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【エスパルス】2022年J1第2節 vs磐田(A)【Review】

絶対に負けられない戦い。いや、勝利を義務づけられた戦い
どこかのテレビ局が使いそうなフレーズですが、エスパルスサポーターにとっては、磐田との対戦こそがその対象にあたります。

ただ、ゲームというのは、強い気持ちだけでは勝てません
人一倍負けず嫌いで、磐田からの勝利に拘る平岡監督は、この一戦に対して周到な準備をしてきたように思います。

では、どのような準備だったのか。この試合から見えたことを振り返ります。

1.スタメン

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エスパルスは、ベンチ入りのメンバーを含めて第1節と同じ顔ぶれ。
スタメンは、中山→コロリが変更となったほか、ビルドアップを考慮してか、鈴木(義)と立田を左右入れ替えました。

一方の磐田は、前節ベンチ外の金子が黒川に代わりスタメン。黒川は怪我ではないようなので、敢えて金子をダービーにぶつけてきたのでしょうか。

2.スタッツ

磐田の選手が2名退場したとはいえ、結果的にシュート21本(うち枠内10本)を放ち、走行距離・スプリント回数も相手を大きく上回る完勝。
終盤、立て続けのチャンスをキチンと決めていれば…と思わずにはいられませんが。

3.前半

試合の立ち上がりは、磐田が今季取り組んでいる、主に右サイドの立ち位置を可変させるビルドアップでボールを保持。ボールを失っても、すぐにプレスをかけ直し、エスパルスにロングボールを蹴らせてボールを回収します。

一方のエスパルスも慌てることなく、アグレッシブなプレスから中盤でボールを奪い、速い攻撃を志向する自分たちのスタイルを披露。前半5分までに2本のシュートを放つなど、両チームともこのゲームに懸ける意気込みを感じさせる積極的な入りを見せます。

ここで、磐田のボール保持の形と、その形によって起こる現象に着目してみます。

【磐田のビルドアップの仕組み】

磐田は、右CBの伊藤をワイドに押し上げ、右WBの鈴木(雄)を高い位置に。最終ラインには中盤から山本(康)が下りて、エスパルスの2トップに対して数的優位(3vs2)を作り、エスパルスの両CHの脇では遠藤・金子がボールを引き出します(下図)。

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磐田は伊藤が最終ラインにとどまる(4vs3)こともありますが、これはエスパルスの左SH(神谷)のベクトルを彼に向けて動かすため。
磐田は神谷の挙動を見ながら、杉本や金子の動きを組み合わせて、右WB(鈴木雄)のところに基点を作ります(下図)。

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磐田は、ひとたびサイドに基点ができると、CHが寄ったり、SBが追い越したりして、人数をかけて同サイドを崩しきろうと試みます。エスパルス在籍時からハーフスペースで良い仕事をする金子、狭いスペースでもボール扱いを苦にしない遠藤など、各々の特徴を活かした攻撃を仕掛けてきます(下図)。

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一方で、磐田が片方のサイドに人数をかけてくれば、反対側には広大なスペースができることに。こうしたビルドアップの構造が、前半9分のエスパルスの先制点につながります。

【前半9分 エスパルスの得点シーン】

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エスパルスの自陣中央、磐田の杉本にボールが渡ったところで、竹内が背後から鋭くプレッシング。苦し紛れの横パスが竹内に当たって変化したこぼれ球に神谷が素早く反応し、カウンターに移ります。

神谷は対面の大井に向かってドリブルして大井をピン留めし、横を走る鈴木唯人と磐田の最終ラインになっている山本(義)が1対1になるように仕向けます。

ここで、山本(義)が神谷→唯人へのパスをカットしようと前に出たことで、結果的に唯人が抜け出す形となりましたが、仮にカバーリングの動きをしていたとしても、山原が飛び出す形ができていました。

これは、磐田がネガティブトランジション(攻→守への切り替え)においてできる弱みを咎めたもの。磐田が右サイドを可変させて基点を作り人数をかけることで逆サイドにできる広大なスペースを突くとともに、磐田の選手の戻りが遅くなるところまで織り込んでいたはずです。

神谷を左SHに、山原を右SHに起用した点にも、事前のスカウティングを踏まえた準備の周到さを感じます。

狙い通りに先制点を奪ったエスパルス。その後もボールこそ持たれど、焦れない戦いをしていましたが、一瞬の綻びを突かれて失点してしまいます。

【前半22分 磐田の得点シーン】

磐田の右サイドからの攻撃が詰まり、後方へ戻してやり直した場面。大井は冷静に戦況を見極め、エスパルスの最終ラインのズレを見逃しませんでした(下図)。

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狙われた形になった片山ですが、磐田が自分のサイドに基点を作って人数をかけ、常に周囲に人がいる状況で、彼の認知には相当の負荷がかかっていたのではないでしょうか。

(大井選手の試合後コメント)
相手のDFラインが少し中途半端だったので、何本か狙っていました。(杉本)健勇もそのときしっかり動いてくれていたので、相手が少しつられたかなと思い、ボールを出しました。雄斗のタイミングも良かったですし、決めてくれた雄斗のおかげで付いたアシストですが、ああいう形は今後も狙っていきたいと思います。

エスパルスは、もう少しボールを保持できればリードを活かした試合展開に持ち込むことができたのかもしれませんが、ビルドアップの形は磐田のシステムに噛み合ってしまい、ややスムーズさを欠きました。
ただ、中途半端にボールを失って後ろ向きの守備を強いられるよりは、相手の背後に蹴って磐田の陣形をひっくり返してしまった方が良い、という考え方なのでしょう。

