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【エスパルス】2020年J1第17節 vs湘南(A)【Review】

1つの白星を掴むまでに、これほどの時間がかかるとは… しかし、苦難の道を歩んできた分、久しぶりの勝利の味は格別でした

Jリーグ通算400勝か、はたまたクラブワースト記録の8連敗か。
最下位を争う両チームの対戦で「裏天王山」などという不名誉な肩書きがつけられ、どちらに転んでもクラブの歴史に刻まれる一戦となってしまったこの試合、監督も「トーナメントのつもりで戦う」と語るなど、誰もが並々ならぬ気合いと大きなプレッシャーとを隣り合わせにして、ゲームに臨んでいたと思います。

そして、結果こそ3-0と差がついた試合となりましたが、ピッチ上ではどんなことが起こっていたのでしょうか。
この勝利をフロック(思わぬ幸運)と言わせないためにも、できたこと・できなかったことを振り返り、ここからもう1度、新たなエスパルスとともに歴史を作っていきましょう

1.スタメン

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エスパルスは前節(第24節)と同様に3バックを採用。ボール保持時は3-1-4-2、ボール非保持時は5-3-2で構える形です。
CBには出場停止の立田に代わって、六平・ヘナトが入るスクランブル体制。とくに六平のCBは、遠い昔に見たことがあるような、ないような…

【六平の試合後コメント】
(センターバックは)連戦だったので、練習ではやっていなくて、ぶっつけ本番だった。ただ、過去に1回だけやったことがあったし、練習でも入ったこともあったので、何となくイメージはあった。

前線の並びも、前節の1トップ・2シャドーではなく、2トップ(カルリーニョス・ドゥトラ)の布陣を敷いてきました。相手とシステムを揃えるためか、2人の推進力に期待した起用か、様々な解釈があると思います。

一方の湘南は、前節から1週間空いたこともあり、大きなスタメン変更はなかった模様。ベンチ入りの選手も含めて全員が日本国籍というのも、サボらずハードワークするチームの特徴を表わしているような気がします。

2.試合の流れ

(1)湘南のハイプレスを、エスパルスはどうやって剥がしたのか

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エスパルスはシステムこそ変われど、ボールを握って相手を敵陣に押し込みゲームを支配する狙いはいつも同じ。湘南はその狙いを阻止しようと、試合冒頭から激しいハイプレスを仕掛けてきます。
湘南は、エスパルスの3バックに対して、CBの横パスをスイッチに数的同数のプレスを試みます(上図・3枚)。湘南の2トップは、まず1枚がエスパルスのCBにプレッシャーをかけ、もう1枚はアンカー(竹内)を押さえてから前に出て行く形。足りない3枚目は、インサイドハーフが飛び出して帳尻を合わせます。

エスパルスはGKを含めれば4対3の数的優位なので、左右のCBにプレスがかかったとき、GKを使うなどして上手く逆サイドに展開できればボールを前進させられます。
序盤は相手のプレスを真っ向から受けて剥がすのに苦労しますが、次第に相手FWがアンカーをケアしてからプレスに向かう動きを逆手に取り、竹内がタイミング良く最終ラインに下りる動きで相手FWを引き連れ、CBへのプレスを緩和。エスパルスは、こうして時間を得たCBの持ち上がりにより、徐々にボールを前に運べるようになっていきます。
この試合では、右サイドにドリブルでボールを持ち上がれるヴァウドに加えて、動いてボールを引き出せる後藤がいたこともあってか、主に右から前進します。

一方、左サイドの持ち上がりはスムーズさを欠き(理由は後述)、無理せず長いボールをシンプルに前線へ当てる形が何度か見られました。

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ヴァウドの持ち上がりに合わせて、金子が高い位置を取って相手WBをピン留め。後藤は相変わらずの動き出しでスペースを創出し、空いたところに2トップや金子、さらには中村が入り込みます。

このような、サイドの位置取りによる相手のピン留めや、味方が空けたスペースの活用、相手の立ち位置の中間に立つポジショニングは、日頃やっていることと同じ。形は3バックでも、ボール保持時の西澤・金子の役割は4バック時のWGと同じです。
また、この日は中央のカルリーニョスとドゥトラが近い距離でプレーしていたことに加え、3CB+竹内でボールを運べたことで中村慶太が不必要に下りず、受け手として機能していたこともあり、相手の2列目と最終ラインの間に多くの選手が配置できたことも、ビルドアップを助けていました。

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前半の途中からは、六平がアンカーの位置に上がることで相手2トップの注意を引き、CBの持ち出しをサポート。これにより竹内が、後藤が引いて空いたスペースに飛び出すなどビルドアップの出口としても機能し始めます。

こうしてビルドアップの出口を複数用意することで湘南のプレッシャーを空転させ、徐々に相手も高い位置からのプレスを自重。プレッシャーに負けて安易にボールを蹴り出すことなく、しっかりボールを保持することで、全体としてエスパルスが主導権を握る時間が長かったように思います。

(左サイドのボール運びがスムーズさを欠いた要因)

