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ドーパミンを学んで人生を好転させる

 自分の「○○したい、○○になりたい」という欲求を、いかにしたら前向きな方向で行動に移せていけるだろうか。目標達成までやり続けられるだろうか。○○のような状態になりたいと思って何かを始めても、長続きしない、どうしてだろうと感じた事は、誰にでもあると思う。その理由を、一歩深めて考えてみるためのヒントが本書にはある。やる気と脳のしくみ、欲求(desire)が行動に繋がる仕組みを、脳科学の見地から、深く理解してみるのは、価値のある事だと思っている。

『やる気が起こらない。』これはよく聞く言葉。そして、『何はともあれ、やり始める。すると気分が乗ってくる。やる気なんてものはない、やるかやらないかだ』というような話もよく聞く。

一般的に、やる気の源と解されているドーパミン。このドーパミンの働きについて、脳科学の見地から詳しく解説したのが、本書「もっと!」である。

 旅行は計画している時が一番楽しい。何か自分の理想を追い求めて一生懸命努力してみたが、実際手に入れてみると、期待していたより自分の満足感を得られなかった。そんな経験は、誰もが一度はしたことがあるだろう。そんな謎を解き明かすヒントも詰まっている。

まず、ドーパミンとは何か。

神経伝達物質ドーパミンは、欲求(欲求回路を介する)と粘り強さ(制御回路を介する)の源だ。
それは、いわば道を指し示す情熱と、そこへ到達するための意志の力だ。

ドーパミンは、やる気スイッチのように一般的に考えられているが、本書では、『それを達成すると得られるだろうと期待する脳の働きによって分泌されるもの』だと説く。それは"期待を持たせるサプライズ"、例えば、ラブレターになんて書いてあるんだろう、長年会ってなかった友人から連絡があった、一体なんだろう、そんなときにドーパミンは分泌される。

ドーパミンの活性は、"快楽"の指標ではなく、予想外の事 - "可能性と期待に対する反応"だとする仮説だ。
 目新しいものから得る興奮を"報酬予測誤差"と名付けた。予想外の良いニュースがもたらすゾクゾクするような快感。報酬予測誤差さえあれば、ドーパミンは始動する。
情熱は、私たちが可能性の世界を夢見るときに高まり、現実に出くわしたときにしぼむ。

本書では、自転車の王者アームストロングの例が紹介されている(7連覇を成し遂げたが、ステロイドの使用で、後にタイトルを剥奪された)。彼は前人未到の栄光を達成しても、決して満足する事なく、次へ、次へを追い求めた。

ドーパミンには、明確な仕事がある。未来に手に入れられる資源を最大化し、より良いものを追い求める。

それを手に入れるまで、もっと!もっと!と要求する報酬予測誤差のドーパミンに相対するものとして、H&N(Here&Now)神経伝達物質が紹介されている。H&N物質は、具体的にはセロトニン、オキシトシン、エンドルフィン、エンドカンナビノイドなどの一群の化学物質を指し、感覚や感情から生まれる喜びをもたらすとされている。

 愛の"探索"に求められるスキルは、愛の"維持"に求められるそれとは、別物だ。愛を継続させるためには、身体外空間的体験を身体近傍空間的体験に変えなければならない。つまり探求から所有へ、"期待するもの"から"大切に世話しなければいけないもの"への変化だ。

オキシトシン(♀が多く持つとされる)とパソプレシン(♂が多くもつとされる)は、テストステロンの放出を抑制する.

友愛には、ドーパミンがもたらすようなスリルは無いかもしれないが、幸せを運ぶ力がある。オキシトシン、バソプレシン、エンドルフィンなどのH&N神経伝達物質がもたらす、長期的な幸せだ。

 多くの人は、ドーパミンとH&N物質のバランスを取りながら、うまく社会生活を送っている。極端な例だが、このバランスがうまく取れないと、アルコール依存症、ドラッグ中毒、配偶者に満足できず異性を口説き続ける等、回路がうまく働かなくなり、社会生活を送りづらくなる事例が発生する。

 次に、ドーパミンが分泌される仕組みを脳科学の点からみてみよう。中脳辺縁系経路(ドーパミン欲求回路)では、以下のような事が起こっている。

 腹側被蓋野(頭蓋の奥深く)は、活性化すると、ドーパミンが大量に出て、軸索を通じて側坐核に放出され、我々がモチベーションと呼ぶ感情が引き起こされる。
欲求を司るドーパミンは、私達に何かを欲しがらせる。と同時に、手に入れる価値のある"もっと"を計算する、相補的なドーパミン回路も備わっている。脳内の異なる経路を移動して違う機能を果たす。いかに戦略的に周囲の世界を支配しながら、手に入れるか。

ドーパミンにも種類がある。欲求ドーパミンと制御ドーパミンだ。欲求ドーパミンは根源的なほしいという気持ちのこと。子供が駄々をこねるようにそれを強烈に欲する。一方、制御ドーパミンは、周囲の世界を理解し、分析し、モデル化する手立てを考える。可能性を推測し、比較対照し、目標達成の手段を練り上げる。

ドーパミン制御回路とは、
欲求ドーパミンの野放しの欲求を制御し、そのエネルギーを利用して有利な結果へと導く。抽象的概念を見越した戦略により周囲の世界を制御可能にする回路でもある。ドーパミン制御回路は想像力の源でもある。
ドーパミンは、資源を最大限に活用するよう私たちを駆り立てる、私たちがそうしたときには報酬を与える。何かうまくやるという行為、未来をより良くするための行為が、ドーパミン性のほろ酔い気分を私たちに味わせる。

