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【エスパルス】2022年J1第4節 vsC大阪(H)【Review】

現時点での完成度の差を見せつけられ、完敗と言わざるを得なかった横浜F・マリノスから1週間。
今節は、自信を持って「自分たちのサッカー」が貫けるか、リバウンドメンタリティも試される1戦でしたが、またしても為す術もなく敗れてしまいました。

今回も自分に見えたことだけ、端的に振り返ります。

1.スタメン

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エスパルスは、前節・横浜FM戦からコロリ→髙橋大悟、中山→山原を入れ替え。とくに今季初のリーグ戦スタメン出場となった髙橋大悟がどんな役割を託されていたのか、個人的には気になりました。

一方のC大阪は、前節・FC東京戦から丸橋→山中、加藤→山田、北野→為田の3枚替え。丸橋のベンチ外、為田のスタメン入りには意表を突かれました。

2.スタッツ

シュート本数こそ、ややエスパルスが上回ったものの、ゴール期待値は全く同じ0.93。C大阪がチャンスを確実にゴールへ結びつけた試合と言えそうです。

また、以下のデータで着目すべきは、鈴木義宜のパス本数が突出していること。これには、後述するC大阪の守備の狙いが関係しています。

3.前半

観客席にいても、季節外れの暑さ(暖かさ?)を感じたこの試合。ピッチ上で動き回る選手には、相応の負荷がかかっていたはずです。選手たちも、試合中に何度も給水をしていました。

そんな中、序盤はC大阪が勢いを持って前線からプレスをかけて、エスパルスのボール保持を許しません。
プレッシングの対象は、鈴木義宜。彼から前線にアバウトなボールを蹴らせたり、原のところへボールを誘導したりして、悠然とボールを回収します。では、具体的にはどのような仕組みだったのでしょうか。

【C大阪のプレッシング(下図)】

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エスパルスのビルドアップは、ディフェンスライン4枚+CH2人での前進が基本で、ボール非保持時4-2-3-1のC大阪とは形が噛み合ってしまいます。プレスをかけやすい条件が揃っていたのに加えて、C大阪はボールの経路を限定する策を講じてきました。

まず、ファーストディフェンダー(上図では山田)が、井林に正面からプレス。このとき、清武がボランチへのパスコースを消しており、片山には中原が、竹内には奧埜がケアしているため、前方への出しどころがない井林は、横にボールを動かします。

そして、鈴木義宜にパスが出たところで、清武が猛然とプレスを敢行。原には為田が、白崎には原川、髙橋には山中、前線の選手にパスが出てもCBが迎撃されてしまうため、時間とスペースを奪われた鈴木義宜は、相手の最終ライン裏に長いボールを蹴らざるを得なくなります。

足元の技術が特徴の神谷に、このボールを収めろというのは酷なもの。こうしてエスパルスはボールを取り上げられ、C大阪の運動量が落ちる前半25分ごろまで、ボールを繋ぐ形でのクリーンな前進を阻まれます。

【C大阪のビルドアップ(下図)】

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一方、C大阪は、右SBの松田を最終ラインに残して原川が中央に陣取る、3+1のビルドアップが基本線。
この形を取る狙いは、エスパルスの左SH(山原)の矢印を松田に向けること。ハイプレスを志向するエスパルスなら、山原は必ず動くはず、という事前の読み(スカウティング)もあったはずです。

山原を釣り出すと、C大阪はサイド際のSH(中原)がフリーに。ここを基点にボールを保持します。
エスパルスは、自陣にできてしまった相手の基点を放置できないので、片山が出て行きますが…(下図)

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エスパルスにとって厄介だったのは、CB-SB間を突くC大阪の攻め筋。この試合では一貫して、これに対するエスパルスの対応が曖昧でした。

上図では、奧埜がサイド奥へ走り込む形を例示しました。
これに竹内がついていくと、前線から清武が下りてきてボールを引き出します。ここに白崎が対応すると、背後の為田がフリーに。そして、大外では山中が自由を謳歌するなど、芋づる式に数的不利が発生する構図です。

このように、C大阪はCH(竹内)を本来の持ち場から離す動きをしてきます。今季のエスパルスは守備において、スペースを埋めるよりも人を捕まえにいく意識が強い傾向にあるので、これに食いついてしまうと、より危険な中央の広大なスペースを、もう1人のCH(白崎)が1人で埋めなければいけなくなってしまうのです。ここ2戦、CHのパフォーマンスが悪く見えるのは、2人に負荷がかかる仕組みだからでしょう。

また、逆サイドのSH(上図では髙橋大悟)は、カウンターに備えて、やや前残りのポジションを取る傾向にあります。これは「トランジション」を武器にしようとする今のエスパルスならではの現象であり、良さにも悪さにもなり得ます。

こうした中盤で優位性を築く構造を利用し、前半はC大阪が多くの時間で押し気味にゲームを進めます。また、C大阪は繋げないときは無理せずに前線のターゲットへ向けてロングボールを入れてきますが、セカンドボールの回収まで視野に入れ、再現性のある中央へのロビングが多く見られました。

