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【エスパルス】2021年J1第29節 vs仙台(H)【Review】

しばらくレビューはご無沙汰でしたので、リハビリのつもりで…
今日も気になったところだけ、つらつらと書いていきます。

1.スタメン

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前回レビューを書いた5/3の第12節・大分戦と比べると、権田・鈴木唯人・サンタナ以外の、実に8人もの選手が入れ替わっています。
まさに新たなチームとして走り始めたばかりなのが、メンバー構成からも見て取れます。

前節からは、山原・コロリに代えて、鈴木唯人・西澤がスタメン入り。
また、カルリーニョスが久々にベンチ入りした一方で、コロリが怪我?でベンチ外となるなど、試合ごとにメンバーが入れ替わる状況で、今節はどのようなサッカーを見せてくれたのでしょうか。

2.エスパルスのボール前進(ビルドアップ)

試合の立ち上がりこそボールが行き来するバタバタする時間が続いたものの、5分過ぎからはエスパルスが比較的ボールを握る展開となりました。

エスパルスのポゼッションを安定させたのは、仙台の2FWに対して最終ラインで数的優位(3vs2)を作り、相手のプレッシャーを空転させる「仕組み」です。
この試合では、CH(ホナウド・松岡)が1列下りて最終ラインに加わることが多くありましたが、これは仙台のプレッシングの特徴を踏まえたものでした。

ここ最近、エスパルスの対戦相手は、こちらの最終ラインでの横パスをスイッチに、とくにヴァウドがボールを持った瞬間を狙ってプレスをかけてくる傾向があります。
この対策として、前節の鳥栖戦では、片山を右SHに配置(下図)。相手WBとの身体能力のミスマッチを活用し、前線にロングボールを収められる拠点を設置することで、ビルドアップの出口を用意しました。

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翻って今節。
ポイントは「相手の狙いを逆手に取ったビルドアップの出口の創出」です。

具体的に見ていきます。

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上図は前半6分、何気なくCB間でボールを動かしたかのように見えるシーンですが、この横パスによって、エスパルスは仙台の2FWの立ち位置とプレスのかけ方(西村の役割=松岡を牽制しつつ、ヴァウドにボールが入ると一気に寄せる)を確認します。

ヴァウドはボールを井林に戻し、井林が中央に向かってボールを運ぶ間に、ホナウドが井林の左へ下りてきて3vs2を形成(下図)。

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なぜホナウドがこちら側に下りるのかというと、理由は2つ。
①仙台の右SH(中原)のプレスを自分に向かわせる
②仙台のファーストディフェンダーを代えてしまう(西村→中原)

つまり、意図的に中原がプレスのスイッチを入れるように仕向けることで、仙台のCHが連動して目の前の選手を追いかけざるを得ない形を作ってしまうのです。

次に、ホナウドがいた場所に鈴木唯人が下りてくると、仙台のCH(富田)がついてきます。さらに、その背後には藤本が立ち、仙台のもう1枚のCH(上原)を釘付けに。
このように、エスパルスはポジションチェンジによって、相手のプレスの行き先を1つずつズラしていきます
また、この間、松岡は敢えて中央の同じ場所に留まり、西村が自分をマークし続けるように仕向けます。

こうして井林→ホナウド→鈴木→井林とパスが回る間に、仙台の守備陣形は右に寄せられ、エスパルスの右サイドには大きなスペースが。
これでフリーになった西澤が、相手CHの脇で余裕を持って井林からのパスを受けることができました。

類型として、前半17分、サンタナのゴールのきっかけとなるCKを生んだプレーを示したのが下図。

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この場面では、松岡が2CBの間に下りていますが、理屈は同じ。
ここでも、松岡のマークを担当する仙台の西村は、最終ラインに下りた松岡を深追いせず、ヴァウドへのプレスに備えて待機します。
ここで松岡が井林にパスを出す素振りをすると、中原が井林に食いつく動きを見せたため、その裏に下りてきた鈴木唯人に悠然とパスを通すことができました。