【エスパルスのビルドアップ】

磐田は杉本がワンサイドカットでプレスをかけつつ、大森が左肩上がりでエスパルスのCBを牽制。鈴木義宜は相対的にパススピードが遅く、少しボールの持ち方にモタつきがあるので、狙いやすかったのだろうと想像します(下図)。

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磐田は押し込まれると5-4-1の形でリトリート。エスパルスもライン間に選手が入り込み、縦パスを差し込もうとするものの、なかなか相手の背後を取ることができず、ポゼッションからチャンスを生み出すシーンは限定的でした(下図)。

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こうして前半は、双方が自分たちの狙いに引き込もうと駆け引きをする見応えのある展開で、一進一退のまま終了します。

3.後半

後半、平岡監督は2つの修正を施します。1つは、CB(鈴木(義)・立田)の立ち位置を左右入れ替えること。もう1つは、後半5分という早い時間帯での選手交代。恐らく前半に受けたファウルの影響もあって運動量が落ちたコロリに代えて滝を、そして山原に代えて背後を狙える中山を、それぞれ投入します(下図)。

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(平岡監督の試合後コメント)
ビルドアップのところで相手にプレッシャーをかけられていたので、そこでエリアを狙うか、どういう風に人数をかけていくのか、そこは修正した。

上記のコメントと、後半開始直後、立て続けに左サイドから右サイドへの大きなサイドチェンジが続いたことから推測すると、当初は敵陣の右サイド奥のエリアを狙っていたものと思われます。

ところが、前半からハードワークをしていた神谷に疲労がみられ、SHの守備のポジションに戻りきれず、左サイドから押し込まれるシーン(下図)が続いたのを見た平岡監督は、守備の穴が顕在化する前に修正を図ります。

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(平岡監督の試合後コメント)
(中山は)左に替えた。最初は彼の得意の(相手の)背後のところを取らせようと思ったが、神谷が疲れてきて、守備に戻れなくなっているところがあって、鈴木(雄)を警戒しているところがあったので、中山に戻ってもらうような形にした。あとは前に出ていく推進力があるので、そこを上手く活用したかった。

中山は左サイドの高い位置に張り、磐田の右CBの注意を引きつけます。空いたCBーSB間には、片山がインナーラップできるように。また、神谷を最前線に、唯人を2列目に置く配置転換を行い、滝には守備時にサイドをケアする役割を与えつつ、攻撃時にはハーフスペースでWBと駆け引きする立ち位置を取らせました。
同時に、ビルトアップを(2CB+SB)+2CHの形に変更することで、ボール回しの安定感を増すとともに、相手の2列目を強制的に前に引っ張り出し、唯人がボールを受けるスペースを創出しました(下図)。

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中山は、右サイドでウイング然と振る舞うイメージでしたが、思えば2/19のルヴァンカップ・名古屋戦で、平岡監督は中山を左SHで起用しています。
これも「プランとして考えながらやっていた」と言うのだから、心底恐れ入ります。すべては磐田から勝ち点3を奪うため。平岡監督の戦いは、とっくの前から始まっていたのです。

この采配が見事に的中し、エスパルスに勝ち越しゴールをもたらします。

(後半22分 エスパルスの得点シーン)

磐田のスローインの流れから、竹内が粘り強いディフェンスで相手をサイドに追いやると、山本(康)は焦ったのか、長めのパスを中央へ。これを相手の前でカットした鈴木(義)は、ダイレクトで前線の神谷に配球します(下図)。

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神谷は鈴木(唯)に落として前を向き、リターンを受けて前進します。ここに鈴木(唯)が立っていたのは、前述の選手交代で意図した形。そして、中山が相手の背後に走り出すのも、前述した磐田の弱み(攻→守の切り替え)を突いたもので、エスパルスの狙いが一貫しているのがわかります。

また、中山のシュートが素晴らしいのはさることながら、周囲の選手の動きにも、片山がインナーラップして中山のカットインするスペースを空ける献身性、神谷・滝・白崎が長い距離をランニングして攻撃に厚みを加える一体感など、平岡エスパルスのエッセンスが詰まっていました(下図)。

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4.所感

終盤は、磐田に退場者が相次いだり、ゴールを決めるチャンスをことごとく逃したりと、お世辞にも褒められる試合の締め方ではなかったものの、なんとか無事に試合を締めくくり、第2節にして初勝利。
3年ぶりの磐田との対戦で味わう勝利の美酒は格別でした。最後までハードワークを貫き、ミッションを果たした選手たちを、本当に誇りに思います。

傍目には前線の選手の活躍が目立った試合でしたが、最後に触れておきたいのは竹内の貢献度。ピンチを未然に防ぎチャンスに変える、この試合での彼の献身はすさまじく、それを裏付ける手元の集計データもあります。

私の集計によると、前半に20回あったポジティブトランジション(守→攻の切り替え)のうち、14回(7割)が竹内がらみ。パスカットやセカンドボールの奪取など、彼ならではの鋭い読みと危機察知能力、そして奪ったボールを味方に繋げて速い攻撃に繋げる確かな技術が、静岡ダービーという大舞台で最大限に研ぎ澄まされたと言えそうです。
走行距離やスプリント回数といった数値に表れない、こうした地味ながら重要な役割にも目を向けて、その貢献を称えたいと思います。

今節は非常に大きな勝利でしたが、苦しい台所事情を強いられる中、総力戦で挑む過密日程が続きます。タイトル奪取という今季の目標に向けて、これからも「 #一戦必勝 」をキーワードに、選手たちを後押ししましょう!

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