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NewJeans日本デビューにみる、K-POPアイドルのイル活の新時代
NewJeansが日本デビュー
2024年6月21日(金)、ついにK-POP界を席巻するNewJeansが日本デビューを果たした。
NewJeansとは、2022年夏にEP『NewJeans』でデビューした5人組のガールズグループで、プロデューサーは過去にSMエンタテインメントでデザイナーとして、少女時代をはじめ多くのアイドルたちの作品に携わってきたミンヒジン氏である。
デビュー以前から、ミンヒジン氏の手がけるグループとして注目を集めていたが、前述のEP『NewJeans』に収録された『Attention』や、その後2022年の年末に発表された『Ditto』はK-POP界にパラダイムシフトを起こし、以降のトレンドに多大なる影響を与えた。
NewJeansイルデはまさかの……
そんなNewJeansの日本デビュー曲だが、6月17日にカップリングの『Right Now』のMVが公開、そして6月21日に『Supernatural』のMVが公開された。
そこには大きな驚きがあった。それは両曲ともに歌詞が英語と韓国語中心で、日本語の割合が非常に少なかったことだ。従来のK-POPアイドルの日本活動曲は当然のように日本語と英語によって構成されており、韓国語は一部アクセント的な使用に限られていた。まさにイル活(*1)新時代の幕開けである。
(*1 韓国語で「日本=イルボン」であり、K-POPファンの間では日本活動のことを「イル活」、同様に、日本デビューのことを「イルデ」と呼ぶ。)
この記事ではK-POPアイドルにおけるイル活の歴史と現在、そして今後の展望について考えてみる。
イル活の歴史
イル活の歴史においては 「山本浄邦, 『K-POP現代史-韓国大衆音楽の誕生からBTSまで』, ちくま新書, 2023」に詳しくまとめられているので、これを参照しながら振り返ろうと思う。
1998年~ S.E.S.
私が調べたところでは初めて日本デビューをしたK-POPアイドルは、K-POPヨジャグル(=女性グループ)の始祖であるS.E.S.のようだ。しかし、S.E.S.のイル活は成功とは言い難かったようで、山本は「日本語で歌っているにもかかわらず、トークができなかった」(前掲書, p188)という要因をあげている。
2001年~ BoA
S.E.S.の日本活動の反省を受け、BoAの日本デビューには徹底した現地化戦略がとられ、その結果、日本語で歌い、日本語でトークする「J-POPの歌手」として日本で受け入れられた。(前掲書, p191)
第一次K-POPブーム
その後、東方神起、少女時代、KARAをはじめとした、第二世代のK-POPグループの活躍により、K-POPブームが訪れた。
「第二世代のアーティストはK-POPを前面に出して日本に進出した」(前掲書, p192)とあるように、この時代からはBoAとは違い、韓国のアーティストとしての受容がなされるようになった。
TWICEの登場ー日本人メンバーの時代
2015年、JYPエンターテインメントからTWICEがデビューした。このグループの特徴は9人のメンバー中3人が日本人であることだ。それ以前にも韓国でアイドルとして活動していた人物はいたが、3分の1が日本人メンバーによって構成されるグループはTWICEが初めてだった。
そしてTWICEは韓国で爆発的ヒットを果たし、2017年『#TWICE』で日本デビューをし、『TT-Japanse.ver』でその年の紅白歌合戦にも出場した。その後、2018,19,22年にも出場。2023年には日本人メンバーによって構成されたMISAMOが初出場を果たした。
日本人メンバーがいることは、K-POPの一大消費国である日本でのプロモーションにおいて、言語によるコミュニケーションや親近感の点において有利に働くこともあり、以降、日本人メンバーを擁するグループが続々とデビューするようになった。
新時代のイル活
冒頭で述べたように、NewJeansのイルデはイル活新時代の幕開けをかんじさせるものとなったが、その要因は一体何なのか。
韓国語での日本活動
