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【ネタバレあり】『#新スースク』サントラ極私的レビュー

『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』観ました。

”タランティーノ作品っぽい”という前評判に違わぬ素晴らしい出来栄えで、既に各方面から絶賛の嵐なのでとりわけ私ごときが感想をことさら口に出して言う必要もないかなと。

▶︎今作『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(以下、新スースク)は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(以下、GOTG)のような80年代の懐メロを盛り込んだ、ポップでキッチュな方向性に振ってくると思っていたのだけれど、いざ本編を見てみたら劇中に使用されている既存の楽曲群と同じくらい、音楽のジョン・マーフィーの手掛けた今作のオリジナルスコアがバリバリ立っていたというのが意外だった。

以下、個人的に印象的だったものを既存楽曲の使用箇所も織り交ぜつつ抜き出してみる。

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▶サントラ発売前にプレビュー的に公開された『So This Is the Famous Suicide Squad (from The Suicide Squad)』は、まさに『アベンジャーズ』における”例のテーマ曲”のような役割で、コード進行的にも複雑な進行ではないのだが、ならず者たちが横並びのスローモーションで歩いていくる姿をまぶたの裏に思い起こさせる猛々しさ。劇場を出る頃にはつい肩をいからせたくなる、、、そんなヴィラン大集合映画音楽らしい荒々しさを感じる素晴らしい仕上がりになっている。

▶『Approaching the Beach』いわゆるAチーム上陸の際のテーマだが、同じ音線はブラッドスポートたちの市民軍キャンプ襲撃の際にも使われている。静かに深く潜行する緊張感はさながら戦争映画のサントラのようで日常の風景にはそぐわないが、個人的にはお気に入りの一曲。

▶タスクフォースのテーマというべき『Mayhem on the Beach』やアレンジである『Breaking into Jotunheim』は前述の『So This Is the Famous Suicide Squad (from The Suicide Squad)』をさらにアップテンポにしてエレキによるリフやドラムスを強調した楽曲になるが、主に冒頭のビーチでの活躍だったり護送車をジャックする一転攻勢のシーンで流れていたこともあり、非常にアガる曲になっている。

▶『King Shark and the Clyrax (feat. Jessica Rotter)』はナナウエが巨大なアクアリウムで謎のクリオネのような生き物と出会うシーンで流れていた。ナナウエの純真さを強調するシーンだが、そこはとない悲しさを感じる。「友達がいない」と漏らしていたナナウエの感情をリードした名曲なのでぜひサントラでじっくりと聞いてみて欲しい。

▶『The Squad Fight Back』”目的は達成したから帰還せよ”というアマンダに反旗を翻して、タスクフォースXがスターロに向かって歩を進める際に流れている曲。ハーレイがブーツを履き直すところをきっかけに徐々にスピードアップしていき、チーム一丸となって通りを疾走しているシーンが印象的だった。同時に、ブラッドスポートが謎のナノテク銃をカシャカシャと組み上げていく際の曲にも直結しており、ここでアガらない男子はいないと思う。

以上、個人的なチョイスですがジョン・マーフィー作曲のサントラ盤から特に印象的だった4曲でした。(アルバム全体を買うほど興味はないという人は、上記の4曲さえ押さえておけば手軽にスースクごっこできるの請け合い)

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▼ここからは既存楽曲を集めたいわゆるコンピレーションアルバム的なサントラの感想。中にはサントラ未収録だったりするのだけど、まぁいいか…

コンピアルバムの方は冒頭でも書いた通り『GOTG』的な音楽をシーンのメインとしてしまう演出的な振り方もありつつ、全体的には歌詞の内容と画面上での出来事が密接にリンクする基準で選曲されているのが分かる。

そうした意味では”タランティーノ的”と言ってしまってもいいのだが、そもそもタランティーノが創作の源流としている70年代の映画、特に今作のベースとなったとされている『特攻大作戦』などの戦争映画や当時の安っぽいカメラワークによるズームインアウトの多様などから『イングロリアス・バスターズ』に近い印象を受けた。

