谷尻まりあが細胞プロミネンスを歌った

 2018年3月25日、渋谷で行われた上月せれなのライブにゲスト出演した谷尻まりあは、3曲めに細胞プロミネンスを披露した。細胞プロミネンスは谷尻が以前所属したアイドルグループ、アーススタードリームの代表曲のひとつであった。この曲は正確にいうと、アーススターエンターテイメントが製作したアニメ、ミリオンドールの劇中歌で、彼女たちのオリジナル曲ではない。が、オリジナルの歌い手である声優の伊藤美来がこの曲を歌うことはもはやなく、アーススタードリームがライブのたびに披露する曲であるがため、細胞プロミネンスはアーススタードリームの曲であるという認識がファンにはあった。現にアーススタードリームのシングルCD「開運招福炎天歌」のカップリング、「アーススター神曲メドレー」の中でも、メドレーの最後を締めくくる曲となっている。
 細胞プロミネンスはアーススタードリームの曲であった。いや、さらにいうと細胞プロミネンスはアーススタードリームのメンバー、中島由貴の曲であった。

 アーススタードリームが披露する細胞プロミネンスにはオリジナルにはない、ある特徴がある。細胞プロミネンスはライブの締めとして、行われるのが恒例である。よって歌われる前に中島が「ラストぉーーー!!細胞プロミネンス」とコールしてからはじまる。必然的にファンにとって細胞プロミネンスは中島の曲というイメージが強くあった。
 極めつけは、2017年12月29日に行われたアーススタードリームの活動休止ライブである。予定では、この日のライブに、前日ひと足早くに卒業した中島の出番の予定はなかった。それが、ライブの終盤で急遽中島は飛び入り参加を行った。そのタイミングがちょうど細胞プロミネンスの披露時であり、「ラストぉーーー!!細胞プロミネンス」というコールとともに中島は電撃的に現れた。まさに細胞プロミネンスは中島の曲であった。

 アーススタードリームが活動休止し、2018年2月17日に行われた中島由貴のソロライブ。彼女の新たな門出となるライブで細胞プロミネンスは披露されることはなかった。
 この日の中島由貴のソロライブはアーススタードリームの頃のライブと様相は一変していた。まず、客席がすべて座席つきであり、激しいコールやジャンプなどが禁止になっていた。このような行為が暗黙の了解とされ、その激しいノリも文化のひとつであったアーススタードリームの頃とは空気が違っていた。曲目もアーススタードリーム時代に多く披露されていたものはなく、カバー曲を中心に行われた。そして、細胞プロミネンスは披露されなかった。
 中島のソロライブはアーススタードリームの色の延長上にあるライブではなく、新たな色をもった新たなファンのためのライブだった。彼女は新たな門出にそちらの道を選んだ。アーススタードリームがなくなり、細胞プロミネンスを継ぐと思われた中島が、それを継ぐことはなかった。

 アーススタードリームの元メンバー高尾奏音と小出ひかるによるユニット「ひかのん」。このユニットも小出ひかるの事務所退所により解散することが決まっていた。2018年3月11日ひかのんのラストライブ、このライブは中島のライブとは異なり、ノリも曲目もアーススタードリームとしての色が濃いライブとなっていた。ファンも感じていた。恐らくこれがアーススタードリームの匂いを残した最後のライブだと。
 このライブで細胞プロミネンスは披露された。小出と高尾の「ラストぉーーーー!!細胞プロミネンス」のコールとともに。

 ひかのんのラストライブで細胞プロミネンスについての物語は終わると思っていた。
 しかし、前述の通り、谷尻まりあが細胞プロミネンスを披露した。
 中島や高尾や小出よりも早くアーススターエンターテイメントを離れ、アーススターに関係する曲はもう二度と歌わないであろうと思っていた谷尻が、まさかこのタイミングで披露してくれるとは思わなかった。「ラストぉーーーー!!」のコールはなかったが、曲順的にはラストの曲だった。
 ライブ終了後に私は谷尻に「細胞プロミネンスを歌ってくれてありがとう」と伝えた。谷尻は「誰も歌わなくなっちゃうから私が歌おうと思った」と応えた。まさか、谷尻もファンである自分と同じ気持ちを細胞プロミネンスにもっているとは思わなかった。

 細胞プロミネンスは不思議な継承の運命をもった曲である。伊藤→中島→ひかのん→谷尻と継承されてきた。谷尻も声優としての事務所所属が決まり、フリーとしての活動を終えるため、今後、谷尻が細胞プロミネンスを披露することはまずなくなるだろうと予想される。そして、細胞プロミネンスを次に継承する人は思い浮かばない。しかし、奇妙な継承の運命をもった細胞プロミネンスは、また予想もつかない誰かに継承されていくのかもしれない。

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