この場面でのポイントは、片山が高い位置を取って仙台の右SBを引きつけるとともに、藤本が仙台の両CHと駆け引きしてピン留めしていること。
また、同じ高さを取る片山・藤本に対し、鈴木唯人が段差を作りに行っているのも重要な点。いわゆる「5レーン」の原則通りの動き方です。

パスマップを見ても、ヴァウドは無理して前線にパスを出さず、井林を中心にホナウド・松岡が絡みながら前進しているのがわかります。

上記の一連の流れは、仙台のプレッシングを逆手に取り、立ち位置を変えることで理詰めで作ったスペースを活用した事例です。
こうした事前のスカウティングが奏功してエスパルスは先制に成功し、前半戦を優位に進めることができました。

3.仙台の修正→エスパルスの修正(後半)

仙台もこのままでは終わりません。

後半、仙台は福森を投入し、システムを3-4-2-1に変更。
CHが下りて3枚になるエスパルスの最終ラインと前線の人数を噛み合わせることで、プレッシングのターゲットを明確化しました(下図)。

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マンツーマン気味の積極的なプレッシングに気圧されるように、徐々にボールを相手に握られる展開を強いられます。

また、仙台はボール保持時には3-4-3に可変。
前半の仙台と同じように、エスパルスはSH(西澤)が前に釣り出されてしまうと、WB(石原)が浮き気味になってプレスが無効化されてしまいます(下図)。

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相手FW(西村)が裏を狙っているので、エスパルスはSB(原)が前に出て行くのは怖い状況。
かといって、SHが引いてWBをケアすると、仙台の左CB(福森)にプレッシャーがかからなくなり前進を許す、というシステムの構造に起因するジレンマを抱えることになります。
こうして仙台は、左サイドを起点にボールを保持し、時には鋭いカウンターを繰り出してエスパルスのゴールに迫ります。

こうした中、藤本の素晴らしいプレスで追加点を奪うことに成功しますが、直後の58分、自陣でのビルドアップが上手くいかず、権田のロングボールを相手に拾われたのをきっかけに中央を破られ、CKを与えて失点。

それまではシステムの噛み合わせが悪いながらも、仙台の攻撃を遅らせ、ブロックを敷いて耐えていましたが、恐らく上記のようなプレー(中央を割られたこと)を極端に嫌うロティーナ監督は、飲水タイム直前の選手交代(藤本→カルリーニョス)により、布陣を5-2-3に変更します(下図)。

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エスパルスは前線を相手の3バックに噛み合わせ、後半立ち上がりの仙台と同じような状況を作り出します。

これにより、守備はある程度の整理ができたものの、仙台も前線にフレッシュな選手を次々に投入し、縦に速いオープンな展開を作り出してエスパルスのゴールに迫ります。

終盤はサンタナの負傷交代など苦しい時間を強いられましたが、なんとか藤本が執念で掴んだ虎の子の1点差を守り切り、ホームで8試合ぶりの勝利を達成しました(最後はすごく雑)。

4.所感

勝てない試合が続くと、「選手たちは勝つ気があるのか」という精神論や、「自陣に引いてばかりいないで、もっとゴールに迫るサッカーが見たい」などといった、自分たちのサッカーに対する疑問の声が湧き上がります。

それ自体は理解できなくもないのですが、今節の試合内容にも見て取れるように、ロティーナ監督は対戦相手の良さを消し、自分たちの特徴を出すような仕掛けを、必ずと言っていいほど用意しています
そして、相手が形を変えたりして当初の目論見が機能しなくなった場合は、第2・第3の修正を施すことを怠りません。

さらに、選手の特徴を引き出しつつも、チーム全体でプレーすることを望み、特定の選手に試合の結果を依存するような戦い方はしていません

選手が激しく入れ替わる中、上記のような監督のスタンスがチーム全体に浸透すれば、必ずやエスパルスは強くなると信じています。

ここ数試合、悪くない内容ながらも勝てなかったことにより、選手たちには重圧がのしかかっていたことでしょう。
しかし、今節の1勝で、そうしたプレッシャーも幾分か和らぐと思います。むしろ、今節の勝利に、そのような大きな意味があったと信じたい。

次節は、相性の良い「鹿児島デー」の神戸戦。
連勝を掴み、波に乗っていきたいものです。

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