見出し画像

MONO FONTANAのレコード

イギリスにはトーマスクックという旅行会社がある。トーマスクックは鉄道の時刻表もあるのでイギリスに住んだことのあるひとは本屋で見たことがあるのではないだろうか。会社の設立者のトーマスクックはプロテスタントの一派、バプディストの伝道師で当時彼は宗教柄禁酒運動に打ち込んでいたんだけど、1841年にイギリスのレスターシャー州で開催された禁酒運動に数多くの信徒を送り込むため、列車の切符を一括手配して当時高価だった鉄道を割安で乗れる仕組みを考え出し、これをきっかけに一般の団体旅行、いわゆるツアーが生まれた。(昔はイギリスといえどもお酒には悪いイメージがあったのですね)。

トーマスクックはその後ヨーロッパや近東、北アフリカのガイドブックをつくり、1851年のロンドン万博では600万人のうちの4%、24万人の入場者がトーマスクックのツアーの参加者だった。

それまで旅行というのは、貴族や一部のお金持ちしか許されない娯楽であったが、産業革命による経済発展とトーマスクックのツアーにより労働者階級でも旅行を楽しむことができるようになった。

そして1855年のパリ万博、1869年の大陸横断鉄道や同年のスエズ運河開通により海外旅行のツアーも手がけるようになる。

しかし今まで旅行とは縁のなかったイギリスの労働者階級のひとたちがいきなりパリに来て観光旅行をしても文化の違いやマナーを知っているはずもなく、フランス人にはすこぶる不評で、イギリス人はなんてマナーの悪いひとたちばかりなんだとみんなから文句を言われていたらしい。

考えてみれば日本も高度経済成長で一般市民でも海外旅行ができるようになったとき、旅の恥はかき捨てと言わんばかりに豪遊し、アメリカとの貿易摩擦や、土地や会社の買い占めも相まってジャパンバッシングというものが盛大に行われていたのを覚えている。街の通りにはJAPと書かれた日本車が置かれていて、1ドルを払うと大ハンマーでその車を潰してもいいという遊びも流行った。僕だって20年以上前は海外で恥ずかしいことをしたなという経験がいくつかある。

そういうことを考えると中国人が日本に来てマナーが悪いとか、土地を買い占めているとか言われるのも結局日本も通ってきた道なんだよね。なので現在経済発展しているインドなんかが次の、マナーを知らない観光客を世界に送り込む可能性があるし、いつかはアフリカもそう言われるかもしれない。

余談だが昔オランダに行ったときに、アメリカ人や日本人が、オランダは大麻が合法だからと両手に大麻タバコを何本も持ってバンバン吸っている人を見たことがある。しかし大麻が合法のオランダ人はそんなことはまずしない。違法な国から来た人が海外の知らない土地でしかも合法だからとついタガが外れてやるのだろう。お酒が違法の国から日本に来てうれしくなってお酒の一気飲みをするようなものである。しかし昔はコーヒーショップ(オランダの大麻屋さん)にアメリカ人が来たらみんな「すげー!」とびっくりしてたのに、最近ではアメリカの一部の州も大麻が合法になったので、コーヒーショップの大麻のメニューを見ても、これだけしか種類がないのか、とがっかりして帰る人がいるらしい。その人たちに悪気はないんだろうけど、ネットで見たそれを説明するオランダ人のショップスタッフの目は少し寂しそうに見えた。

さて、今日のおススメのレコードは、アルゼンチン音響派と言われるNONO FONTANAの1998年に発表されたアルバムで、今回が初めてのレコードでのリリースとなる。このレコードがディスクユニオンの壁に掛けられてたとき、どんな音楽だろうとSpotifyで検索しようとしたらなぜかこのアルバムの中の一曲が僕のプレイリストに入ってたので迷わず手を伸ばしてこのレコードを買った。アルバムジャケットに貼ってあるステッカーには山本精一のこんな言葉が書いてある。

"本作は真の歴史的名盤なので、一生に一度は体感してほしいです。こんな音楽は Mono Fontana 以外絶対作れません"


そしてマスタリングには世界的に有名な札幌のハウス・テクノ系のアーティスト、Kuniyuki Takahashiのクレジットが記されてある。

音的にはフィールドレコーディングされた環境音と、世界の多彩な楽器が織り交ぜられた映画のサウンドトラックのような楽曲群で、一曲一曲聴き進めるうちにいろんな国へ旅に出ているかのような感覚に陥り、丁寧に処理された音が一音いちおん空間をつくっている。目を瞑ってこのアルバムを聴くとふっと違う場所に平行移動したような気持ちにさせられた。

Spotifyでは全曲聞けるのでぜひ聞いてみてください。

YouTubeにはコトリンゴが南米ツアーをやったときにMONO FONTANAとセッションしたときのライブ動画があった。

コトリンゴと言えばこの世界の片隅にという映画のエンディングテーマをやってたことぐらいしか知らないんだけど、実際アルゼンチンに行ってこのライブを観てみたいなと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?