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【エスパルス】2020年J1第16節 vs鹿島(H)【Review】

過密日程を考慮して、メンバーを入れ替えて臨んだ一戦。ブラジルデーなのにブラジル人がベンチ入りを含めて2人という寂しさもありましたが、イベントと試合は別です。

前半、良い入りをしたものの、自陣の安易な繋ぎのミスもあって2失点を喫し、自らゲームを難しくしてしまいました。後半の決死の挽回も空しく、24年ぶりの6連敗となりましたが、ポジティブに捉えられる点もいくつかあったと思います。

失点シーンの分析はどなたかがやってくださると思うので、私は「入れ替わった選手がもたらしたもの」を中心に見てみます。

1.スタメン

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エスパルスは第15節・広島戦から6人を入れ替え。ここまで大きなメンバー変更は珍しく、とくに中盤3枚は総替えとなり、どんな化学反応を見せてくれるか注目が集まりました。河井さんには期待しかありません。

対する鹿島は、前節から4人を変更。代わって入った選手は、レオシルバや杉岡など、より個の力を強調したメンバーに見えます。

システム(初期配置)は、エスパルスがいつも通り4-2-3-1、鹿島は伝統の4-4-2。ボール保持時には、エスパルスはWGは幅を取りますが、鹿島はSHが中に入りSBが相手を広げる役割を担います。
また、この日は両チームとも、CHが1枚下りてボールを運ぶ形が度々見られました。

2.前半

(1)エスパルスのボール保持

前半は、序盤からエスパルスがボールを握る展開。先発を掴んだ中村・河井・鈴木らが積極的にボールサイドへ顔を出し、小気味よいテンポで前進していきます。

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鹿島は、様子見のためか、4-4の守備ブロックを低めに構え、エスパルスを待ち受けます。エヴェラウドを前に残し、土居は頻繁にDFラインに下りる中村慶太をケア。序盤は、ボールホルダーのCBには相手SHがプレッシャーをかけに来ます。

エスパルスの左サイドを例に取ると(上図)、立田が時間を得てボールを持ち上がる間に、金井は相手SHの裏(ハーフスペース)へ。この位置で相手CH(三竿)を引きつけます。
鹿島は中央をCH2枚でカバーしているため、もう1枚のCH(レオシルバ)は鈴木・河井の2人を監視せざるを得ず、エスパルスは中盤で数的優位に。序盤はこの優位性を活用し、中央を経由してボールを保持します。

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上図は、現地で見ていて思わず溜息をもらしてしまった河井のスルーパスのシーン(14:45)。これも中央を切り裂いた場面ですが、河井がボールを受けて瞬時に前を向き、ドリブルで持ち上がる間に相手の隙を見つけ、鋭いパスを出すまでの数秒には、彼の持ち味が凝縮されています。
カルリーニョスのコントロールがやや乱れてしまったのは残念でしたが、ボール保持は手段でしかなく、ゴールへ最短距離で迫れるならば、それが最も効率的かつ効果的です。ボール保持は、相手を動かし、隙を作るための作業であるべき、そんな本質をよく理解している河井ならではのファインプレーでした(褒めすぎ?)。

また、こうした中央を使った攻め上がりは、最近の試合ではなかなか見られなかったものです。参考に下図をご覧ください。

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(出典:Football LAB https://www.football-lab.jp/visual/entry/19/
第14節・柏戦の、自陣から敵陣へのパスを図示したものですが、自陣中央→敵陣中央のパスがほとんどないのがわかります(ぜひ、他のチームの図と比べてみてください)。
今節の前半のアタッキングサイドを見ると、左39%、中央13%、右48%となっていましたが、中盤のトライアングルによる「縦の出口」があったからこそ、サイドへの展開がよりスムーズになった側面があると思います。

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続いて、上図は右サイドからのボール保持ですが、こちらでも河井がボールサイドに寄ることで三角形を形成。金子・宮本・河井がポジションチェンジをしながら、ボールを前に進めます。

ただし、右からの攻撃はやや迫力を欠きました。その要因として、トップ下の鈴木のポジションが左に偏る傾向が見られ、彼を含めた4人目の動きが乏しかった点が挙げられます。

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また、上図は2失点目の直後、岡崎がボールを失った場面ですが、前方へのパスコースは多く見積もっても2つ。河井との距離が遠い上図のような局面では、もっと前線の選手が顔を出して欲しいのですが、ポジションのバランスが悪い場合は思い切って後ろからやり直す選択肢も常に持っておきたいところです。

