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本音

 じゃあいおうか? ほんとうに聞きたいの? そんなに聞きたいのならいってあげるよ。どうして彼と別れないかってそれゃあ、セックスがいいに決まってるからじゃん。あなたは彼より全然よくないしイかないしただわたしで遊んでいるだけでそれを勝手に俺が支配したみたいな口ぶりでいってうんそうだねってわたしもそうじゃないけれどそうだよってあなただけだよって優しく女神のような声でいっているけれどいやいや勃ちもしないし精子もでないのにそんな中途半端なことってないしわたしのほうがいつも悪いみたいな口調でいうのってはっきりいってすごく傷ついているし泣けてくるけれど我慢してつきあってあげてることを少しは察しろよ。
「なんで彼と別れないんだよ。お前を俺だけのものにしたい。もう我慢できない。別れて」
 はぁ? という顔をしたはずだけれど部屋が暗いので気がついてはいないだろう。頭の中では一気に長文が浮かび、もうこれはいっそいますぐにでも記録をしたくてパソコンのキーを叩きたくて仕方がなくなる。
「あ、うーん……」
 さっきおもい描いた長文をいえばこの曖昧な関係は終わるだろう。終わらせたほうがいいのだろうか。けれど、友達のいないわたしにとってこの男はその点においては金がないだけで満点で車に乗れないわたしにとってひどく都合がいいし、シャンプーだってしてくれるし飯だっていつも半額になった弁当だけれど食わしてくれる。
「いつかね」
 いつかねってなんだと自分でいっておきながら笑いが込み上げる。わからないけど、いつかきっと別れはくるよ。そう付けたし汗をかいていてひどく不快だけれど男の機能を喪失した男の背中に腕を回した。
 わたしはいつも『ひとり』とは付きあうことができない。それ浮気じゃね? というひと、いやいやそんなに器用じゃないしというひとが大多数だろうが、わたしは頭がいかれているのかなんにんでも同時に付きあうことができてしまう。器用でもなんでもない。ただ、そのひとにはそのひとのいいところがあってそのひとといるときだけはその男だけを好きだしみているし他の男のことなどまるでなかったことになっている。だから浮気でもなんでもないっておもうのはわたしだけのわがままなのだろうか。独占したいとか束縛したいとかそういっているひとのほうがおかしいとおもう。ひとの心はみえない。外からも中からも。自分次第。コントロールはいつも自分なのだ。誰がなにをいおうが知ったことではない。
「嫉妬するんだよな、」
 お前がさ、とまた男が喋りだす。あーだーこーだと。わたしはけれどどうでもよくて右から左に声が移動をしていく。明日ってなにか予定あったっけ? あ、そうだ。マツキヨいって洗顔かってこよ。寿司食いてーな。鰻でもいいな。てゆうか腹へった。
「お腹空かない?」
 どうでもいい話はまだつづきそうだったのでそこで合いの手を入れる。
「へっ?」
 男はまだ俺さ、喋ってるじゃん的な声をあげる。
「へっ? じゃなくて。お腹すいた。寿司食べたいよ。寿司が」
「てゆうかこんな時間に? 11時だぞ。コンビニにあるかな?」
「あー、手巻きならあるんじゃない?」
 なんでまたこんな時間に、といって男がしぶしぶと立ち上がる。そして電気のスイッチを押しパチパチっと蛍光灯のあかりが目の中に飛び込んでくる。まぶしいとわたしは小声でささやく。
 そこに立っているのは誰だろう。腹の出たいやにでかい図体の男。

 あなたは誰なの? わたしは? だれ? 

「ほらいくぞ。着替えて」
 あ、うんと微笑みよいしょと立ち上がる。わっ、クラッとしてよろける。立ちくらみだよ。大丈夫かと心配され大丈夫だとまた笑う。なんでこんなに愛想よくしてるんだろう。わたしはいったい誰だったっけ。もうわけがわからない。死んでしまいたくなり、そのままその場で無言の涙を流した。

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