▶『Folsom Prison Blues (Live)』冒頭のサヴァントのシーンで流れているアメリカンカントリーの帝王ジョニー・キャッシュの名曲。”殺人で服役している男が刑務所のそばを通る列車の音を聞き、後悔と絶望を想う”という歌で、サヴァントという男がいかに刑務所という空間に嫌気がさしているかを象徴した絶妙な選曲で、演じるマイケル・ルーカーの風貌も相まって枯れかけの男に焦燥も感じ取れる。ジョニーキャッシュの流れる映画にハズレはないからな(断言)

▶爆発的な速さで登場人物の半数が死に絶えた後、OPタイトルで流れるのはThe Jim Carroll Bandによる『People Who Died』。「あの人たちは死んだ」というフレーズが印象的な少年少女の早すぎる死を嘆く歌なのだが、背景はベトナム戦争といったアメリカの悲惨な現状が暗喩されている。そんな曲を冒頭でブッ込むあたり、ガン監督の毒っ気を感じ取れるものの、暗い陰鬱な内容を明るくポップに歌い上げる様はいかにも今回のスースクの雰囲気にぴったりなナンバーだ。(残念ながら『People Who Died』はサントラには未収録)

余談になるが、この曲はジェームズ・ガンが脚本を手掛けザック・スナイダーが監督を務めた映画『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004) のEDでも使用されている。

▶『Sucker’s Prayer』はブラッドスポートが刑務所で掃除に励むシーンで流れている曲。歌詞的には「誰かを愛したいけど愛し方が分からない」「ずっと孤独で落ち込んでしまう」と、実は優しい心を持ちながらもヴィランであることから抜け出せずにいる人柄と状況を示唆する曲になっている。

▶『Whistle For The Choir』イギリスのバンド、”ザ・フラテリス”による「Costello Music」に収録された一曲。ハーレイと大統領によるひと時のロマンスのシーンで流れたかなり印象に残るポップな選曲。”勇気が無くて上手く女の子にアプローチ出来ない男の子”の心象を描いた曲とされているが、歌詞的にはハーレイにとっての”地雷”に相当するワードがいくつも含まれているのが後の展開を知っているとなお可笑しい。

このシーンが一番マーベルにおけるガンの多用した演出に近い印象を受けたし、この「新しさ」と「古さ」が絶妙に同居したフラテリスの雰囲気がいかにもガンの選曲という感じがしたし、おそらくこれまでのDCの作風で考えるとかなり珍しい。

▶『Can't Sleep』はシンカーと接触するために潜入したクラブ「天使の子猫ちゃん」で流れていた曲。歌詞としては自棄ぎみになった一人の女性が浴びるほどお酒を飲んだ挙句(おそらく)ドラッグを服用して一晩中踊り走り回るというかなり直接的に破滅願望の隠喩の含まれた曲で、打ち解け合うチームの面々など印象的なシーンだが、陽が昇ればどうなってしまうのか…という一行の行く末を示唆するような選曲になっている。

最も絵力が強かったポルカドットマンの周囲を取り囲む女性たちをカメラがグルっと半回転したのち、正面に回ったら女性たちが全員”ママ”になっているカットも印象的で、ちょうどポルカの前に立って腰を突き出している女性が”ママ”になってしまうビジュアルには若干の”近親相姦”の匂わせもあり、特徴的なシンセのアクセントも相まって不気味すぎる光景の演出に一役買っていた。

▶『Rain (from The Suicide Squad)』後述のGrandsonと ジェシー・レイエズによる共作。護送車で移送されるブラッドスポートたちの後ろのカーラジオから流れている曲かつ予告編でも大々的にフューチャーされていて、今作へのタイアップで書き下ろされた新曲なのだが、あくまでも空間BGM扱いで大きく取り上げられることがなかったのがやや残念。

曲としてはめちゃくちゃイケてるので、ぜひスースク仕様に撮影されたPVを観て欲しい。https://www.youtube.com/watch?v=vTVUAXfyGqs

