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介護崩壊という遠からず絶対に避けられない不都合な現実



歯止めの効かない少子高齢化がスピードを増す日本で、今後避けられず起こる悲劇は介護崩壊である。これは予測でも何でもない、単純な算数の話だ。

だからこそ、その避けられない現実について可能な限り早いうちから認識しておく必要がある。誰しもが影響を避けることはできないが、全く受け身を取れないよりは幾分かマシな可能性があるからだ。

ついに越えてしまった介護離職超過という分水量

朝日新聞が12月3日、介護職から離職する人が働き始める人を上回る「離職超過」が2022年に起こっていたことを報じた。いうまでもなくこれは介護崩壊の分水量である。

未曾有の少子高齢化で介護崩壊へ

現在、少子化はかつての予測を大幅に前倒して進行しており、日本人の2023年の出生数は前年比5.5%減の72万9000人程度で過去最低を更新する見込みだ。また合計特殊出生率も22年の1.26からさらに下回って過去最低になるとされている。

誰が見ても分かるように、今後介護される高齢者は高齢化の進行に伴って増える一方なのに、介護する現役世代はどんどん減っていくのである。

統計局によると高齢者数は2021年の3640万人から2040年には3921万人に増え、高齢化率も2021年の29.1%から35.3%まで増加する。高齢者が増えて現役世代が減れば、当然介護のなり手も減ってしまう。介護崩壊である。

介護職から足を遠ざけざるを得ない不都合な現実

介護崩壊を防ぐには現時点から介護のなり手を増やし、来るべき事態に備える必要がある。

しかしこれまで介護士の低賃金劣悪待遇について繰り返し報じられ、SNS等でも話題になってきた。入居者やその家族からのハラスメント、高齢男性入居者からの暴力行為などが問題となって離職したという話も枚挙に暇がない。

朝日新聞は先の記事で2040年度に介護職が約280万人必要となること、またこれが2019年度比で約69万人の増員が必要であることを指摘している。

そうした状況下での介護離職超過というマイナスが生じてしまった。これはシンプルに介護を職にしようという人が減り、もう介護を職にしたくないという人が増え、実行したということだ。

少子化で現役世代という「パイ」が減る中で介護職を増やそうとするのであれば、当然ながらインセンティブが必要である。

それは何より十分な賃金であり、将来にわたる安定した待遇である。当然ハラスメントや暴力からの保護も必要となってくる。だが、そうはならなかった。

与えられたのは月額6000円の賃上げという「雀の涙」

日本は介護職の悲惨な現状に対し、月額たったの6000円程度の賃上げでお茶を濁してしまった。残念ながら、円安と物価高にあえぐ現代日本でそんなものは一瞬で吹き飛ばされる程度の雀の涙だ。

正規雇用の拡充やハラスメント・暴力対策などの施策はまだろくに現実化していない。

こうした状況下であれば、低賃金劣悪待遇を耐えて介護職を続けようという人が減るのは当然の話であり、何ら不思議なことはない。

ただでさえ低い賃金に月額6000円程度が上乗せされたからといって介護職に喜んで就こうとする人が増えることは望めず、むしろ改善の余地がないと見切る人が増えるであろうことは予想に難くない。

2023年の介護離職はさらに増え、介護職を志望する人はさらに減る。そしてこの傾向は現状の延長では変わることはない。であればどうなるのか。地獄が待っている。

介護崩壊という地獄の様相

介護崩壊というのは、つまりは介護業界が崩壊するということだ。

介護を必要とする人に対し、介護を職業とするプロフェッショナルが足りなくなることで介護崩壊は起こる。

どれだけ介護の事業者があったとしても、現場で実際にはたらく人手が不足すれば当然回るはずがない。

これは宿泊業界やバスなどの公共交通機関で既に始まっている現象だが、同様の事が今後介護業界でも起こる事になる。

インバウンドで賑わう宿泊業界では客室係などの現場を担うスタッフが足りず、部屋はあっても満室にできないケースもある。

多数のバス会社が人手不足を理由に多くの路線が廃線にしていることは最近大きな話題になった。

現場で介護ができる人がいなくなれば介護施設は従来通りに稼働できず、当然ながら今後確実に増えていく要介護者を介護することができなくなる。

そうなれば、多くの日本人は自らの親を自分で介護しなければならなくなる。

家族での介護は多くの人を疲弊させ、痛ましい事件も少なからず起こっている。しかし最大の問題は、介護を行うために仕事を辞めたり短時間勤務に変えなければならない人が増えることだ。

いわゆる介護離職である。

子どもの保育園問題は数年後には小学校に進学することで終わりを迎えるかが、高齢者の介護は死ぬまで続き、要介護度が下がることに大きな期待は持てない。

数年間の育児休暇とは違い、先が見通せず終わりが見えないのが介護なのだ。

これまでは不運な個人の話とされてきたかもしれないが、これからの日本ではまともに働くことができず、終わりなき介護を強いられる国民が構造的に、大量に出現するということだ。

昭和の時代であれば専業主婦の女性も多かった(だから良かったというつもりはない、念のため)し、兄弟姉妹も今よりは多かったから家族親族の助け合いの中でなんとかやりきれるケースが多かった。

しかし少子化が進んで兄弟姉妹の数が減り、共働きでなければ家計を維持するのが困難になったのが現代日本だ。

今後の家族での介護は昭和の頃とはまったく違った、砂を噛むような地獄絵図と化すだろう。

ではどうしたら良いのか、残念ながら答えはない。30年前に少子化対策に本腰を入れていたら、リストラを持て囃して非正規雇用を増やさなかったら、もしかしたらソフトランディングが可能だったかもしれない。

しかしポイントオブノーリターンはとっくの昔に超えてしまった。

私たちにできるのは、ただ避けられない地獄が訪れるという事実を認識することだけである。

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