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一方で、左サイドが詰まりがちだった原因の1つに、ヘナトの「ボールの離し方」があります。ヘナトは従前から、相手からのプレッシャーを受けていない場面でも、ボールを持ちたがらない傾向にあります。
上図(2枚)が典型ですが、このように自分の前方にスペースがある状況でも、近くの選手の選手にパスを出してしまう場面が目立ちました。

ここで西澤にパスを出しても、西澤は相手WBを背負っているので、ボールを戻すか自力で突破するしかありません。そこで、通常はボールをそのまま戻しますが、そうすると相手(上図では茨田)のプレッシャーを呼び込むことになってしまいます

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理想は上図のように、自分でボールを運び、味方についているマークのベクトルを自分に向けること。彼なら、できないことはないはずです。(閑話休題)

(2)エスパルスが狙っていたスペース

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先に述べたように、エスパルスは両WB(西澤・金子)がサイドに張って高い位置を取るとともに、2トップ+CH(中村)が中央に位置するため、湘南の3バックの脇(上図の赤丸の箇所=ハーフスペース)にはポッカリと穴ができます
恐らく、この試合のエスパルスの狙いは、このスペース。

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それはカウンターの場面でも同じ。後藤の抜け出し→クロスから生まれた待望の先制点も、まさに3バック脇のスペースを有効活用したものです。

ただし、相手のインサイドハーフやアンカーが戻ってきて、そのスペースを埋められてしまえば、元も子もありません。そうならないように、エスパルスは「縦に早い」攻撃を志向しています。

この試合、相手監督のコメントもあり、エスパルスがロングボールを多く使っていた印象があるようですが、エスパルスがこの試合で使っていたのは「ロングボール」ではなく、最終ラインの横にできるスペース。そのために、前線の選手が正しいポジションに立ってしっかりボールを繋ぎ、前線にボールを早く届けていたのです。
いつもに比べれば、多少アバウトにボールを放り込む場面もあったかもしれませんが、それは2トップの身体的・技術的な優位性を活かした攻め手の1つであって、それ自体が狙いでありません。

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一方、ボール非保持時(守備)の局面では、中盤3枚がハーフスペースを徹底的に封鎖。「自分たちが使いたいスペースは、相手には絶対に使わせない」、そんな意図が垣間見えました。

エスパルスは、相手CBの持ち上がりを許容する代わりに、相手のボール回しを外に誘導し、クロスを上げさせてはヴァウド・ヘナトが弾き返します。
この守り方は、前節・横浜FM戦の後半(4-3のブロック)から着想を得たものかもしれません。

(もし4バックだったら…)

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もし相手のシステムに噛み合わせず、いつも通り4-2-3-1で守っていたら、どうなっていたでしょうか(上図)。

ピッチ内に複数、相手選手がフリーになっているスペース(丸で囲んだ箇所)があるように、恐らくこうしたシステムの構造的な弱点を突かれて、ゲームが難しいものになっていたと思います。

クラモフスキー監督は、理想的なサッカーを追いつつも、現実的な判断もできるということを示してくれました

(3)ネガティブトランジション(セカンドボールの回収)

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ビルドアップの項目で、「相手の2列目と最終ラインの間に多くの選手が配置できたことがボールの前進を助けた」と書きましたが、それはボールを失った瞬間の即時奪回にも寄与することを意味します。

上図は後半のボール保持の局面ですが、片方のサイドにこれだけ多くの選手が密集しています。いずれの選手も、こうした狭いスペースを苦にしない技術を持った選手ばかりですが、仮にボールを失っても、味方が近くにたくさんいるため、すぐにボールを奪い返して2次攻撃に繋げることができます

また、すぐにボールを奪い返せなくても、相手を押し込んでいるおかげで、相手のカウンターの起点となる2トップにはヴァウド・ヘナトがタイトにマークしているうえ、六平が1枚余って真ん中のスペースをカバーしており、セカンドボールの回収やリスクマネジメントの観点からも合理的です。

さらに、逆サイドでは、西澤がハーフスペースで得点チャンスを虎視眈々と窺っています。後半ATの3点目などは、この形が奏功したと言えるでしょう。

本来、監督はできるだけ高い位置でボールを奪い返し、相手を押し込み続けるサッカーを目指しているはず。そうした意味でも、この日のシステム選択は理にかなったものでした。

3.今後に向けて

次節は4-4-2を主戦場とする浦和との対戦。ここ2試合の戦いぶりを見るに、まず相手の強みを消す観点でシステム選択を行っている可能性が高いので、噛み合わせの良い4バックに戻る可能性は十分にあると思います。

そして、相手の強みを消しながらも、自分たちのやりたいことを突き通せるようになってきたことは、この試合からも読み取れます。チームは敗戦を重ねながらも、少しずつではありますが着実に前進しています

怪我人等でメンバーがなかなか揃いませんが、エウシーニョの復帰など明るい材料もありますし、河井さんもいつもの場所に戻ってきて、いつものクオリティを見せてくれるようになりました。

これからは1度対戦した相手に、エスパルスの進化を見せつける後半戦の戦いです。監督やGMの言葉を信じて、優しくも厳しい目で見守っていきましょう。

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