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【本】「始めに結論を言え!」~「田中角栄秘録/大下英治」再読①

先日、岸田首相の首相在任期間が、田中角栄氏を抜いたという報道がありました。そんなタイミングで大下英治さんの「田中角栄秘録」を読み直して見たら・・・これが面白すぎる!前回の昭和の名経営者たちに通じる、豪快さと実行力を兼ね備えた、日本の戦後の総理大臣の中でも知名度で言えば五指に入るのでは?という角栄さんの豪快爆笑トークをご紹介していきたいと思います。


始めに結論を言え!

「初めに結論を言え。理由は、三つに限定しろ。世の中、三つほどの理由を挙げれば、大方の説明はつく。」

大下英治著「田中角栄秘録」より

「超」の付く「せっかち」だったという角栄さん。お住まいの目白御殿には引っ切りなしに陳情団や田中派の議員、官僚、地元の後援会メンバーなどなど来客が絶えなかったそうです。そんな超多忙な角栄さんを(運良く)つかまえて、お話できるとしたらコレですよ、「始めに結論を言え!」。それから「理由は3つ!」。これってプレゼン術の超基本ですよね。昭和の当時にプレゼンに関するハウツー本があったのかは分かりませんが、角栄さんは実体験から相手への説得術を掴んでいらしたんでしょうね。

ちなみに私も室長当時は、スタッフからの報告事は「頼むから、結論から言って!」とお願いしていました。しかも「いい話?悪い話?」と聞き返していたこともあり、いつからかスタッフの方から「いい話です、とか、悪い話です」と前置きしてから報告するように。で、もっと慣れてくると私の方から「いい話は後でもいいから、悪い話を真っ先に教えてほしい」と頼むようになりました・・・笑。

必ず返事を出すんだ!

「必ず返事を出すんだ。結果が相手の希望通りでなくても「聞いてくれたんだ」となる。大切なことだよ。」

同上

こうした人間の心の機微をしっかり捉えていらっしゃるところが角栄さんの魅力の一つですよね。冠婚葬祭においては、お葬式には必ず出席されたという逸話は有名ですよね。人は嬉しいときよりも、悲しいときに一緒に居てほしいものだ、という名言は本当に人間を分かっているからこその言葉だな、と思います。今回の「返事を出せ」も同様で、悪い結果の場合、どうしても相手への返答を避けてしまいがちですが、それでもしっかり伝えることで、希望に添えなかったとしても、「この人(たち)は、自分の陳情を聞いて動いて下さったんだ」という気持ちは伝えることが出来ますからね。本当にその通りだと思います。


できない約束はするな!

「約束したら、必ず果たせ。できない約束はするな。ヘビの生殺しはするな。借りた金は忘れるな。貸した金は忘れろ。」

同上

これも人間を深く理解しているからこそ、出てくる生きた格言ですね。本当にその通り。できない約束はしないこと。それなのに、ついついその場の勢いで「空約束」をしてしまう・・・なんてこと、ありますよね?ま、昨今はパワハラめいた恫喝も問題になっていますから、つい約束をしてしまった側だけを責めることはできませんが。そして角栄イズムの神髄(と勝手に命名)が「借りた金は忘れるな。貸した金は忘れろ。」

これは私の印象ですが、角栄さんというと「田中金権問題」や「ロッキード事件」などで、ダーティーなイメージもありますが、集めたお金は私腹を肥やすためというよりは、自身の目的実現のために周囲へばら撒いた、という面もあったのではないかと思います。もちろん当時は選挙で多額の現金がばら撒かれ、それこそ買収等も日常茶飯事だったわけで、今と直接比較することはできませんが、それでも今ほど呆れるような私腹を肥やしたり、自分たちの楽しみのために流用するようなことはなかったんじゃないかな、なんて勝手に思っています。スケールが全然違いますもん、現代とは。

経験も知識もなく喋っているのは、バカ騒ぎをしているだけだ!

「人間誰しも、若い時は偉くなりたいと思うもんだが、簡単にはなれない。経験も知識も素養もなく喋っているのは、バカ騒ぎを繰り広げているだけで、しまいには誰も相手にしなくなる。」

同上

これは青臭い若手のエリートくんたちへの戒めなのかな、と思いました。ここは元祖庶民派の角栄さんならではの含蓄あるメッセージですね。20代前半にして自らの建設会社を経営し、自分の父親や祖父くらいの年齢の土建業の荒っぽい猛者たちと堂々と渡り歩いてきたわけです。それに恐らくご家庭の事情さえなければ高校、大学と進学されたでしょうから、そうした青二才連中への複雑な思いもあったと思います。

しかし、やがて大臣になって初日の訓示で、そうしたエリート軍団を一気に自分の味方に引き入れてしまったという名台詞はあまりにも有名です。そして持ち前の頭脳明晰さをフル活用し、官僚や部下たちの名前や家族構成、そうした細かなことまですべてを頭に入れ、どんどんファンにしていく「人たらし」ぶり。と、同時に若手へ釘を刺すことも忘れないという。大学を出たばっかりの若者は頭でっかちの理想論で凝り固まっていることが多いですからね。それだけじゃ、社会人としては大成できないぞ、という角栄さんならではメッセージですね。

ノーとイエスはハッキリ言え!

「確かにノーと言うのは勇気がいる。しかし、逆に信頼度はノーで高まる場合もある。ノーとイエスはハッキリ言った方が、長い目で見れば信用されるということだ。」

同上

普通の人間(私のような凡人)は、ノーというのがとても怖く、無意味に先延ばしにしてしまいがち。しかし、そうではなく、ハッキリとノーと言うことで「こいつは信頼できる」と思ってもらえるんだ、という角栄さんの名言です。たしかにどのみち結果が分かっているのであれば、先伸ばしにすればするほど相手に言いづらくなりますし、相手は相手で、期待がどんどん膨らみますからね。だったら、ハッキリと言ってしまう。しかし、その上で代替案を提案するなどして、プラスの方向へ互いに折り合うことが出来れば、それこそディール成立ですもんね。


ディールと言えばアメリカのトランプさんですが、トランプさんと角栄さんだったら、どんな展開になるのか・・・面白そうですよね、方や不動産で方や建設業からのし上がって国のトップに上り詰めたという・・・。どちらも発言が面白いですよね、ま、トランプさんの場合は当時のツイッター(現X)でどんどん爆弾発言をツイートしていましたが、角栄さんはメディアとの付き合いも非常に上手でしたし、何よりコメントやスピーチが非常に上手い!ただ単に官僚の作った文章を読むのではなく、自分の言葉で、そして聴衆のことを考えたユーモア溢れる内容で人々を沸かせてくれていました。こうして読み返していくと、今こそ政治にもこうした「豪快さ、ユーモア、そして実行力」でどんどん邁進していく力があれば・・・と思わずには居られません。

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