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スタートアップを「地方」でやることにこだわる理由

「東京に出てくるなら投資してもいいよ」

資金調達中にある投資家から言われた一言でした。コロナの影響で脱・東京と言われはじめているものの、スタートアップの世界では大学発ベンチャーや農業などの領域を除いては、まだまだ東京一極集中が続いています。

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「東京じゃないと成長のスピードが上がらないし、結果として大きくならない」

その言葉に悔しさを感じつつも、逆にやる気も感じた私がなぜここまで「地方」にこだわるのか。それは地方でやることにむしろ大きな可能性とチャンスを感じているからです。

私たちが掲げる「地域産業・レガシー産業のアップデート」は地域内を盛り上げよう、移住を増やそうといった地方創生ではありません。国際競争力のある産業を、地域・レガシーな産業を変革することで生み出し、そこから新しい雇用や文化を作ることで、その地域が地域らしさを発揮できる新しい経済循環モデルの確立を目指しています。

地方中堅都市で生まれ育ち、地方の公立高校・大学を出たあと、海外や東京で働いた私がなぜクアンドというスタートアップをUターンで創業し、何を実現しようとしているのかについて書いたnoteです。


自分探しで自分が見つからない大学生がシリコンバレーで見つけたこと

私は北九州という地方都市で生まれ育ちました。北九州は八幡製鉄所に代表されるように「鐵の産業」で発展したまちであり、TOTOや安川電機という世界的に有名な製造業の本社もたくさんあります。

実家は建設業を営んでおり、小さなころから倉庫にあるショベルカーやトラックが遊び場でした。大学進学までは特に明確な夢や目標を持っていたわけではなく、「スラムダンク」の影響ではじめたバスケットボールに明け暮れる中高生活でした。

高校3年生の夏も終わり、大学進学を考える時期になっても明確なやりたいことが見つからなかった私は、当時の成績から逆算して「頑張ればなんとか受かりそうで、だいたい学校のみんなが目指す地元の大学」という基準で九州大学を受験。

なんとなく理科が好きだけど、物理・科学・生物のどれかまでは決められないから、とりあえず全部できそうな学部学科という消去法で「地球惑星科学科」を選択し、AO入試という裏技で入学します。

そんな感じで入った大学の授業やゼミは当然身が入らず、大学で習ったことはほとんど覚えていません。高校生まではバスケや受験など目指すべき明確なゴールがあり、仲間と共にそのゴールに向かって熱中できる環境がありましたが、大学に行くとやるもやらぬも自分次第。

そんな状況で自分の内側から出てくる強い情熱や目標もなく、なんとなくサークルとバイトと授業をグルグル回る日々で、長期休みにはバックパッカーで海外に行って自分探しをする典型的なモラトリアム期間の大学生でした。

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バックパッカーで世界中をいくら回っても「本当の自分」は見つからず(そりゃそうですよね笑)、なんとなく「このままでいいのかな?」「自分って何がしたいんだろう?」とモヤモヤしていたところ、九州大学の卒業生でありシリコンバレーで成功した起業家ロバート・ファンさんや同窓生が「後輩達にも若いうちから外の世界に触れ、起業家精神を学んでほしい」という想いから寄付で立ち上げたシリコンバレー研修プログラム(QREP)に参加。

今ほど日本ではスタートアップが一般的でなかった時代でしたが、そこにいた人々は起業家精神の塊で、とにかく前向きで、チャレンジ精神があって、枠にとらわれない生き方をしていたことに衝撃を受けました。

九州大学のような地方大学にいると「安定的な大企業に就職し、安定した生活を送ることが人生の成功」という価値観があり、私も盲目的にその価値観に染まっていましたが、この経験をきっかけに、自分の知らない世界にどんどん飛び出して、もっと自由に、もっと挑戦できる人生を生きたい。いつかは自分でも世の中を変えるような大きなチャレンジをしてみたい!と思えるようになりました。

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就活、そしてP&Gへ

やる気はチャージされたものの、具体的に何をしていいのか分からなかった私はいきなり起業ではなく、まずは成長できる環境に身を置いて外の世界を見てみたいと考え就職活動をします。

