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 この2ヶ月ほどずっと血が流れている。女にしかない『あれ』だ。通常なら通常の女あるいはネットでググってみると『だいたいは24~28日周期に来ます。5日~8日間くらいあります。個人差はありますがその間に不正出血などがあるような場合は婦人科に行きましょう』
 ですよね〜。と、ひとりごちるも、いやいやまてよ。2ヶ月もまるで2日目くらいの量の血が出ているんだけれど、これっていつのタイミングで婦人科に行けばいいのだろう? と、血の通ってない頭と子宮で考える。
 血がひどく流れすぎているのでときおり目の前がふっと白くなるときもあればふらっとあれ? 今地震来た? みたいな揺れを感じることもある。
 もともとが生理不順なので、まあ疲れでしょうまあストレスでしょうまあそのうち止まるでしょう。と、軽い気持ちでいたし、止まるでしょうのとき、あ、電気代払ってないや止まるでしょ?これ。なんてついでのよう気がついてコンビニに行ったけれど婦人科にはまだ行ってはいない。いくばくかの恐怖と不安に苛まれつつもなにかと用事があったりして婦人科の門を叩けないでいる。
「水道から出る水じゃないんだしそのうち止まるわよ」女友達にこうでこうでこんな調子なのよ。と、相談をしたらそんなおちゃらけたこたえが返ってきて笑うに笑えずけれど、まあそうかもねとあたしはけけけと笑う。『あれ』が水道水のように出ていたらまずもって死ぬんじゃないのか。女友達が口にした冗談はよくよく考えたらあたしのおののきをちょっとだけ気楽にさせた。そうだよね。そんなに続くわけないよね。だって『血』だよ。出っぱなしでもまだしぶとく生きているし食欲だってあるもの。へー、そっか。でさ、聞いて、不倫相手のさ、女友達はもう『あれ』のことはすっかりどうでもよく待ってましたといわんばかりに自分に今起こっている悲劇やら喜劇あるいは惚気を機関銃のように話し出した。どうして女ってこうも喋りたがるんだろうなぁ、とあたしは何度もへーそうなんだと適当なところで相槌を打ってその度にレモンサワーに口をつけた。コップの表面にすぐ水滴がついて何度もおしぼりで拭く。その動作を5回くらいしたところで、あ、トイレと立ち上がりうなだれている女友達の後ろ姿をみてなぜだかしらないけれど物悲しくなった。トイレに行きパンツをおろすとナプキンにレバーの塊のようなものが乗っかっていた。え? なに? あたしレバー産んだの? くらいにレバーにそっくりの代物だった。ナプキンを取り替えるのを瞬時にためらう。あたしはその塊を手に取った。わお。これレバーじゃんとまたひとりごちつつ塊をトイレの中に落としそのままどうなるのか観察をした。しかしなにもならなかった。
 んーー。
 レバーを産んだのか。もう限界だ。来週にでも婦人科に行こうと決める。あたしは存外寡黙なたちなので口で喋るよりどうも子宮で話しをするたちらしい。女友達はいやに饒舌だ。
「あたしは子宮がとても饒舌で子宮でものを判断するのよ」
 けけけ。トイレの鏡にうつるあたしの顔はおそろしいほど青ざめていてまるで幽霊のようでもあり蒼白という単語がパズルのようぴったりとあてはまるような色をしていた。
 レモンサワー濃いめはもう5杯目なのに。あたしはまたけけけと笑って肩をすくめてみせる。

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