免許合宿10日目「脱走で生まれる絆、脱走で見つける道」

免許合宿10日目
日記作成者 下島
半谷との関係 良好
帰りたい度 20
朝食 無し
昼食 カレーライス 野菜サラダ
夕食 フライドチキン きんぴらごぼう ブロッコリーのツナ和え 味噌汁

今朝の朝食戦争は休戦であった。僕が今日全休であることを理由に昨夜ゲームに勤しんだからである。本当に全く起きれず、起きた頃には11時を回り、小太りがパワプロでチートを繰り返していた。

そのまま食堂に行き昨日食べたいねと半谷と話していたカレーが出たのでテンションややup。しかし今日は全休、午後は教習自体がなかったため、脱走するならこのチャンスを逃せはしない。しかし何をしようか。半谷の誕生日プレゼントに相応しいのは…そう考えて僕が出した答えは、キャッチボールであった。部屋に戻り僕らはリュックの中にグローブとボールだけ詰め、教習所を飛び出した。いつもは手ぶらなのに今日はリュックなんて持って、明らかに怪しい。そしていつもと違う点が1つ、それは教習所が休みであるが故に、プライベートの教官がどこにいるかわからないという点である。こうなってくるとマジで大人全員が教官に見えてくる。だったらわかりやすく教習車で街を走っていてくれた方が避けようがあるってもんだ。しかしそうも言ってられない。意を決してコンビニの脇道をダッシュで抜け、抜け山へと入った。先週半谷が向きを変えた看板が倒れていてゾッとした。きっと騙された教官が戻ってきて看板に八つ当たりしたのだろう。これは半谷の大勝利である。



山を抜け、大きな広場へ出た。荷物を置き、僕らはここでキャッチボールをした。本当だったらこんなこと、毎日当たり前にできるものだと思っていた。いつもより一球一球は重く、しっかりと土を踏み締めた。しばらくはこの時間を存分に楽しんだ。本当に心地のいい時間であった。肩も温まり、僕は腰を下ろした。22歳になったお前の全力を僕にぶつけてくれ、そう半谷に声をかけると、半谷はゆっくりと腕を上げ、そして僕に向かって思い切り腕を振りおろした。
「いでっ」
と声が聞こえると、ふわふわとしたボールは僕に届くまでに2回、地面を蹴った。半谷に目をやると彼は肩をおさえ、「22歳になりました」と微笑んだ。お前、もう若くないんかい。楽しいキャッチボールであったが、傍にあった何かの100周年記念碑と撮った写真の半谷の顔に笑顔はなく、痛みと老いを我慢しているようであった。



キャッチボールを終えたもののまだ門限までたっぷり時間があった僕らは街に降りることにした。最寄りのセブンまでしか外出を許されていないため、駅の向こうのファミマの戸を開き、例の入場テーマを聞いた時には感動すら覚えた。セブンよりも品揃えがよく、セブンに売ってないものをたらふく買い、そしてリュックに詰めんこんだ。半谷はライフガードを3本もカゴに入れ、いつもどっしり座っている目をキラキラとさせていた。

その後も僕らは街を歩いた。途中あった神社で合格祈願してきた。半谷は1円も払わずに神様に祈願していたため、多分落ちると思う。僕は半谷の分も合わせて10円を投げ、この無礼者を許してくださいと神に請うた。今日はそんな心の余裕があった。

もう少し歩いていると、市場にたどり着いた。1時間近く並び、アップルシナモン生クリームクレープを買った。鼻に生クリームをたっぷりとつけながらクレープを貪る半谷を、堪らなく愛おしく感じた。



その後スーパーに行き、ここでも普段買えないものを買った。ちょっと高い生卵を買ってみたりもした。

帰り道、本当にこんなに楽しい日が終わってしまうのか、そんな気持ちが先行し、気がついたら知らない道を歩いていた。門限は迫っている。だが僕らは笑顔で走った。僕らの走る先に、真っ赤な夕日があった。夕日は僕らに「お前らがNo.1だ」と告げてきていた。結局門限の3分前に寮に戻り、そのまま夕食に向かった。半谷とは「天下とったな」「俺らの優勝です」そんな会話をしながら楽しい食事の時間を過ごした。

今日は完全に僕らが勝ちました。明日も勝ちます。お前らも僕についてこいよ。一緒に歩もうぜ、ビクトリーロード。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?