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【バスケ】「言葉に意味を持たせる、力が宿ると信じている」~渡邊雄太選手の言葉(前編)

ちょっと古い記事になりますが、バスケ男子日本代表でNBAサンズの渡邊雄太選手のインタビューが掲載されました(朝日新聞2023/11/2)。そこにはタイトルにも書かれているように、言葉の持つチカラを語っています。まさに「言葉は言霊」という我が意を得たりという気持ちで、さらに渡邊選手のファンになりましたし、同時に「奇跡の」ワールドカップの感動が再び蘇った次第です。今回はこの記事に触れながら、一緒に「言葉のチカラ」について考える時間になればと思います。


僕は言葉に意味を持たせたい

「言葉で言うことは、本当に簡単です。でも、だからこそ、僕は言葉に意味を持たせたい。自分の行動をちゃんとやるからこそ、言葉に本当に意味が生まれてくるといつも思っているんです。だから、代表では自分がだらしない行動を絶対にしないように心がけていました。」

朝日新聞「月刊バスケットボール企画」(2023/11/2朝刊)より

やはり渡邊選手と言えば、大会直前に発した「引退宣言」ですよね。自ら退路を断って、この大会への強い思いをメディアを通じて全世界へ発信した覚悟たるや。きっとこれまで代表選手として戦ってきた中で、本人の中では、なかなか思うような結果が残せず、「これが最後だ」と言い切ることで、自分だけでなく周囲をも奮い立たせようとしたのかもしれません。そしてその作戦は見事に成功したことは、日本人であれば誰もが知っているわけです。普段から言葉の力を知っている渡邊選手だからこその発言ですし、周囲もまた渡邊選手を知っているがゆえに、「あの雄太(さん)が軽はずみに言うはずがない」と思い、さらに強固なチームになっていくきっかけになったのではないでしょうか。

あの引退発言は、それだけの覚悟、チームへの自信があった

「僕の引退発言にしても、それだけの覚悟やチームに対する自信があっての発言だった。河村を含めてチームメートが「絶対に雄太を引退させてはいけない」という気持ちになってくれた。すごいうれしかった。言ってよかったと思っています。」

同上

普通の我々ですらビックリしたのですから、ともにチームとして戦うメンバーは尚更驚いたことでしょう(確か、後日の番組で、同世代のチームメンバーには打ち明けていたというエピソードを紹介されていました。このあたりもともに代表として戦ってきた戦友への信頼が感じられますね)。テレビのインタビューで河村選手が「雄太さんを引退させたくないんです」と強い言葉で返答していたシーンを思い出します。渡邊選手の「言葉の力」が実った好例といえるでしょうね。

富永選手を救った、渡邊選手の言葉

(W杯豪州戦、富永選手が3ポイントシュートを10本全て外した時に彼を励ましたエピソード)「僕らは普段から啓生がどれだけシュートを入れられるかを見ています。だからこそ、自分が一つ何かを言ってあげることで、本来の力をまただせるんじゃないか。周りが「もう打つな」という雰囲気になると、彼の良さが消えてしまう。自信を取り戻すために、カリーでも10本のシュートを外した次の試合で3点シュートの記録を塗り替えた、と言いました。「そういう爆発が啓生に絶対来るよ」と。」

同上

富永選手のエピソードも渡邊選手「らしさ」を物語る素晴らしいストーリーですね。そしてそんな富永選手を受け止めたチームメンバーも素敵だなと思います。きっと「啓生ならやってくれる!」と誰もが信じていたのではないかと思います。その証拠に見事、次戦では大爆発、大活躍で勝利をたぐり寄せたことは記憶に新しいことと思います。河村選手との若手コンビでコート内を駆け周り、相手を翻弄させ、世界中をあっと言わせてくれましたね。この大爆発の裏に渡邊選手の「言葉」があったんですね!

光の当たらない部分を経験しているから気持ちが分かる

(試合に出ていない控えの選手たちに対し「NBAでの自分みたい」と紹介した件について)「僕はNBAで苦しい境遇にいるからこそ、試合に出ない選手の気持ちになってあげられる部分がある。光の当たらない部分を経験しているから、苦しい立場の人の目線に立ってアドバイスをしてあげられることってあると思うんです。吉井や宗一郎、西田さんも川真田も、自分たちがどれだけ試合に出る人を助けられるか、みたいな話をずっとしていました。それを聞いて、僕は本当に立派な選手たちだなと思っていました。」

