『れいこいるか』のこと

いまおかさんの『れいこいるか』は四季ごとに神戸に数日行き、一年ほどかけて撮影されたと聞いた。それを編集してラッシュ(ざっと繋げたもので音の処理や色味がまだ決まっていない状態)を五反田のフィルムクラフトで見たのがたぶん2018年の暮れくらいだったと思う。昔、このビルに入っていたI社で働いていたので懐かしかった。たしか編集の蛭田さん、本作の出資者、プロデューサーの川本さん、女池充さん、脚本の佐藤稔さん、録音の弥栄さん、そして監督いまおかしんじさんがいたと思う。坂本さんはいなかった。翌2019年末にTCCで一回完成試写したのだけど、よく考えてみると仕上げに一年もかけていたということか。自分の監督した映画のことでいっぱいいっぱいになっていたとはいえ仕事が遅くてすいません。
僕の仕事はだいたい撮影後のことなのでエディターさんやMAのエンジニアさん、監督、プロデューサーくらいにしか会わない。役者さんに会うのは打ち上げや劇場や飲み会でなど。会わないことも多い。だいたい「あぁ、いつも一方的に見てました」とお会いしたら伝える。普通に一般の方の心理と変わらない。静かに完パケして、監督らと汚い居酒屋で飲んで終わり。ただ今回はそんな流れ作業ではなかった。MA時に弥栄さんから「完パケとかないから!MAに終わりはないよ。自主映画なんだからもっと粘ろうよ」と言われてハッとなった。
つまり僕の2019年は30過ぎというのに自主映画ばかりで本当に金にならないことに命をかけていた。これは皮肉にも僕がかつて通った映画学校が提唱していた「真のインディペンデント作家」というものに正に当てはまるのではないだろうか。このスタンスでずっとやっていけるほどタフでもないけれど。
話を戻して、ラッシュを見終わった後、いまおかさんに「これ、もしかしたら傑作になるんじゃないですか?」と伝えるとあの濁っているのか澄んでいるのかわからない眼で真っ直ぐ「そんなわけないよ」と言われた。そのあと喫煙所でいまおかさんと弥栄さんに「今日のラッシュ見てもうエンディング曲思いつきましたから僕歌いますね」と伝えた。それで帰って数時間くらいで作詞作曲はできた。そこから宅録でオーバーダビングしすぎて3ヶ月くらいミックスと録音繰り返していたけど、今となっては楽しい思い出。その他の劇伴に関してはだいたい一曲一日で作っているからいま聴きなおしても当時の記憶がない。
国映の人たちは仲良いしユルいけど、互いに馴れ合いじゃないところがいい。必要な時は電話を掛けて、というようなスタンスがいい。あとは各自で、といった割り切りがいい。僕にとって映画を監督するのも音楽するのも気持ちとしてはほとんど変わらない。苦労の種類は変わるけど、どちらもキツい。ドマゾだからなんとか出来るのだと思う。でも、惚れた弱みで映画を続けていくのは一旦辞めようかなと昨年『東京の恋人』と『れいこいるか』に関わりながら思った。想定通り実際個人史的にはひとつのピリオドになった。さあこれからどうしようかな!No Futureだし、といった気持ち。

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