▶『Just A Gigolo / I Ain’t Got Nobody (And Nobody Cares For Me) [Medley]』映画『ミスター・ノーバディ』でも使用された一曲。(まさか同じ年に2回も聞くことになるとは、、、)

内容に関しては劇中で唯一歌詞が和訳されていたので今更という感じだが、ハーレイが囚われの身になった自分自身を「誰も助けに来てくれない~♬」と自虐めいて歌っている際の一曲。そのあと実はフラッグが助けに来ていて、彼との友情は確かにあったんだ…!と確信する個人的に劇中で一番グッときた展開の前フリにもなっている訳なのだが…

やっぱりハーレイ脱出までの粗っぽくもゴージャスな立ち回り(いくつも入り口のついたホールからハーレイが銃を放り投げつつ走り出し、ドアをブチ破る瞬間を背中側から捉えたショットがめっちゃ良い)にマッチしていて良い。

▶『Hey』ピクシーズでもかなり人気の高い曲で、聖書をベースに”男女の関係” と “セックス“をテーマにしていると言われている。劇中ではミルトンのバスから降りてヨトゥンヘイムに向かう際のBGMとなっている。

「僕達は繋がっている 互いに連鎖し 束縛し合っている」というフレーズと降りしきる雨のカーテンからゆっくり姿を現すタスクフォースXの面々の姿が印象的。リンゴをかじるハーレイとそれに口角を上げて応えるフラッグのやりとりにそこはかとないエロスを感じつつも、手前で「雨って天使の潮吹きみた〜い」と発言していたハーレイのせいで若干の汚さも感じてしまう。台無しだよぉ…

▶『So Busted』Culture Abuseによる比較的新しめの曲で、同じ人生を辿るなら”愛に満たされる人生をおくるか、それとも愛を求めて後悔を残して墓に入るか”という問いかけを爽やかに歌ったこの曲。エンディング近く、ヘリの中でようやく訪れた平穏に安堵するシーンで流れてたいた。父親からの虐待に悩まされてきたブラッドスポートも恐怖症をほんの少しだけ乗り越えセバスチャンを撫でられるまでになったという代弁の一曲。最初は血みどろで始まった物語でも最後は非常にスッとした気持ちになれる、いかにもジェームズ・ガンの作品らしい選曲と締めくくりだったと思います。

”私の人生は破綻している
私の車も壊れてしまった
人生が壊れてしまった

私はただあなたに愛されたかった
君に愛されたかったんだ 君に
あなたに愛されたかった あなたに
あなたに愛されたくて あなたに
あなたに愛されたくて
あなたに愛されたくて、あなたに
君に愛されたかったんだ
私はただ、あなたに愛されたかった”

▶『Oh No!!!』『Rain』と同じくGrandsonによる一曲で、これは今作のEDと2020年のDCファンドームで初公開された特報にあたる映像で使われていた。「Oh No!」は「私のプランはめちゃくちゃになった、マジでオーノー!って感じ」のニュアンスで「こんなクソな状況を乗り越えるために図を作ってみたことなんてないわ」「だからまた盗んで嘘をつくのさ」といういかにもヴィランらしいフレーズが続いたあとに、「人生はクソ!!奴らがまともに戦うはずがない!」「先に暴力を煽動したのは奴らなのに、途端に向きを変えて沈黙しやがる!」という大衆目線でのド正論フレーズが連発。

「子ども達には希望がない」という平等な機会を奪われた子供たちを象徴するフレーズには、小児性愛のジョークで突然マーベルを解雇されたガン監督自身の贖罪の意味が込められていると思うのだが、このエンディングで流れる「Oh No!!!」にもその要素が含めていたのかも。

(それを象徴するように「新スースク」ではセリフの中に“子どもを守る””子供に手を出すのはNG!!”というメッセージが繰り返し挿入されていた)