同上

前半のハイライトになりますが、これぞ渡邊選手の真骨頂!「光の当たらない部分を経験している僕だからこそ、苦しい立場の人の気持ちが分かるんだ」というこの言葉には心を打たれました。大勢が日本代表候補として選出され、セレクションを減るたびに人数が絞られ、ようやく12人が決まっても、出場できるのは5人。そうなると当然、出場機会の少ない選手もいるわけで、渡邊選手はそうした選手の気持ちが分かるし、彼らへの心からリスペクトを表現しているのです。

これって、実社会でもそうだと思いませんか?日の当たる舞台に上がる人もいれば、裏方としてサポートに徹する人もいる。そしてそうした人の方が圧倒的に多いわけですよね、軽んじる人もいれば、渡邊選手のように共感し、さらには感謝の心を持って接してくれる。これは本当に市井の人間としては嬉しい限りです。こういう気持ちをもって接してくれる人ばかりではないですからね。

ちなみにここに登場してくる選手たちは、Bリーグでは超の付く有名人ばかり。それぞれ各チームのエース級。そんな彼らがW杯ではベンチから思いっきり声を張り上げてメンバーを応援する、そんな姿が中継でも映し出されていましたね。一緒になってポーズを取ってみたり。こうしたところからも、こうまくいっているうまくいっている様子が伝わってきました。

自分が活躍したい、じゃなくて「人を助ける」が先に来ている

「川真田の口癖は『何とか、ジョシュ(ホーキンソン)を助けたい』でした。(ポジションの重なる)吉井も、「雄太さんを休ませるためなら、俺、(フィンランドのエース)マルッカネンにつくんで」と言ってくれました。自分が活躍したい、じゃなくて「人を助ける」というのが先に来ているのが分かって「ああ、もう本当に(これこそが)チームだなあ」と感じたんです。

同上

たしかにホーキンソン選手と渡邊選手は、ほぼほぼ出ずっぱりの大活躍でした。コート内を縦横無尽に走り続けるわけですから、疲れないわけがない。そのうえ渡邊選手は足を負傷し、満身創痍でした。そんな二人を見てホーキンソン選手を少しでも休ませるのが自分の役目ときっぱり言い切る川真田選手。そしてあの2メートルオーバーのマルッカネンを守り切るぞと、これまた自分の役目をしっかり見極めていた吉井選手。いやー、本当にいいメンバーでしたね、今回の日本代表。

人を助ける役割に徹するということは覚悟や根性がいること

「だからこそ、僕も彼らにしてあげられることはしてあげたい、という思いがありました。(人を助けるという)役割に徹するっていうのは、もう本当に覚悟だったり根性だったりがないとできません。だから、僕は彼らをすごくリスペクトしています。

同上

今回の奇跡の勝利は、渡邊選手の衝撃発言もその一つではあると思うのですが、最初から目標が非常に明確でしたよね。それは「パリ五輪出場」です。さらには「アジアで1位」というように非常にわかりやすい。たしか、インタビューを受けた選手たちはそれぞれ口を揃えて「目標はパリ五輪」と言っていたように思います。それはきっと普段から渡邊選手だけでなく、全員が意識統一し、絶対に目標を達成するぞ、という気持ちで挑んだからこそ掴んだ勝利だったのではないでしょうか。

言葉のチカラを知っている渡邊選手だからこそ、そのチカラを存分に発揮して掴みきったパリ五輪。こうして大会が終わって数ヶ月が経ちますが、今考えてみても、あの大逆転は「伝説」になるだろうな、と思います。そして嬉しいことに、バスケ人気に火がついて、その後開幕したBリーグにも注目が集まっています(私だけ?じゃないですよね!笑)。NBAレポートもテレビのニュース番組で取り上げられますし、八村選手はテレビCMでも活躍しています(五輪代表には帰ってきてほしい!!)。

そしてさらに嬉しいニュースは10FEETが大晦日の「紅白歌合戦」に初出場!いわずとしれた映画「THE FIRST SLAMDUNK」の主題歌。もはやバスケのアンセムとして定着した感がありますが、実は、この映画(とこの曲)が現在のバスケ人気に火をつけたのでは?と勝手にこじつけています。W杯の最終試合終了後にも会場で流れていたのが、10FEETの「第ゼロ感」でしたね、会場も盛り上がっていましたし、選手たちも耳にしたはず。これぞまさにリアルと非リアルの融合の嬉しい瞬間でしたね。きっと選手たちも耳にして、五輪出場の興奮をさらに高めていたのではないでしょうか。あの曲にはそれほど不思議なパワーがあるような気がします。


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