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【エスパルス】2021年J1第30節 vs神戸(H)【Review】

長らく続いた「鹿児島デー」の無敗記録が止まってしまった今節。(エスパルス公式が煽るから…)

前節・仙台戦の勝利で波に乗り、勝ち点を積み重ねていくことが期待されただけに、今節の敗戦に落胆する方も多いと思います。
しかし、今大事なことは、前節終了後の監督コメントにあるように

変わらずに、ブレずに、我々のトレーニングを続け、成長を続けること。
そして集中力を高めて試合に臨み、勝つ可能性を高めていくこと。
そういった今までやってきたことを続けていくことが重要だと思う。

これを愚直に続けていくこと。
前を向くためにも、今節できたこと・できなかったことを振り返ります。

1.スタメン

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エスパルスは、神戸から期限付き移籍中の藤本が出られない代わりに、前節アクシデント(?)でベンチ外だったコロリがスタメンに復帰。

一方の神戸は、前節・札幌戦と同じメンバー。山口蛍の負傷離脱がどう響くでしょうか。

どちらも、4月の前回対戦時からは半分以上の選手が入れ替わっています。

2.スタッツ

スタッツ

参考までに主なスタッツも掲載。
シュート数や「ゴール期待値」(ここには掲載できず)では、相手を上回っているんですよね。

監督コメントでも「(プレスを修正してから)相手がボールを持つ時間を削って、自分たちの時間を作れた」と言っていますから、前半のもう少し早い段階からそのようにできればよかったのでしょう。

では、当初思ったようにできなかった理由はなんなのか、そしてどんなところを改善したのでしょうか。
以下、双方の狙いに触れていきます。

3.神戸の狙い

前半の立ち上がりは、テンションが高く落ち着かない展開になることが多いのですが、この試合も例外ではなく、ゴチャゴチャしたところを個の力(デュエル)で制した神戸が、まずは試合のペースを握りました。

エスパルスのプレッシングもいなされる場面が目立ち、ボール保持を許すこととなったのですが、その要因をいくつか考えてみます。

(1)ハイプレスを外すロングボール&セカンドボール奪取

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ここ最近のエスパルスは、相手CBにボールを持たせる代わりに、相手CHへのパスコースをまず切ってからプレスに出て行く形がよく見られたのですが、この試合では相手の最終ラインに時間を与えないようなプレッシャーのかけ方が目立ちました。
(これが藤本→唯人への変更によるものなのか、チームとして準備したものなのかは、うまく読み取れませんでした)

神戸はこのようなハイプレスに対し、無理に繋ぐのではなく、シンプルに前線にロングボールを送ってきました。
同時に、セカンドボールの奪取を想定して立ち位置をデザインすることで、マイボールの時間を増やしました。

こうした手段に踏み切れた背景には、大迫・武藤が空中戦で互角以上の競り合いができるとの読み(「個の力」に対する信頼)もあったはずです。

(2)大迫の「0トップ化」

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ビルドアップの際、とくにサンペールが最終ラインに下りたときなどに、それに呼応して大迫が中盤まで下りて数的優位を作り、ボールを受けて左右に捌きながら、ライン間を使おうとする動きが見られました。

上図のような場面は、頻度としてはそれほど多くなかったのですが、チームとしての決まりごとというよりも、個人の判断に依るところが大きかったような気がします。
というのも、神戸からは戦前に「前線にボールが入ったときのサポート」を課題として捉えているとの発言があり、大迫が最前線に張ったままでは選手間の距離感が遠くなる、と考えていた節があります。

また、松岡・ホナウドも球際は決して弱くないのですが、大迫としては、ヴァウドや井林とやり合うよりはCHと対峙した方が与しやすい、との判断があったのかもしれません。

(3)捕まえづらい大崎

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そして、前半9分の失点の原因にもなったのが、ボールを引き出し、運ぶ役割を担っていた大崎を自由にさせてしまったことです。

