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あたしと彼女の話10

『残していたい言葉』

「言葉のイントネーションが優しいですね」
と、褒められたのが始まり。

 新しく入った派遣先の社員さんに褒められた。
初めてそんな事を言われたので嬉しかった。
でも、昔から愛想がない私は、ぶっきらぼうにお礼を言ってしまう。
その社員さんが気になる存在になるのは時間がかからなかった。
仕事に行くのが楽しくなった。

「おはようございます」
「おはよう。ねえ、ねえ、知ってる?細谷さんここを辞めるらしいよ」
「え…」

 しばらく経って、社員さんが職場を辞めると噂を聞いた。
不安と寂しさが私を襲ってきた。
味気ない私の日常にやっと現れたキラキラだったのに…。
 私は気が付くと久しぶりに書いていた。
社員さんへの気持ち、不安な気持ち、ありったけの言葉を書いた。
本人に伝える勇気のない言葉。
でも、残していたい言葉。

「細谷さん、リーダーに昇格らしいよ!」
「リーダー?や、辞めない…?」
「そうだよ!細谷さんがリーダーなら安心だね!」

 辞めない。私の日常から居なくならない…。
安心した。安心したら、愛おしい気持ちで満たされた。
社員さんと話せた時、自然と笑顔が出せるようになった。

「あっという間、来月でここ終わりだわ」
「え?そっか…藤原さんと来月でお別れなんですね。
寂しいな…」
「ありがとう。あたしも田沼ちゃんと会えなくなるの寂しい!」
「…あ、あの、諏訪さんから返事は?」
「ん~無い無い。軽い女に思われちゃったかな?
一生懸命、勇気出して連絡先渡したんだけどねー」

 同じ派遣社員の藤原さんは、社員の諏訪さんに恋をしていた。

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