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シェイクスピアの記憶 その24

◾️薔薇戦争(2019)@シアター風姿花伝 演出:木村龍之介

 ヘンリー六世の三部作とリチャード三世をまとめて上演してしまえ!という無謀な企画公演。ヘンリー六世とリチャード三世は、別日に観ることもできたけれど、丸1日かけて両方を観る、休憩含めて8時間超えの耐久戦に参加。役者とスタッフと観客と一緒に走り抜けたような一日。
 歴史劇、面白いじゃないか!

 長丁場の歴史劇を支えていたのは、何と言っても、リチャード三世でタイトルロールも演じた、河内大和。身体と声の表現の引き出しの多さ、自在さ。爪の先までコントロールされている。不具のリチャード三世の身体が美しく見える不思議。
 そして、ひとことで場をさらってしまう宮本裕子。若い俳優の多いカンパニーの中で、別格の存在感を放つ。蜷川演出のシェイクスピアも多く経験している彼女が、抑えた動きと声で表現する、感情の多彩さ、深さ。若手俳優とのレベルが違いすぎて、さすがの一言しかない。できれば、彼女が演じるマーガレットも見てみたかった。

 長くて登場人物が入り乱れる話を、面白く見せる演出の工夫は随所に。ヨークとランカスターの勢力は、運動会のように、衣装を白組と赤組に分けてわかりやすく。場面や台詞をカットして、展開はスピーディに。人物一人一人のキャクター造形が軽くなる分、権力の在り処がコロコロと変わっていく歴史の全体像が掴みやすくなる。
 ユージ・レルレ・カワグチの生ドラムの力も大きい。ジャズセッションのように、役者の動きと台詞に反応し、舞台のボルテージが上がっていく。

 良いところばかり書いたが、少し心配があるとすれば、若い俳優の使い方だろうか。足りない力量をパワーと勢いでカバーしている印象が強い。シェイクスピアの台詞に負けずに、感情を乗せようとすると、どうしても声を張って叫ぶようになる。それがダメだとは思わない。ただ、多くの役者たちは、まだそれしか表現の術を知らないように見えた。これからきっと色々経験して、変わっていくのだろう。今はまだそれでいいんだろう。でも、その割合が少し多すぎたように感じた。

 とはいえ、役者の熱量があったから、トータル8時間もの芝居に集中できたのは事実。そして、こんなに真っ直ぐにシェイクスピアに向き合って、命をかけるように芝居をするのを見たら、やはり応援せざるを得ない。


  

 

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