シーンやキャラクターの状況、感情を表す手段としてのミュージックという要素を押さえつつ、今回は”観るプレイリスト”的な意味合いの強かった『GOTG』と比較して、音楽の主張は少し抑えめだった印象の今作。(個人的にはGrandsonの『Rain』や『Oh No!!』といった楽曲をしっかりとした状況で使って欲しかった不満点もありますが…)現地ブラジルのアーティストの楽曲も使うというガン監督らしい選曲のこだわりを感じた名盤でした。

繰り返しのフレーズが多い曲がいくつか見受けられる所も印象的で、ガン監督なりに音楽でのキャッチ―さを出そうとしたのかな、と。

そうした痕跡をあれこれ想像するのもまたサントラの読み解きとしては面白いところですね。

◉The Suicide Squad (Score from the Original Motion Picture Soundtrack)
ジョン・マーフィー
https://www.amazon.co.jp/Suicide-Original-Motion-Picture-Soundtrack/dp/B099HVTPPM

◉The Suicide Squad (Original Motion Picture Soundtrack) [Explicit]

https://www.amazon.co.jp/Suicide-Original-Picture-Soundtrack-Explicit/dp/B09BQCYV2L/ref=pd_sim_1/355-5276398-9724047?pd_rd_w=LTq66&pf_rd_p=88e4d8d2-c904-4e2a-be00-350ffe600c6e&pf_rd_r=EKC3R5M55SJWKHD58TQ6&pd_rd_r=5a1f4511-e9bc-4fcc-bb1a-b271b774af96&pd_rd_wg=uWmow&pd_rd_i=B09BQCYV2L&psc=1


余談【追記】いつものことですが、予告編で印象的だったのに本編では全く使われなかった楽曲を2曲分ご紹介。

『Dirty Work』(スティーリー・ダン)予告編第1弾で流れたのでかなり印象的だった一曲。内容は、自分を欲求不満のはけ口にする年上の富裕層の女性との不倫関係を歌ったもので、汚れ仕事(ウェットワーク)を請け負うスーサイドスクワッドと指揮者であるアマンダとの関係を比喩した選曲だと思われる。

映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』特報(フル尺ver.)https://www.youtube.com/watch?v=H0CasAVpLhc

”ろうそくを灯して
ドアに鍵をかけ
いつもより早くメイドを帰らせた
何度もそうしてきたように
追い詰められたルークのようだ
古いゲームのたとえだが
秘め事のばれる予感に怯えつつ
やっぱりここから帰れない

こんな情事に付き合うなんて、僕はどれだけ馬鹿だろう
汚い仕事は嫌なんだ
こんな情事に付き合うなんて、僕はどれだけ馬鹿だろう”


『Na Na Hey Hey Kiss Him Goodbye』(スティーム)予告編第2弾で使用された楽曲。(1983年のバナナラマによるカバーが一番有名かも?)「元気の出る失恋ソング」としても有名で、スポーツ関係で失格退場した選手に対して使われるなど、球技全般で定番の"煽りソング(チャント)"として使われることが多い。この曲はいかにもガンっぽい選曲だと思ったし、絶対本編でも使われると踏んでたんですが、どうやら予告編制作会社によるチョイスだったっぽいですね、残念。

曲自体は背水の陣で必”死”のミッションに参加せざるを得なくなっているタスクフォースXのメンバーの状況そのものを揶揄したような選曲でこちらも非常に相性がいい。

映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』劇場版予告編https://www.youtube.com/watch?v=xjeYjeMl_pU

”ナ・ナ・ナ・ナ・ナ・ナ・ナ・ナ,なあいいか,サヨナラだ

俺なら大事にしてやれるけど,あいつは絶対そうじゃない
だってあいつが本気なら,泣かせたりしないはずだろ?
確かにカッコいいのかも,だけどよく聞いてくれ

だったらちくしょう,さっさとあいつにキスしろよ
(キスするとこを見せてくれ)
構わないからキスをして,あいつにサヨナラしてくれよ

ナ・ナ・ナ・ナ・ナ・ナ・ナ・ナ,なあいいか,サヨナラだ”

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