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【本】脱GHQ史観の経済学

田中秀臣さんの「脱GHQ史観の経済学」の読後感想です。

本書の主要テーマは
“日本における緊縮財政、もっといってしまえば日本社会の脆弱化、衰退化をもたらす経済思想を、特に占領期のGHQ(連合国最高司令部)と当時の日本の経済学者たちとの関係から考察する”(*1,p7)
ことだそうです。

経済、歴史、安全保障、時事問題を学べ、教科書で学んだはずの歴史とは異なる史実を学ぶことが出来る書籍です。

更に言えば、日本を脆弱化させる動きをしている「思想」や「組織」を見分けるリトマス試験紙となる知識を得ることが出来る書籍とも言えると思います。

「GHQは農地解放など日本にとって良いことをした」という認識でしたが、本書を読んで、認識を改めました。

第一章ではGHQの経済に関する検閲を通じて、マクロ経済の観点を中心に紹介されています。GHQの経済弱体化に対して、米国本国からストップがかけられた、という点も指摘されています。

第二章では石橋湛山を中心に戦前の「リフレ派」について取り上げています。石橋湛山の経済思想は「人中心」であることは、ケインズ学会でも田中秀臣さんが述べられていました(*2)

以前読んだ論文(*3)によると、1930年台の「大恐慌」から「高橋財政」を通じて、世界各国の中でも早期に恐慌から脱出したとして、海外では高い評価をされているそうです。
「高橋財政」と呼ばれていますが、金本位制からの離脱、国債の日銀直接引受、いずれも貨幣の減価を伴い金融政策としての面があることも忘れてはならないでしょう。

海外で評価されている戦前のリフレ政策が、
‘『日本銀行百年史』という日本銀行の“正史”では、戦前のハイパーインフレーションは、高橋是清蔵相の下での国債の直接引き受けに始まるとし、その危険性が強調されている。‘(*1,p68)
ことに疑問を持っていましたが、その答えが本書に有りました。

第三章では、日本国憲法、安保法制の話題を通じて、日本の脆弱化、衰退化につながる言動を取り上げ、日本の安全保障について論じています。

第四章では、C国の人権弾圧などを取り上げ、「人中心」の対極にある思想とGHQの政策との共通点を示されます。

第五章では、日本学術会議の問題を取り上げ、とある公安監視対象の団体が、日本学術会議に対して大きな影響力を持っていることなどが示されます。
日本学術会議は東日本大震災で苦しむ国民に更に重荷を課す復興増税を提案するなど、日本の財務省と見間違うほどの緊縮経済政策を提案していました。


こんなニュースがあります。
「首相 財政健全化へ具体的検討進める考え コロナ対策で赤字拡大」(*4)

新型コロナ禍で疲弊する国民生活を更に困窮化させかねない「財政健全化」の議論がされています(内閣府にも財務省からの出向者がおられるそうです)。

そんな中で、総理と経済再生担当大臣は緊縮策の家元とも言える財務省の言いなりにはならないと取れる発言をされています。

” 菅総理大臣は「この内閣では、経済あっての財政という考え方で、成長志向の政策を進めるとともに、財政健全化の旗を降ろさず、これまでの改革努力を続けていく」“(*4)

” 西村経済再生担当大臣は、記者会見で「今は、財政のことを気にかけることなく、まずは必要な新型コロナウイルス対策をしっかり講じていくことが何より大事だ。あらゆる政策を総動員して、事業と雇用、生活を守り抜いていく」“(*4)


テレビや新聞を真面目に読むほど、残念な経済思想に染まってしまう日本の現状。
それに対する「ワクチン」「解毒剤」として本書は有用だと思います。

日銀審議員になられた野口旭さんによれば
” 一般社会の支配的な認識モデルは、専門世界におけるそれとは根本的に異なっている。その場合、専門家が果たすべき最も重要な役割は、一般社会に向けた説得あるいは啓蒙である。“(*5)
そうです。

専門家の啓蒙の書を、GWに読まれてはいかがでしょうか^_^

(*1)脱GHQ史観の経済学 エコノミストはいまでもマッカーサーに支配されている(著:田中秀臣)
https://amzn.to/2QwzcMj

既にKindle版も出ています。
https://amzn.to/3eG2tMh

以下は(*2)〜(*5)の出典のみです。ご覧になりたい方、応援しても良い方は、お願いします。

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