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【チリの語られざる歴史】映画『開拓者たち』感想【東京国際映画祭】

東京国際映画祭2本目『開拓者たち』
チリ出身のフェリペ・ガルベス監督の長編デビュー作となる作品だ。

舞台は20世紀初頭のチリ南部のパタゴニア地方。
島の領主から先住民を殺害する命令を受けた軍人。相棒はメキシコから呼ばれたハンターと先住民と白人の混血の青年。3人は先住民が暮らす場所へ旅立つが…というあらすじ。

ポスターも格好良い。

大好きな作品だった。今回の映画祭の中では一番好き。
冷たさを感じる色使いもエンニオ・モリコーネ風の音楽もツボ。

チリのフエゴ島で起きた白人による先住民の大量虐殺という「語られなかった歴史」が題材としている。そういう点ではマーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』とも通じているともいえるだろう。

上映後のフェルペ・ガルベス監督とのQ&Aによると、この虐殺事件はチリでは未だにタブー視をされているとのこと。
本作は何か国から出資を受けて製作されているが、チリからの出資が最後だったことからもこの作品への受け止め方が伺えるだろう。

そんな本作は「西部劇」の体裁をとっているが、中身は白人による一方的な虐殺や性加害を描いており「アンチ西部劇」となっているのが特徴的であり面白い。

自分は映画を観ながらケリー・ライカート監督の『ミークス・カットオフ』が頭に浮かんだ。あの作品は「西部劇」というジャンルを女性の視点で解体・再構築しているが、この映画も既にあるジャンルに新たな視点を加えるという点で共通している。

『ミークス・カットオフ』といい、『リバー・オブ・グラス』といいケリー・ライカートはジャンルの解体と再構築をよくしている印象

もちろん、こうした演出は意図的なもの。
フェルペ・ガルベス監督は西部劇映画がプロパガンダに利用された歴史について言及している。カウボーイによる先住民殺戮をエンターテインメントにしたことで、観た人が先住民の殺戮を疑問に感じなくなると。
「映画は現実を歪める」と語っていたのが印象的だった。

だからこそ本作は敢えて西部劇というジャンルを使うことで、西部劇への強烈なカウンターパンチを食らわしているのである。

この映画、3人による旅が描かれていくのかと思って観てると途中から思いもよらない展開へ話が進み出す。監督曰く「あらゆるジャンルを横断する作品にしたかった」とのこと。

どこに連れていかれるか分からない展開は人によって賛否あるかもしれないが、自分はこうした構成も楽しかった。本作は文字通り「開拓者たち」の物語へ収束していく。

フェリペガルベス監督(上映後のQ&Aより)

大量虐殺をするのもそれを暴こうとするのも白人。
結局のところ、支配層は変わらない。

映画のラスト、先住民の女性への「この国の一員になりたくないのか?!」という言葉にも傲慢さが伺える。彼らは最初からここに住んでいたのにおかしな言葉だ。

監督が野心的な場面にしたというラストシーン。この場面も印象的だ。
カメラを見つめる女性、その眼差しには確かな怒りが込められている。

【補足】

※東京国際映画祭の公式インタビュー。
製作には9年ほど掛かったとのこと。次回作がどんな作品なのか気になる。日本でも一般公開して欲しいなぁ…

※フエゴ島の先住民についての書籍
劇中、突如出てくる謎のキャラクターの元ってこれなのかな?読んでみたい…


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