モラトリアム大学生から一転、意識高い系学生に生まれ変わり、外資、コンサル、商社という就活ゴールデンコースを経てP&Gに行きつきます。P&Gはグローバルなビジネスリーダーを多く輩出しており、起業する際には必ず役に立つ能力が得られるだろうと考えていました。

P&Gでは製造や物流を担当するサプライチェーンの部署で、工場の生産管理や海外で新製造ラインの立ち上げなどを経験。特に学びがあったのが、入社2年目から参加したグローバルプロジェクトでした。

世界標準の製造ラインを新規開発するため、30名ほどのメンバーが世界中からイタリアに集まり、1年ほどかけて製造ラインを開発・テストし、初号機を日本に導入するというプロジェクトを経験しました。

それぞれの国民性の強みを活かしたグローバルチームで構成され、プログラマーはアメリカ人とインド人、メカエンジニアはドイツ人、プロジェクトマネージャーは中国人、現場の職人はイタリア人とまさにグローバルを体現したプロジェクトでした。(以下の写真は日本にラインを導入する際にメンバーが集まったときのプライベート写真)

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その中で、日本人である我々の役割は「世界で最もレベルが高い日本の現場作業者・オペレーターの知識や経験を、早期段階から製造ラインにフィードバックし、オペレーターが使いやすいラインを開発する」というものでした。

日本人の現場力は世界でもTOPクラスと認められており、現場の人の改善力や技術力は圧倒的でした。

「モノを作り、正しく届ける」という製造業の現場は、私の想像以上に複雑かつ多くの人が関わっており、現場でモノを作り、動かすことがどれほど難しいのかを知ることができ、いまに繋がる貴重な経験を沢山させてもらいました。


どういう世界が理想なのか?自分の人生のミッションを考える

P&Gは200年近く成長し続けている会社です。世界中の優秀な人材が「Touching Lives, Improving Life」というMissionをベースに切磋琢磨しなが日々事業に向き合ってます。

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一方でP&Gは米国上場企業であり、社内にいるとその大きなピラミッド組織にいるんだなと感じざるを得ません。全社の目標やゴールを最上位とし、リージョン、ブランド、部門、工場、部門、チーム、個人まで綺麗にピラミッド型に落とし込まれた指標を追いかけるために完成された組織でした。

イタリアで働き「人生として学ぶべきもの」は沢山ありましたが、正直に話すと仕事へのやりがいを感じられなくなっていました。

あるブランドの、ある製造ラインの、あるエリアの稼働率を1%上げるためにやっている仕事が、どのように社会や顧客にインパクトを生んでいるのか?本当に自分がやるべき必要のある仕事なのか?

日々の仕事と社会的な価値の結びつきが見えておらず、本気で仕事に取り組めていない自分がいました。(いまはその1%の重要性や社会的意義が分かるのですが、当時は局所的な部分しか見ることができませんでした)

そんな不安を抱えながら、将来の道を考えていた時、イタリア人の同僚がホームパーティーに誘ってくれました。そのパーティーでは私以外は全員が彼の地元の友達(イタリア人)。仕事の話だけではなく、家族、人生、その土地の歴史など色々と話す中で感じたのは、彼らが自分の土地や文化や産業を愛し、短期的な数値成長ではなく、本質的な価値を大切にしていたこと。

イタリアの特徴であるアンティークは、新しいものを買えない状況で、いかに古いもの上品に見せるか工夫されたもの。イタリア料理はシンプルで安い素材をいかに美味しくするか工夫されたもの。P&Gの開発パートナー工場がイタリアにあったのも、「モノづくりのクラフトマンシップ」を大切にするイタリアの都市が大切に育ててきた産業や文化の結果でした。

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自分が本当にやりたいことは何か?会社のブランドや給与ではなく、何に人生をかけられるのか?自分の人生を改めて考えたとき、「ピラミッド型で画一的なものを作り上げる世界ではなく、その土地独自の産業や文化を愛し、世界の各都市が自分達らしくあれる分散型の世界が美しい。そういう世界の実現にむけてなら人生をかけられるかもしれない」とボンヤリ考えたことが、クアンドのMissionである「地域産業・レガシー産業のアップデート」に繋がっています。


