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さようなら?

 来週の土曜ね、絶対に空けといてよ。なんで? だって。なおちゃん日曜誕生日じゃん。
 そんな会話をしたあとで彼はあたしより酒ラブなので飲み放題付きのホテルを予約した。朝夕バイキング温泉つき某ホテルに一泊二日。毎年 ーといってもこれで5回めの誕生日ー プレゼントにぐうの音も出ないほどに悩んでけれど結局酒を買い小さくてあまりあまくないケーキをという習わしになっていてそれはまるで習慣そのもののようで今年はなにか違うことをしかったのだ。別にどこでもいいのだ。本当は。酒が飲めれば。あるいは一緒に眠れるのであれば。どこだって。けれどそれひどくあたしの心を浮き立てるものになった。早く週末にならないかな。そればっかりでなんとか過酷な仕事でもやるれることができた。それなのに。
【チエックインが15時で夕食は17時半だから。お昼に駅に迎えにきてね】
 金曜の夜、メールをしておいた。けれどあまり遅くもないのにメールの返事はうんともすんともいわずして結果朝を迎えることになった。スマホを確認し愕然となりつい身体が身震いをした。
【ゴルフで17時ごろでもいい? 迎え】
 あたしは急いで今日とまる宿だったところにキャンセルの電話をした。しかし、当然だけれど当日のキャンセルは行かなくても払うことになっている。それは知っていたし確認事項にも書いてあったので「振込ます」といいかけたら「あ、まあ仕方がないですよ。また今度機会があればぜひいらしてください」との天からの声にホット胸をなぜ電話をきった。
 こんなやりとりがあったことなど彼は知らないし知る由も無いしなにせ勝手に予約したのはあたしだしけれどどうしてだか妙に腹が立った。 
 空けといてよっていったのに。なぜにゴルフに? そのまま温泉に行っても疲れているのにさらに疲れるじゃないの。運転はあなただし。
 どうしていいのかまるでわからない。彼とのあれやこれやのさまざまな思いでが走馬灯のように頭の中をかけてゆく。
 返事はしなかった。そうして彼もまたメールを寄越さなかった。
 ああ、もうなんだか終わりかなと悟る。そろそろやばいかもしれないとわかっていた。彼は優しいし怒ったこともないけれど喧嘩をいいたいことをいえないのも似ていてあたしたちはほとんどお互いの近況などは知らない。あたしが双子だということも。親に捨てられたということも。そうしてあたしがヘルス嬢だということも。血液型も年齢も。なにも知らずなにかを偽ってただそのときだけが心地よくなにも言葉などいらなかった。それでも。それでもあまりにも言葉が極端に少なかったのではないだろうか。きちんと前もって予定をいってくれていたらこのようなやぶれかぶれなことにはならなで済んだはずなのに。
 あたしは彼を失ったのだろうか。
 もう彼の胸におさまることはないのだろうか。こんな些細な喧嘩みたいなことで彼を失うのだったら彼はいったいどう思っているのだろう。本音はいなくなってホットするのかもしれないしせいせいするのかもしれない。だから彼の要望にこたえたいつもりでいるのにメールすらない。
 空虚だった。彼と合わない一日の長さをやっぱりもてあました。
 くそっ。
 なんだか10月じゃない気温のおもてに出て小声で叫んでみたところでなにも状況などかわりなくただ単純に空虚だった。
 タバコが吸いたかった。
 秋の雲がゆるゆると風になびいて流れてゆく。
 冗談じゃない。
 また控えめにささやく。あたしはいったいどうしたいのだろうか。

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