(2)鹿島のボール保持

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鹿島のボール保持では、両SHが中央に入り、シャドーのように振る舞います。厄介だったのが前線からタイミング良くボランチ脇に下りる土居の動きで、右サイドでは土居を中心としたトライアングルが脅威でした。

また、鹿島の左サイドは、和泉が中に入ってSB(宮本)を引きつけ、空いた大外のスペースに杉岡がオーバーラップし、犬飼からのロングフィードを飛ばす形が何度か見られました。

エスパルスは、やはりファーストディフェンダーが定まらず、パスが出てからボールホルダーにアプローチする(遅い)ことが多いため、1枚、1枚と順番に剥がされてしまいます。
全体として、どこでボールを奪うのか、そのためにどうやって相手を誘導するのか、ボール非保持時の整理は必要かと思います。

3.後半

後半はお互いに選手交代でフレッシュな選手が入り、一進一退の展開。
後半34分、鈴木が見事なターンからペナルティエリアに侵入、ティーラシンの意地のゴールに結びつけましたが、その後はエスパルスが勢いを持って攻める展開が続きました。

その中で、良かったシーンを2つ、ピックアップしてみます。

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まず1つ目(上図・2枚)は、後半38分、立田から中間ポジションの後藤に縦パスが入ったシーン。後藤がダイアゴナルに走りボールを引き出す良い動きを見せましたが、パスは犬飼にカットされ、ボールが中盤にこぼれます。

ここにいち早く反応したのが、途中出場の18歳・成岡輝瑠。この反応スピードがまず素晴らしいのですが、彼の本領はその先にありました。
セカンドボールを拾いに行きながら、顔を上げて周囲の状況を把握。左サイドの奥で、ドゥトラが裏を狙っているのを見つけた成岡は、拾ったボールをダイレクトで(しかも左足で)裏のスペースへ送り込みます。

ロビングを正確に届ける力もさることながら、彼はドリブルしている際も、常に顔を上げて周囲を観察しているのがわかります。セカンドボールの奪取を含め、観察力に裏打ちされた「先を読む力」は、超高校級どころか、スタメンに値するだけのものを感じます。

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2つ目(上図・4枚)は、前述のシーンの後、ドゥトラのフォローに入った六平からのリターンパスがズレてしまい、相手にボールが渡ったシーン。いわゆるネガティブトランジション(攻→守の切り替え)の場面です。

三竿は前線に張る上田にボールを預けますが、後方から岡崎が素早くアプローチするとともに、成岡が背後のパスコースを切りながら上田に寄せます。また、右サイド奥にいた鈴木が猛然とダッシュして戻り、後藤もプレスバックして、上田からボールを取り上げることに成功します。

そのボールがこぼれ、最終的には犬飼の元にたどり着きますが、鈴木が直ちに2度追いをしてGKにボールを下げさせます。GKに対しても、ティーラシンが敢然とプレスをかけて、タッチラインの外にボールを蹴らせて、最終的にマイボールにすることができました。

私はこのネガティブトランジションからの一連の流れこそ、シーズン当初からクラモフスキー監督が目指してきた姿だと思います。劣勢の終盤とはいえ、交代で入った選手たちの守備意識は非常に高く、それが良い攻撃を生む好循環を作っていました。
こうした場面を1回も多く作っていくことが、今のチームには必要なのではないでしょうか。

4.今後に向けて

中村慶太の剥がす力と、チームの潤滑油として機能する河井による縦のラインを活用したボール保持、鈴木唯人の力強いプレーぶり、成岡の完成度の高さ、久しぶりの出場となった六平の安定感、ティーラシンのハードワーク・待望の得点など、試合から遠ざかっていた選手たちが持ち味を発揮したことは、この試合のポジティブな点といえるでしょう。
強いチームは、もれなく選手層が厚いものです。ますます競争が活発化し、誰が出てもチームのコンセプトを表現できるようになることを期待しましょう。

一方で、ボール非保持時におけるボールの奪いどころや、繋ぐ・蹴る場面の状況判断、アタッキングサードでの崩しの質などは、改めて課題として浮き彫りとなりました。
こうした課題解決のアプローチとして、クラモフスキー監督は決まりごとを増やすのではなく、選手自身が考え、決断し、解決できる力を、試合を通じて育んでいるように見えます。

前年に残留争いをしていたチームには、極めて険しい道のりかもしれません。それでも選手たちは、監督を信じて必死についていこうとしています。
ならば、サポーターも信じるのみ。
結果に一喜一憂せず、前向きなチャレンジやできたことを正しく評価する、そんな空気を作っていきたいものです。

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