ビルドアップでは、左CBの脇に下りることが多く、これにより左SBを高い位置に押し上げ、前線の選手とともに「菱形」を形成。
この菱形の頂点を循環させつつ、形を保ちながら、左サイドを前進します。

序盤のエスパルスは、ファーストディフェンダーとなる鈴木唯人が左CB(フェルマーレン)に対して真っ直ぐプレスに行くのですが、その脇に下りてくる大崎に展開されたとき、そこへ誰がプレッシャーをかけに行くのか曖昧になっていました。

ここで、失点シーンを検証してみます。

(失点シーンを検証)※画像2枚

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上図は失点直前を図示したものですが(赤線が最終ライン、青線が中盤のライン)、1枚目の図の段階では、CB-SB間のギャップを突いて裏に抜けようとする大迫を松岡がマークしています。

ここで大崎が初瀬のフォローに入り、前述の「菱形」を作ったことで、大崎との壁パスで中央に侵入してくる初瀬に松岡が対応せざるを得なくなり、大迫のマークを離すことになってしまいました。
(※大崎がおらず、単に初瀬がカットインする形なら、原がついていくことができたと思われます)

(どうすればよかったのか?)※画像2枚

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①西澤・サンタナのプレスバック

初瀬にボールが入ったとき、西澤は初瀬の斜め後方でサポートするイニエスタを気にする素振りを見せていますが、ここでは大崎の挙動に気づいて(周囲が知らせて)、横へのパスコースを切るようにすべきではなかったでしょうか。
もしくは、大崎がサポートに入るのが見えている(はずの)サンタナがプレスバックする方法も考えられます。

いずれにしても、中央への進入路を絶って、相手のボールをブロックの外に追いやってしまえば、仮にイニエスタがここでボールを持ってもゴールに直結する行動を執るのは難しいでしょう。

②中盤4枚の距離感(スライド)

これは失点とは直接関係ないかもしれませんが、中盤の横スライドが遅く、ゾーンで守るには中盤の選手同士の距離が遠すぎると感じました。

いざとなれば個の力でボールを取り切れる強さを持つ選手たちですが、チーム全体で隙のない守備を行っていく方針である以上、ディテールには拘ってほしいと思ってしまいます。

(失点後の修正)

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試合終了後の監督コメントに「20分、25分あたりからハイプレスの部分を修正した」とありましたが、失点後は大崎を自由にさせないよう、西澤に監視させていたように見えました。

また、同じく菱形の頂点となる選手には、前線のプレスと連動しながらCH・SBがマークし、ボールの前進を阻みます。

プレッシングを整理したことで、前線に直接ボールを蹴り込まれることも少なくなり、ここまで述べてきた神戸の狙いを軽減することができました。
この修正をきっかけに、徐々にボール保持もエスパルスに傾き、こちらのペースに引き込むことに成功しました。

4.エスパルスの狙い

ここまで、神戸のボール保持の狙いとエスパルスの対策を見てきましたが、エスパルスのボール保持についても少しだけ触れていきます。

(1)「MF」鈴木唯人と「FW」コロリ

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今節は、鈴木唯人が中盤の位置まで下りてくることが多くありました。

彼は優れたターンの技術と体幹の強さで、中盤でビルドアップの出口(ボールの受け手)を担える選手ですが、反面、FWとしては仕事場がゴールから遠ざってしまう嫌いがあります。

一方、コロリはSHでの出場でありながら、FWのような振る舞い(最終ラインとの駆け引き)をする場面が目立ちました。恐らく、サイドに張って仕掛けていくようなプレーは好まないのでしょう。
逆に、彼のこうした特性を活かして、ハーフスペースで相手の右SB(酒井)を引きつけ、左側の大外レーンを駆け上がる片山に時間とスペースを与えていました。
左サイドは、片山を基点としたボールの前進が比較的スムーズでした。