詳細は、本書に譲るとして、いかにドーパミンの働きを自らの人生に有効活用していくか。つまり、行動に転嫁して人生を好転させていくか。書を読むだけでは、自分の人生は変わらないのだから。

アイディアを結実させるためには、実態のある世界の手ごわい現実と格闘しなければならない。知識だけでなく、粘り強さが欠かせない。それを与えてくれるのが、未来の成功を司る物質、ドーパミンだ。

なんて大切なのだろう、ドーパミンは。

 何かを始めた初期の段階で、自分の行動が否定されるようなことがあれば、長続きしようと思わない。初期の段階では、これでいいのだ、効果が出て楽しいなと自分に思わせるのが効果的。例えばダイエットに取り組むとする。最初の数週間で2,3kgの減量をさせるプログラミングを組んでいる企業は多い。効果が実感出来れば、達成感を感じられるし、続けてみようと思える。

早い段階で成功に恵まれたほど、粘り強さは増す。

ただ、意思の力のみに頼るのは心もとない。酒を断ちたいと思っても、意志の力だけでは、自分の行動をコントロールすることは難しい。

意思は、有限の資源なのだ。

いかに、意思以外をいかに発動させるか?これがポイントとなる。

自分にはできると信じていれば、諦めずやり続ける可能性が高くなる。それを心理学用語で、自己効力感と呼ぶ。

小さな行動、小さな達成感を積み重ねる。そのためのマイルストーンを自分の中に細かく設定する。継続を妨げるものを排除し、継続を助けるような環境設定をひとつでも多くつくってみる。

 何かドツボにハマってしまい、どうしても抜けきれない。依存症になってしまった患者を救済する方法を知っておいて、損はないだろう。本書では、3つの手法が紹介されている。

 薬物依存症では、ドーパミン欲求回路の一部が悪質化し、依存症患者を衝動的で制御不能な薬物使用に追いやっている。その働きに同じくらい力のある勢力で対抗する必要がある。

①動機付け強化療法②認知行動療法③12ステップ促進療法だ。それぞれ独自のアプローチで脳に備わっている資源を活用し、機能不良の欲求ドーパミン回路の破壊的衝動に抵抗する。

①動機付け効果療法‥健全な欲求を話すように促して、患者のモチベーションを強化する方法。"聞いた事は信じないが、自分の言った事は信じる"という古い諺をうまく活用した方法。


患者がセラピストに対してする発言、例えば、「飲んだくれた夜の翌朝、時間通りに仕事に行くのが難しい」言うような言葉が出た場合、
セラピストは積極的にそれを評価したり、それについてもっと話してくださいと促したりする。それに対し、例えば「1日必死に働いているのだから、マティーニ数杯でリラックスしても良いはずだ」と言うような変化に抵抗する発言が出たときには異を唱えない。議論が行ったり来たりする間に、変化に上がらず主張がもっとてる可能性があるからだ。反応する代わりに、話題を変える。たいていの患者はそこで行われていることに気づいていないため、このテクニックは患者の意識の防御壁をすり抜ける。こうして患者は変化につながる話に治療の大部分を費やすことになる。

②認知行動療法‥意思の力で依存症を真っ正面から攻撃するのではなく、制御ドーパミンの計画能力を利用して欲求ドーパミンの生々しい力に対抗する手法。

認知行動療法を受けているアルコール依存症患者は、合図が引き起こす渇望に様々な形で抵抗する術を覚える。例えば、アルコールが供されているイベントに行くときには、酒を飲まない仲間を誘う、合図を出来る限り排除する努力をする。友人と一緒に掃討作戦に乗り出し、カクテルグラス、シェイカー、ヒップフラスコなど、アルコールを思い出させるあらゆるものを自宅から取り除いたりもする。アルコール摂取を連想させるものはどんなものでも引き金になるので、排除しておく必要がある。そうしないとそれが渇望を呼び起こし、懸命に戦ってきた断酒時間を終わらせてしまう恐れがあるからだ。

③12ステップ促進療法‥H&Nを活性化させ、ドーパミン主導の依存症を抑える。

AA(Alcholics Anonymos)という自助グループの例が本書では、紹介されている。

AAは、治療と言うより同じ仲間の集まりだ。患者はグループの他のメンバーとの関係や自分を超えた大きな力との関係を通じて回復していく。社交を司る脳の領域はH&M神経伝達物質を使って患者との他者とのつながりを築く。このように人間関係ほど強力なものはそうそうない。(※世界のwebで訪問者数の多いサイトの2位はfacebookで、ポルノサイト世界トップのポルノハブは67位まで行かないと出てこない)
AAの参加者は電話番号を自由に交換し合うので、苦しみを抱えるアルコール依存症患者が支えや励ましを求めて電話をかける相手ができる。メンバーの誰かが脱落して再発を経験しても誰も責めない。だが、当の本人はみんなの期待に背いたと感じるだろう。罪悪感というH&M的体験は、動機付けの強力な要因になる。
感情面での支えと罪悪感という脅威。この組み合わせは、多くの依存症患者にとって、長期的な断酒や断薬を維持する力となっている。

強く思い込む。何度も何度も思い込む。やれると信じ、小さな成功を積み重ねていく。やがて、それが実現へと変わるようなことが起こる事もある。

(中略)

成功を確信していると、それが相手の利益にならないようなケースでも、相手の譲歩を引き出せる場合がある。なぜか?

成功を確信して自信に満ち溢れている言動に対峙する相手は、それに従順に従おうとする人が(一定数)いる。





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