「地域産業・レガシー産業のアップデート」というMISSIONが決まった背景

起業を本格的に考え始めたとき、まだ「地域産業・レガシー産業のアップデート」というMissionはありませんでした。唯一決めていたことは、金融やゲームなどのデジタル完結型の領域ではなく、製造業や建設業や電力インフラなどリアルでアナログな業界に対してアクションを起こすこと。

それは、そのような業界こそが地方の経済や雇用を作っており、世の中の労働者のマジョリティであるにもかかわらず、多くの課題が放置されたままであると感じたからです。

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地元北九州を見れば、そこは世界でも屈指の製造業の街。世界的な産業ロボットメーカーの安川電機やトイレのTOTOなど世界的なモノづくりの基盤があり、市内には様々なモノづくり企業があります。起業初期はこのような地元の老舗企業を中心に、システムの開発受託やコンサルティングを提供していました。

そのような経験を通して感じたのが、地域産業やレガシーな産業の根深い課題です。現場では非常に優秀な人材が、高い技術とプライドをもって仕事に取り組んでいますが、ITから切り離されていることで効率化や付加価値向上の恩恵を受けられずにいる

ITの世界はどんどん進化し、そこで働く人々の生産性や働き方や産業全体はアップデートされていくのに、地域産業やレガシー産業は取り残されていっているように感じました。

このような現場のある産業こそ、ITの力を活用して変わるべきだし、変えられるはずだ。それが実現した先にまた新しい産業が生まれ、その土地らしい産業が育まれ、その土地を愛する人々が暮らす世界を実現したい。

それこそが、イタリアで感じた分散型世界の実現に近づくことだ。そういう想いで「地域産業・レガシー産業のアップデート」というMissionができました。

現場をもっと、スマートに

「地域産業・レガシー産業のアップデート」の1歩目として、現場のリモート・コラボレーションツール「SynQ Remote」を提供しています。どのようなサービスなのか気になる方はICCでのピッチ動画をご覧ください。

オフィスワーカーの仕事はITにより進化しました。分からないことはGoogleで調べ、Officeで資料を作り、Zoomで会議をし、Slackで経験者に教えをこうことができます。情報、知識、人が繋がったconnectedな世界であり、誰かの知識や経験を活用することができます。

一方、現場で働くフィールドワーカーは、現場でトラブルに遭遇しても、調べることも、誰かに頼ることもできず、自分で解決しなければいけません。つまりは、自分の経験や知識に頼るしかなく、他者とは分断されたdisconnectedな世界にいます。

SynQ Remoteはこの世界を変えます。現場で働く人々がいつでも、どこからでも繋がりあうことができ、自分の経験や知識に依存することなく、チームの共有知を活かせる世界にしていきます。

そして、この領域こそ、日本の強みを活かして国際競争力のある産業になり、地域産業・レガシー産業のアップデートが実現できる可能性があると思っています。SynQRemote(シンクリモート)によって、どのような世界を実現しようとしているのか、詳しくはこちらをご覧ください。

部活のようなスタートアップでみなさんをお待ちしてます

「スタートアップって、高校の部活みたいだな。共通の目標に向かってチーム一丸となって努力し、苦難をみんなで乗り越えて達成を一緒に喜べる。そして振り返れば自分もチームも成長している。大人になってもこんな青臭く、熱中できるものがあるってとても幸せだな」と最近よく思います。

こうありたい!という想いだけではじめた事業に共感してくれる仲間が集まり、その想いを自分事として実現すべくチーム一丸となって頑張っていると、そこに共感してくれたユーザーや投資家が応援してくれる。そうやって「想い」や「夢」が現実世界になっていくことこそ、スタートアップの醍醐味だと思います。

「地域産業・レガシー産業のアップデート」の実現に向けて、いまから面白い時期です。一緒にその世界の実現を目指してくれる仲間を募集してますので、少しでもクアンドのことが気になった方はぜひ下岡もしくはクアンドにご連絡ください!お待ちしています!

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QUANDO CEO。九州工業大学 客員准教授。建設設備会社瀬登 取締役。地方でのスタートアップ、事業承継、大学発ベンチャーについて書いていきます。