料理の話

私は学生の頃から「自立せん」という気持ちを

大いに持っていた。

実家で何不自由無い暮らしをさせてもらって

いたものの、その「何不自由無い暮らしを

させてもらっている」という状態が

私の健全な反抗期を阻害していた。

私は昔から聡明な子供だったので、

日頃から身の回りの世話をしてくれている

両親・家族への感謝や申し訳なさというものを

きちんと感じることができていたために、

家族に反目するという選択肢を意識的に

選ばないようにしていた。


そのため、いずれ自立して何の負い目のない

状態になるのだという志を抱え、

掃除やアイロンがけ等自分でできることは

自分でやる意識を持って過ごしていた。

一見模範的な息子だが、その裏には

「反抗するなら対等な立場で反抗したい」

という冷たく尖った感情があった。

これが私なりの反抗期なのだ。


その自立に大きな障害として

立ちはだかったのが「料理」という家事である。

流石の私も、パンをトーストすることと、

パンにマーガリンを塗ること以外の料理は

してこなかった。ジャムも塗れなかった。

大学生になって昼代を浮かすために

作ったおにぎりが一番最初の料理だったが、

これが中々上手くできないのだ。

元々私は器用な方ではないので、

中にツナマヨを入れて米を握るという作業が

100%完遂されることはついぞなかった。

油が浮いて来るし、綺麗に収まらないし、

形は汚い。

お握りって感じじゃない。お塊だ。

私はずっと大学で

おにぎり界への冒涜を持ち歩いていた。

じゃがいもの皮むきの際に、ピーラーの脇に

芽を取るために付いている(と解釈している)やつ

を使ったら手が滑って中指の腹を

深々と抉ったこともあった。

その傷跡は未だに残っている。

私の反抗心に、私のDEXが対抗してくる。


そんな私の強い味方になったのが

クックパッド先生だ。

先生の言う通りにしていればだいたい

食べられる料理になる。

最初の頃は、

「洗い物増やしたくないからこのままやろう」

とか

「これの変わりにこれ使ってもいけるだろう」

とか

初心者にありがちな根拠の無い自信から滾る

オリジナリティという亡霊に取り憑かれて

全く知らない料理が出来たりした。

全く食べたことない味。

ということはつまりは再現されない味だという

ことで、ということはつまりは美味しくないのだ。

これは盲点なのだが、

料理をする時は大概がお腹が空いているので、

美味しくない料理でも「美味しい気がする」と

勘違いしてつけなくていい自信がついてしまう。

お前は何も成長していない。

世界史の先生の「二次対策はセンター後でいい」

という指導は信用してはいけなかったが、

クックパッド先生の言う「炒めた野菜を

一旦別の皿に移す」という指導は

信用しなければいけなかったし、

バターの代わりにマーガリンを使っては

いけなかった。

出来の悪い生徒でごめんなさい。


私も多少経験値が増え、

1品+サラダくらいなら

それなりの手際で作れるようになった。

醤油とみりんと酒と塩胡椒の味付け以外を

知らないので、ほぼ全て同じ味になるが、

知らない味よりはましだと思う。

最近は煮詰めるということを覚えた。

経験値が上がって新しい魔法を覚えるRPGの

魔道士もこんな気持ちなのだろう。

料理は魔法だ。

私は今専らカレーとチャーハンとだけを使って  

殆どの敵を倒している状態だが、

詰んでしまうよりはましだと思う。

全クリには程遠くても

少しずつ楽しくなっていることが一番いい。


ただ、今日みたいな金曜の夜は

プロアクションリプレイを使うことにしている。

今日もUberEATSだ。















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