道の彼方・(小説・第7回・完結編)
こんにちは、Shimizu_Tです。
今日は、超短編小説の第7回目です。
しかも、完結編。
これまでと同じように、実在するSさんとは全く関係ないフィクションです。(今回の文字数は、約1,700文字です)
C地方の自宅近くの貸金庫に預けてあった荷物を持って、男は静岡のアパートへ戻ってきた。
預けてあったのは、ノートが1冊と写真が数枚。
自宅で一緒に住んでいた女に見られると、どちらも揉めそうな物ではある。ただ、男としては、やましい気持ちは全く無い。
ノートには、自分の気持ちが綴られているだけ。
写真は、別の女性も写っているが、2人きりのものではない。
男は、その女性に対して好意を持っていたが、女性は全く受け入れてくれなかった。
キッパリと断られるのではなく、はぐらかされているといった反応だった。
C地方で一緒に住んでいた女と出会う前の話だ。
なぜ、そのノートと写真を、今になって貸金庫から持ち出したのか。
それは、男が自分の「死」を意識したからであった。
といっても、男が難病の宣告を受けたり、死期迫る何かがあったりしたわけではなかった。
男の知人が、急病で倒れたという知らせを何件か連続で聞き、そのうち1人が帰らぬ人となり、「もしかしたら、次は自分かも」と不安になったのである。
これまで、死を意識することは、ほとんどなかった。
退職して月日が経てば意識するかもしれないが、まだ現役の勤め人である。
人間ドックで異常が見つかったこともなく、健康には自信がある。
しかし、知人たちも同じような境遇であったらしい。
ということは、自分にも、突然の出来事がいつ起きてもおかしくない。
「もしかしたら、明日そうなるかも?」
男には思い込みの癖があり、いったんそう思うと、どんどん不安な気持ちになっていった。
「もし、明日、自分が死んだら?」
仕事の段取りとか、考えておいたほうがいいのだろうか?
いや、仕事なんて自分が急にいなくなっても、全然問題ないだろう。
それより、私生活のことはどうだ。
C地方で住んでいる女はどうなる?
最近は、一緒に住もうという気持ちがお互いになくなっているので、自分がいなくなっても女は困らないであろう。
そうすると・・・と考えた時に、「そうだ、ノートと写真を処分しておかないと・・・」と思い立った。
処分しないままで女に見られても、そのときは男がこの世にいないわけだから、男が困るわけではない。
しかし、だからこそ、女に変な誤解をされたくない。
それだけの理由で、わざわざ新幹線に乗って、静岡からC地方まで行き、貸金庫から取り出したのだった。
(数年後)
男は、静岡からC地方近郊の支店に転勤していた。
人間ドックで異常が見つかることはなかったが、ときどき不安になる出来事がいくつかあった。
突発的に心臓近くで痛みを感じたり、頭に不気味な鈍痛を感じたりした。
「もしかしたら、この場で倒れるかも・・」
最近は、そう思うことが多くなっていた。
女との関係は自然消滅していた。
関係を断つために何か行動をしたわけではなかったが、ずっと連絡を取らずにいた。
C地方の近郊に転勤したので自宅から通うこともできたが、あえてしなかった。
一人での生活に何の不便も感じず、二人で一緒に住もうという気持ちが戻ってこなかった。
二人で一緒に住み始めたときは、どんな気持ちだったのだろう。
お互いに、一緒に住むことで得られる何かを望んでいたんだろう。
しかし、韓国へ転勤する前から、お互いの気持ちはズレていたようだ。
少なくとも男はそう感じていた。
違う女との出会いを求めているわけではない。
「このまま、一人暮らしのほうが、気楽だ。」
「誰かと暮らすのは、自分には向いていないのだ。」
(了)
noteということで、何か創作的なことをしてみたいと始めた「超短編小説」を全7回で終わりとしました。
「結局、何が言いたかったのか?」
何が言いたかったのか、というよりも
作家の気分に、少しだけなってみたかった。
小説の展開を考えるのって、どんな感じなんだろう。
その雰囲気を味わってみたかったということです。
「いや、おまえ、小説書くことナメてるだろ!」
って、気にされた方がいらっしゃったら、ごめんなさい。
ここ迄お読み頂き、ありがとうございます。
いつものように、締めくくりはこの言葉で。
「毎日が、心穏やかに過ぎますように」
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