【1失点目のシーン(下図)】

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山中と髙橋大悟がマッチアップした場面では、まずは高精度の左足が武器の山中にクロスを上げさせないよう、通常は「縦を切る」対応が基本です。実際、縦への突破を許してしまった山中のクロスも、「ここしかない」位置に上がった素晴らしいものでした。

ただ、仮に縦を切ったとして、中央に侵入されてしまった場合はどうするのでしょう?
上図の場面でも、為田がCB-SB間を狙っています。ここに対応するのは、白崎なのか原なのか。また、白崎が出ていった場合、バイタルエリア(赤で囲んだ部分)はどうやって埋めるのか。

簡単に振り切られてしまった髙橋大悟の対応がどうだったのか、今後チーム内で検証されるとは思いますが、守備のやり方を場当たり的な個人の判断に任せてしまうと、単に個人の身体能力が低いだけで、その箇所が穴になってしまいます

「チームとして」どこでボールを奪うのか。この「トランジションに頼らない」部分の構築は、今後進んでいくものと信じていますが…

4.後半

「冷静さとパワーを持って後半に入ろう!」という平岡監督の檄を受け、エスパルスは後半早々にスコアをタイに戻すことに成功します。

相手の最終ラインに生まれたギャップを見逃さずに走り込んだ髙橋大悟、そして全くパスを出す素振りを見せないように振る舞いながら、急所に適切なタイミングでボールを送り込んだ神谷。2人のファンタジスタの呼吸が合った、見事なゴールでした。

しかし、同点ゴールも束の間、C大阪に追加点を許してしまいます。またしても山中の一撃必殺に沈む形でしたが、構造的な問題点は、前半の欄で指摘したものと共通していました。

【1失点目のシーン(下図)】

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山中にボールが出たとき、誰がプレッシャーをかけに行くのか。それによって空いてしまうスペースは誰が埋めるのか。それらが曖昧なまま、こうしてクロスが特徴の選手に十分な時間を与えてしまっては、いかに優れたGKやCBでも防ぎようがないでしょう。

なお、このゴールの直前には、権田のクイックリスタートからボールを失っています。この判断の是非についても意見が分かれるところですが、チームの志向性を考えれば、彼の判断は理解できます。

ちなみに、2失点目の直後にも、同じような状況でクロスを上げられています(下図)。こうした「再現性」の顕在化は、C大阪がチームとして狙うべきところが共有されている証左でしょう。

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この後、エスパルスも早めのメンバー交代などでピッチ内にパワーを注入して応戦。一時はエスパルスが得意なトランジション合戦に持ち込み、コロリが絶好機を迎えるなど、得点を期待させる場面もありましたが、ゴールには至りません。

チームでのビルドアップが安定しない中で、途中からCBに入った原の持ち上がるドリブルや、それを助けた宮本の立ち位置、そして片山の機転、中山のスピードなど、個々の「フレキシブル」な対応で各々の特徴を出していたのは、ポジティブな材料だったと思います(下図)。

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しかし、ゲームとしては後半38分の3失点目で万事休す。ボールが行ったり来たりする展開で、スピードを活かして最終ラインの裏を取られる、痛恨の失点でした。これもCB-SB間(左SBには攻め上がった片山のカバーで宮本が入っていた)を突かれたものです。

【3失点目のシーン(下図)】

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5.所感

選手たちは皆、勝利を目指してピッチ内を駆け回り、戦っているはずです。誰1人として、自分の役割を放棄したり、試合が終わる前に勝利を諦めたり、力を出し惜しんだりしているようには見えません。

ただ、チーム全体で見た場合、そうした個々の働きが、有機的に機能していないように見えるのも事実です。特定の人や場所に負荷がかかっているように見えるのは、前述したとおり、構造的に負荷がかかる仕組みになっているからです。誰かが頑張っていないからでも、勝ちたい意欲が少ないからでもありません。

サッカーが11対11で行われるゲームである以上、この日のC大阪や前節の横浜FMのように、ピッチ内の全員が同じ画を描いて動き、明確な狙いを持っているチームが強いのは自明の理であり、個々の力量で劣っても、チームで勝利を掴めるのがサッカーの魅力でもあります。

自分の頑張りが勝利に結びつかないもどかしさは、よくわかります。ただ、そのフラストレーションの矛先は、あくまで次の戦いに向けてほしい。
選手間での意思疎通を欠いているのであれば、徹底的に議論すればいいし、監督と意見をぶつけ合ってもいい。そうやって、「強いエスパルス」を期待している様々な人たちに、ピッチ上で自分たちの矜持を見せつけてほしいと切に願います。

サポーターは、期待して応援することしかできません。自分に見えたことをこうしてブログに記しても何の解決にもなりませんが、ピッチの中で起きていることの理解につながり、ほんの少しでも、スタジアムがポジティブな空気に包まれる助けになればいいなと思います。

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