『筺底のエルピス -絶滅前線-』を読みました


お疲れ様です。
しめさばです🐟

唐突ですが、読書感想noteをつけていくこととしました。
ねらいは、読書をまた習慣づけたいな、というのと、感動したことを明確に言語化しておきたいなという二つがあります。
とはいえ読書という娯楽を楽しむ上で、「好み」というものにぶち当たることは避けられず、読む本読む本すべてで諸手を上げて「面白かった!」とはならないと思うので、自分の中の「面白い」の基準値を上回った本だけnoteに感想を書いてゆこうと思います。(ネガキャン記事みたいになるのが嫌なので)


●前置き

さて、今回は『筺底のエルピス -絶滅前線-』の感想を書いてゆきます。


この作品は、今まで何回も作家さんや本を読むのが好きな方から勧められまして、あまりにも勧められすぎたので興味が出てきた……という経緯で手に取りました。
ふだん、私の感覚では「同じ本を3回別の人から勧められたら、さすがに読まんといかんだろ(多分何かしら面白さがあるので)」という温度感で他人からのオススメを聞いているのですが、エルピスに関しては多分5、6回別の人から勧められました。勧められすぎ。

しかも初めてエルピスを勧めてくれた人は普段からツイッターでうわごとのように「エルピスを読め」と言い続けていて、もしかしてエルピスって薬物の隠語だったりするのかな? と思うくらいでした。その人がオススメしてくれてからめちゃくちゃ時間が経ってからようやく手に取ったので、遅くなってすみませんという気持ちです。エルピス読み終わったらモーテも読むから許して……。

さて、そんな経緯でようやく読んだエルピスですが……

馬鹿ほど面白かった!

もっと早く読めば良かったですねほんとに……。
語りたいことがたくさんあるのですが、いざnoteに感想を書こうと思い立つと、まっさきにぶち当たるのが……

何言おうとしてもネタバレになる!

という問題です。(つらい)
しかし、当たり障りない感想を書いて終わってしまうともはや感想noteとしての意味を成していないので、もう開き直って「当たり障りない総括感想部分」と、「バリバリネタバレする既読者用感想部分」を分けて書いていこうと思います。
多分、今後の感想noteもちょくちょくそういう形式で書くことが増えるのではないかと思うので(特に、エルピスは出版されてる分だけでもあと5冊あるので……)、ご了承ください。


●ざっくり感想(総括)

筺底のエルピス1巻を読んだおおまかな感想ですが、まず最初に言いたいのは、『抜かりがない』、この一言。

この作品、乱暴にジャンル分けをするとしたら『異能バトルモノ』の『SF』、と言い表せるものかなと思います。
この『異能バトル』と『SF』という二つの要素、これらを良質な作品として昇華するために必要なのは、その作品独自の設定や世界観を読者に『過不足なく』説明し、さらにそれを納得させた上で『この設定であるからこそ面白い』と思わせる……という超高度技術です。
それを、この作品はしっかりやってのけていました。

私が少し重め(小難しい、とも言えます)な文章に苦を感じないタイプであることを差し引いても、かなり文字数を割かれている『設定や能力の説明』を読んでいて「ウッ」となることはありませんでした。
上記の「ウッ」という感覚は、本を読んでいるとたびたび感じるもので、たいていの物語には世界観や設定の説明が必要な場面があり、その説明を読んでいる時に「ちょっと長いな……ダレるな……」とか、「説明が長すぎて、そもそもなんの説明をされてるのか忘れた」とか……そういった、「こちらが求めていない高カロリー文章」にぶち当たった時の感覚です。それがまったくない。
読者が置いてけぼりにならない程度に、説明が必要なタイミングで説明が入り、しかもかなり難しいことが書かれているにもかかわらず、スッと理解できる。これって、マジですごいことですよ。書き手としても、読み手としても拍手したくなってしまう。

次に、異能の設定が練られすぎ。
安直に『異能バトル』って設定を考えたらこう……だいたい手から火が出たりするじゃないですか(本当にそうか?)。
それを『停時フィールド』(これはあらすじに書いてある単語なので許して)っていう一点に絞って、その限られたギミックの中で個人差を出し、かつそれを戦闘描写で活かしきっている。
こう、異能バトルって、いろんな能力が出てきて、主人公にとっての強敵は主人公のメタになるような能力を持ってて……という展開が続いていくと、どうしてもどんどんトンデモ超大戦になっていってしまう印象があったので、このシンプルで奥深い設定の練り込み方はめちゃくちゃ楽しかった。
ミニマルで、だからこそ大胆で、最高でした。

そして、心情描写の積み方が、めちゃくちゃ丁寧!
これは私もそうなのですが(書き手として非常に情けない話ではありますが)、一冊の本で、ページ数が限られた中で登場人物の『過去』の話と、『現在』の話を両方やり、その心情変化を書くと、どうしてもそのどちらかに不足を感じる仕上がりになっていることが多く感じます。これは、自分が読み手として本を読んでいる時にも、自分の本をかなり時間が経ってから読み返した時にも、感じることのあるものです。
この本は、その『過去』と『現在』のキャラの心情を両方書いた上に(しかも2キャラ分! 丁寧に!)、あくまで私はですが、まったく不足を感じませんでした。
しっかりとキャラクターの心の傷、その傷が本人に及ぼす苦痛や影響、そしてそれが少しだけでも解決に向かうさまが描かれ、非常に満足感が高かった。
筆力が高すぎ。尊敬いたします。

