「おくわ」伝説

    岐阜市文芸祭文芸祭賞受賞作品

 とり残された桜並木の土手を歩く
 はなびらが路上を染めるころ
 時折、うすい血のにおいがする
 おくわ団子のたれが濃すぎたせいだろか

 土手には風化した石造りの祠がひとつ
 傍らに曼珠沙華の茎がせつなげに赤をひそめ
 贄(にえ)の娘おくわが聞くとおい夏祭りの声
 快活な恋人たちは祠の影にも気が付かない

 桜並木を分断した大通りを背に川にでた
 鵜匠の庭の剪定鋏が水面のひかりをさらに光らせた
 河原で白い首の女がおくわのしずまる水と戯れる
 わたしの片脚に絡みついた川藻が取れない

 川のいのちに浮かぶ篝火が ゆっくりと夜を動かす
 鵜の嘴(くち)が苦しまぎれに何かを吐き出した
 村一番の美少女が黄泉で食した銀色の 
 あやしくふるえて光るもの

                                                                          2016・7・25

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