(2)初瀬の食いつきと、フェルマーレンの横スライドを利用する

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エスパルスがボールを保持しているとき、神戸の左SB(初瀬)は西澤に躊躇なく食いつき、タイトなマーキングをしてきました。
上記に伴い空いたSB裏のスペースには、左CB(フェルマーレン)がスライドして対応しますが、エスパルスは神戸のこうした仕組みを利用し、左CBがスライドしてできたCB間のスペースを狙います。

先述のとおり、鈴木唯人が頻繁に中盤に下りていましたが、この動きにより神戸のCHが中央にピン留めされます。
また、神戸の左SBは大外に立つ西澤に食いつくため、これによりエアポケットとなったハーフスペースに原が侵入。右サイドの攻略を狙います。

前半、エスパルスが迎えた2つのビッグチャンス(サンタナのヘッド、サンタナがニアで合わせた場面)は、いずれも右サイドのクロスから、フェルマーレンを釣り出し、中央で2vs2の形を作ったため生まれたもの。
とくに右サイドは、手数をかけず早めにクロスを上げる傾向がありましたが、その背景には、上記のような神戸のウィークポイントを突く狙いがありました。

(後半も少しだけ)

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神戸は早々にイニエスタを下げてきたこともあり、後半は前半のいい流れを引き継いで、比較的エスパルスがボールを握る展開に。
71分には鈴木唯人に代えてカルリーニョスを、81分にはコロリ→ディサロと、アタッカー色の強い選手をピッチ内に増やして圧力をかけていきます。

これに対して神戸も、84分の2枚替えで明確に5バックへ移行。
中央を固める神戸にクロスを跳ね返され、直後に手痛い2失点目を喫したこともあり、悔しい敗戦となりました。

2失点目については、シュートコースに入った松岡のディフレクションによる、GKには対応が難しいものでした。
滝を入れて前への圧力を強めた結果、SHが戻り切れなかったのも影響しているのでしょう。あのスペースに入り込んでシュートを選択した大崎が1枚上手だったと思います。シュートは打ってみるものですね…

5.所感

総じて、先に失点したことがゲームを難しくしてしまいました。
個の力の差が出やすい展開に持ち込まれてしまったのを、受け止めきれなかったな、という印象です。

ここまで見てきたとおり、相手のやり方を認識した上で、チームとしてボールをクリーンに前線に運ぶことや、相手のウィークポイントを突くための立ち位置やボールの動かし方は、自然にできるようになってきました。

また、守備面でも、夏のインターバルで加入した新戦力の戦術理解が進み、プレッシングとブロックを作る守備のメリハリなども整理ができています。

あくまで目指すのは、偶然の勝利ではなく「必然の勝利」。
そのためには、メンバー全員が同じ画を描きながら動き、相手の強みを消し、失点のリスクを減らした上で、再現性のある形で得点するチームを作る必要があります。
ここからディテールをさらに突き詰めることで、局面の勝負を制する確率も上がっていくと思いますし、点を決めきるという意味では、藤本の活躍やカルリーニョスの復帰にも期待がかかります。

下図は、独自の集計による各選手の出場時間の一覧ですが、リーグ開幕当初と現在では、まるで違うチームであることがわかります。

(ここまでカップ戦等含む41試合のうち、前半:20試合の出場時間)

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(後半:21試合)

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チーム作りは、一朝一夕では進みません。
国籍も言語も育った環境も違う選手が揃えば、意思統一に時間がかかるのは当然です。
それでも、徐々に良くなっている兆しは、今回も記したとおりにサッカーの内容から伺えます。

チームの現在地を語るには、印象論ではなく、できたこと・できなかったことをピッチの中から読み取ることが必要です。
J2降格圏と勝ち点3ポイント差、とはいうものの、まだ泥沼に足を突っ込んでいるわけではありません。
上を見て戦っていく資格があることは、選手たちがピッチ内で示してくれていると個人的には感じています。

これからも勝敗には一喜一憂しながらも、前を向いてチームの進化とともに歩みたいと思います。

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