀のよう。
波打つ、透明な背鰭も美しい。
やっと釣れた。感動が押し寄せる。

初のタチウオは、ちょうど1mほどだった。嬉しかった!

が、気持ちを抑えて、そそくさと氷入りのクーラーボックスに入れる。
船では各自バケツを渡されるので、そこに魚を入れても良いのだが、特に夏はすぐにクーラーボックスで〆てしまった方が鮮度的に良いとのことだからだ。

さて、もう1匹!

針を新しいものに付け替え、すぐに投入。先ほどと同様、40m近くまで上げてくる。

ガブガブッ!
いきなり強いアタリ! これは前戯なしの本噛みか? 思い切って合わせてみる。

プツッ。
あ、糸が切れた><

「本噛みしていないと鋭利な歯で糸を切られますよ」
事前に聞いていたことが現実に起こった。

しょうもないなぁ…と反省するが、連続でアタリが来たことに自信を持った。

天秤ごと切れてしまったので、船長に新しい天秤をもらう(後で失くした分を支払う。1つ700円でした)。
(が、書いていて思ったのだが、なぜ針より遥か離れた天秤の上で糸が切れたのだろう。これはタチウオの歯の問題ではないのでは? どなたか原因が分かる方、教えてくださいmm)

もう本当に残りわずか、急いで仕掛けを作り直して再投入。

ガブッ。
また来た! 今度は落ち着け。。

ガブガブガブ!
着実に巻き、船上に釣り上げた。嘘でしょ?という感じで簡単に2匹目が釣れた。今までの5時間はなんだったのか?

今度は先ほどより小振り(俗に「ネクタイ」と呼ばれるサイズ。釣り用語、楽しい)だが、オマツリもせず、無事に釣り上げられた。

「はい、ここまでにしましょう。お疲れ様でした」
僕の初タチウオ釣りが終わった。

釣果は、Iちゃんの魔の予想通り、2匹。
それはそれで非常に悔しいのだけれど、最後の最後にコツを掴んでの2匹なので、とても気分が良かった。

次回は、最初から快調に釣れるだろう(?)

なお、この日の竿頭(同船で一番釣れた人)は、マサ師匠で12匹。流石ですね。よし、次の目標は12匹にしよう。

船は羽田へ向け、走り出した。

P.S.
帰路、小さな島を見た。
これは明治〜大正期に造られた海上要塞「海堡」の一つだ。
帰宅後に調べたところ、第3海堡は、船の座礁が多かったことから、2000年から撤去作業が始まり、魚礁などに有効活用されたとのこと。捨てる神あれば拾う神ありというか一石二鳥というか、面白いものですね。
そういえば、行きにマサくんが、数年前にも今回のスポット近くに魚礁が造られ、それもあってタチウオが年中釣れるようになったのだと言っていた。釣りは面白い。

この日はそこまで暑くなく、用意した2リットルの麦茶も1/3ほどしか飲まなかった。日焼け止めは塗っていたが、当初手袋をしていた手には塗っていなかった。途中で針が刺さって取れにくくなったりして外したのだが、見事に焼けた。

■今回お世話になった船宿さん
東京・羽田 えさ政釣船店
https://www.esamasa.jp/

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