免許合宿3日目「とっとこ大脱走、そして」

 免許合宿3日目
日記作成者 下島
半谷との関係 普通
帰りたい度 75
朝食 トースト ハムスクランブルエッグ スープ
昼食 ハヤシライス サラダ
夕食 豚の角煮 チキンナゲット ポテトサラダ なめこと豆腐の味噌汁

この文章を読んでいる皆さんは、昨日の半谷の「邪魔者の下島」を読んだだろうか?僕は一応、読んだ。そこには確かに、起床時に朝食の誘いを断ったことへの反省の弁が述べられていた。これは言い逃れのできない事実である。だがしかし、奴は今朝僕が朝食に誘うと赤い目を擦りもせず、ただ怪訝な表情でこちらを見つめてきた。怒ってるのか問うても、首を捻るばかりで話にならない。起きているのか寝ているのかもわからない。はぁ、本当に進歩のない男である。仕方なく、僕一人で食べてくる旨を伝えようと口を開いた瞬間、奴も同時に口を開き
「行きましょう!!」
と急に大きな声を出した。これはかなり怖かった。

さて、今日の本題はここからである。先程半谷のnoteを読んだと答えた方は、文の最後にPS4のHDMI端子を買いに行くために脱走を謀る、と綴っていたのを覚えているだろうか。奴のPS4の不具合のために僕も退校の覚悟を背負わなければならないことに不満を覚えつつ、かといってPS4でゲームをしたいのは僕も同じであるという気持ちが勝ち、脱走への同行を決意した。

朝食時に作戦会議をしながら、早くも予定外のことに気づく。日曜は教習全て休みであるのかと勝手に思い込んでいたのだが、どうやら休みなのは学科だけ。実技の方は全然休んでいなかった。それが何を意味するかといえば、教習車が路上をウロウロしてるということである。教官は常に車の中、外両方に目を光らせ、生徒が勝手な行動を起こしていないかを見張っている。大誤算。外に出てしまえばこっちのもんだと思っていたが、そうはいかないよう。ここで作戦を大きく練り直し、往く道を大幅に変えた。外出先のラインである最寄りのセブンイレブンから脇道に逸れ、猛ダッシュ。そこにあった山へ駆け込んだ。この時の僕らは、檻から脱走するとっとこハム太郎を彷彿とさせる走りだった。そう、これは外の世界に夢見て檻から脱走するハムちゃんずの大脱走劇なのである。教官に気づかれないうちに寮を出て、気づかれないうちに寮に戻る。これだけなのだ。途中何度も虫に刺され、行き止まりかと諦めた。しかしその度に虫を払い、ない道をひたすらに進んだ。半谷は途中で見つけた看板の向きを変え、追手を混乱させたりもしていた。なんだ、こいつもたまにはやるじゃないか、なのだ。


そんなこんなしているうちに街におりた。さすがに限界集落、若者がいるのは珍しいよう。すれ違う大人全員が僕ら2人をジロジロ見ている。街全体がグルなのか。僕らは都会のハムスターだと言うのに、これだから田舎ねずみの群れは。まあ特に何か言ってくるわけでは無いので気にせずに進む。ホームセンターに着き、目的の品を購入した。僕はどうしても寮の布団の硬さが許せず柔らかいマットレスの購入を諦めきれなかったが、バレるだろと一蹴され泣く泣く諦め、帰路についた。途中何度か教習車に出くわしたが、僕は人間として至って正常な反応を取ったまで、特に何も困らずに寮に戻れた。PS4も無事についたし、半谷と一緒にスリルを味わったことで、絆も深まったのではないか。

ここまでなら僕はこの日記を
「今日はとっても楽しかったね。明日はもっと楽しくなるかな!」と、ロコちゃんばりのポジティブで締めくくれていたと思う。半谷との関係性も良好にしていただろう。だがしかし、奴はこのままでは終わらなかった。

事件は昼食の時間に起きた。端っこの席が陰キャラ共により全部埋まっており、僕らは仕方なく4人席に座った。するともう2つの席に2人組の女の子が座ってきた。全然無視してハヤシライスを食べていたのだが、どうやら女子二人はこちらをチラチラ見ている。まさかさっきの脱走がバレていたのか?目が合い、ニコッと微笑んできた。これは確かめてみる必要がある。そう思った矢先、男は口を開いた。
「出身はどこなんですか?」
最初の質問がそれか?とかは今は置いといて、こいつの勇気に素直に感嘆した。それからは向こう2人も明るく話してくれ、どうやら同郷であるということもありまあまあ仲良くなった。僕らの持ち前のユニークで笑いをかっさらい、雰囲気も良くなったとこで奴は動いた。
「実は今日俺ら、脱走してきたんすよ」
待て待て待て待て。なんだこいつ。何だ急にマジで。何故それを言った?僕はまだこの女2人が教官の差し金である可能性を捨てきれていないぞ。ここは僕がなんとか嘘っぽい話にまとめあげなければ。
「実はこいつのPS4の調子が悪くて山越えて駅の向こうのホームセンターまで備品買いに行ったんだよねー笑」
あかん全部本当のこと言った。全部ゲロってしまった。これは明らかに僕が悪いのかもしれない。片方の女子は苦笑いをうかべ、もう片方は明らかに引いている。これはもうこの女2人をこっち側に引き込むしかない。席を立ち、半谷に情報収集のためにもあの子たちのLINE聞こうぜと言ってみた。
「いらないっす」
は?なんだこいつ。なに急にアウトロー気取ってんだ?きしょいってマジで。交換しようって。交換しようってまじでもー。
「いや、いらないっす」
それから部屋に戻り、奴は昼寝を始めた。くそ。またこいつに僕の友達作りを邪魔された。マジでふざけんな。諦めてそのまま僕も昼寝をした。

4時頃、目が覚めていた僕は生活日用品を買い足したく、半谷をコンビニに誘うため起こした。するとまた赤い目を擦りもせずにこう言い放つ。
「うーん。誰が悪いんすかねぇ…この僕のどうしようもない怒りは。」
昨日も今日も明日もお前だよ。

夕食の時間、また四人席に期待を込めて座ってみたが、今度は誰も来なかった。明日こそは、友達を。

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