新時代のイル活のキーワードはまさに「韓国語」であるだろう。それを象徴するグループがNewJeansのほかにもう一組いる。aespaだ。
aespaはSMエンタテインメント所属の4人組ガールズグループで、2020年にデビューし、2024年6月時点でのK-POP女性グループのアルバム初動売り上げ枚数歴代1位(169万枚)を誇る。こちらは、来たる7月3日に日本デビューをする。
従来、日本進出の際には日本向けのアルバムをひっさげ日本デビューをし、そのプロモーションとして音楽番組やバラエティに出演するという流れが一般的であったが、この2グループは日本デビュー以前から、韓国語の楽曲で日本活動をしていた。
aespaは2023年8月に東京ドーム2days 4公演をしており、応募総数はなんと92万であったという。(https://www.oricon.co.jp/news/2244657/full/ )
また、同年にはミュージックステーション(テレビ朝日)やCDTV ライブ!ライブ!(TBS)にも出演している。
NewJeansについては、なんといっても2023年の紅白歌合戦に特別枠での出場を果たしている。また、LOTTE「イタガム」や花王「エッセンシャル」の広告なども担当しており、CM等での露出もあった。
日本語曲はいらない?
NewJeansやaespaが韓国語でのイル活を展開する中、IVEやKep1erのように従来型のイル活を展開する人気グループも存在する。
従来型のイル活で用意される楽曲には
①韓国でリリースされた楽曲の日本語バージョン
②日本向けに制作された日本オリジナル楽曲
の2パターンが存在するが、それぞれ批判がなされている。
①では、「韓国語バージョンに聴きなれているため違和感を感じる」ことや、「原曲のリズムに合わせるために不自然な日本語が使用されている」といった内容が、②ではJ-POPの消費者層を想定して楽曲が製作されるため、そもそもK-POPファンにはウケが悪いといった内容の批判が散見される。
それを踏まえると、上記で示した新時代のイル活はそういったファン層にウケていると思われる。
ローカライズされたK-POP型アイドルの登場
さらに、新時代のイル活が受け入れられる背景として、日本向けにローカライズされたK-POP型のアイドルグループが登場したことがあげられる。
その筆頭はNiziU、&TEAM、JO1などである。これらのグループの共通点は、日本を拠点として日本人向けに、K-POPの様式にのっとった日本語楽曲をリリースし、メンバーの多くが日本人であることである。また、カムバック制度やヨントン(ファンとのビデオ通話)などといったK-POPアイドルの特徴的な活動スタイルも導入している。
従来型のイル活ではこれらのグループが行っている活動との差別化が図りにくくなっているとも考えられる。
洋楽としてのK-POP
K-POPは現在も日本がその一大消費国であることに変わりはないが、アジアを超え欧米圏でも人気を拡大しつつある。そのなかで日本人にとってのK-POPも洋楽としての認識が強くなっているのではないかと感じる。
従来型のイル活においてその楽曲はK-POPとして、韓国の音楽として受容されていたものの、日本向けの楽曲を日本語で歌唱し、実態としてはかなり日本に迎合しているものであった。それに対して、新時代のイル活においてその楽曲は、洋楽と同じように、海外の音楽として受容されていると考えられる。英語圏のアーティストが日本のテレビで英語で歌唱するように、韓国のアーティストも韓国語で歌唱するのである。
これからのイル活の展望
以上、K-POPアイドルのイル活のこれまでと現在についてみてきたが、果たしてこれからのイル活はどのような形をとっていくのだろうか。
個人的には、やはりK-POPの世界的な人気の拡大や日本でのK-POPの受容のされ方の変化によって、新時代のイル活と呼んできた新しい形のイル活を展開するグループは増えていくのではないかと思う。一方で、K-POPの消費における日本の地位はすぐに揺らぐものではなく、多くのグループ(特に中小事務所に所属するグループ)にとっては従来型のイル活を展開するメリットが失われないだろう。
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