最後に、戦闘シーンが本当に面白かったです。
こんなことを言うのはどうかと思わなくもないのですが、私は、ライトノベルで「戦闘描写」を読んでいる時、よほど面白い(その“戦闘行為”自体に面白みがある)場合でなければ、目が滑ってしまいます。
戦うことがメインコンテンツに据えられている小説であるならば、戦闘描写が多くなるのは当たり前なのですが、それが読者にとって大事であるかは、別の話です。筆者が戦闘描写に重きを置くのであれば、読者にとってもそうあるように書かねばならないのであり、エルピスではその点も文句がつけようがありませんでした。むしろ、これがなくてはならない! と思ってしまう完成度。
とりわけ異能バトルとなると、戦闘描写を書くにも『独自の世界観や設定』を展開しながら、それを説明しつつ魅力的な戦闘を書かねばならないわけで、それってめちゃくちゃ難しくないですか? と思うわけです。
面白い面白い! と思いながら、同じく小説を書く身としては、実力差に愕然としてしまいました。非常に悔しい。
特に叶がバチカンの狩人と闘うシーンは本当に鳥肌もので……いや、これは後で書きましょう。


さて、ざっくりと言ったのにめちゃくちゃ書いてしまったので、まとめると、

心情描写が丁寧で、しっかりと設定の練られた異能を使ったバトルがめちゃくちゃ熱い小説です!

……完璧では?
なんでアニメ化してないの?
文章で読んでても十分キャラクターが動いてるところが鮮明に脳に浮かぶ(とんでもない描写力)のですが、普通にアニメーションで動いてるところ見たいぞ???

めちゃくちゃ面白かったです。
読んでない人は読んでください。記事の最初の方にURL貼ってありますからね!!!

さて、以下はネタバレを含む、いや、ネタバレが8割の感想になるので、まだ読んでいない方、これから読む予定のある方はここでお別れといたしましょう。
読んでくださりありがとうございました。


●ネタバレあり感想

馬鹿野郎!!!
何が『停時フィールド』だ!!!!!
ワクワクさせやがって!!!!!!

ざっくりの方にも書いたんですけど、
異能バトル書こう! って思って選択する異能の枠組みが『停時フィールド』なのおかしくないですか??
時間を止めることしかできんやつら(時間を止められるのも十分すごいんだけども)に闘わせるか! っていう発想になるのがまずすごいと思うんですよ。
そして、その『時間』っていうギミックがただバトルに使われるだけじゃなくて、敵として出てくる『鬼』を封じる方法としてぴったりとハマッてるのが非常に良かったです。
ごてごてと沢山設定があるんじゃなくて、一つの丁寧に練られた設定が連結して、きちんと大きな円として成立してるのが美しいし、美しい形だからこそストンと設定が読者にも馴染む。

個人的に、1巻の停時フィールドの使われ方で最高だなって思ったのが《蝉丸》がちゃんと弱いまま活用される、ってとこでした。
これも、書き手側として本当に短絡的に物語の展開を考えてゆくと、『最弱と言われているけれど、ある一点では最強』みたいな文脈にしてしまいがちだけれど、この小説はそうじゃなかった。
ちゃんと叶が《蝉丸》の弱みについて向き合い、性質を研究し、そして『その状況での最適解』を導き出すシーンは本当に鳥肌が立ちました。
そうです、《蝉丸》を投げるシーンですね。何回も読みたい……。
そしてあの爆発的なカタルシスを与えてきたあとに、あっさりそれを覆してくるのも憎かったですね。
あそこを読んでる時に「あれ……この感じ、めっちゃ懐かしいな……」と思って数分考えこんだのですが、あれですね、BLEACHですね。私の小~中学生、そして高校生時代にまで架かってくる思い出の漫画ですから、そりゃ懐かしいわけです。
ルビがいちいちかっこいい(皮肉ではなく)ところもBLEACHそっくりじゃないですか?
中途半端な横文字ルビは寒いけど、あそこまでかっこよくされちゃうと「かっこいい~~~」ってなっちゃうんだよな。

話は逸れましたが、全編通して、めちゃくちゃかっこよくて気持ちいい戦闘をした後に、「それでもムダなんだよね」とやられまくってマゾになっちゃいました。
そして、さっきBLEACHに似ていると言いましたが、それは『きちんとキャラの見せ場があった上で、敵(もしくは味方)がそれを上回ることによって物語の山場を作る』という点についてそう言いました。
ただ、BLEACHは週刊誌であるということもあり、その山場がめちゃくちゃ頻繁に用意されていて、結果、読者もついていけないほどのインフレバトルになってしまうことが多々あり……という感じでしたね(それはそれであの作品の特徴であり、好きな部分でもあるのです)。
が、エルピスは違うぞ!
何度も書いているように、戦闘の中核にある『停時フィールド』という設定がめちゃくちゃミニマルでありつつ拡張性がある……というギミックなので、(あくまで1巻時点では、ですが)限られたルールの中でのどんでん返しであり、永久にインフレしていく、というむずむずする形ではなかったのが好印象でした。
……いや、ミケーラのトリジェミニスは普通に反則だったか……?
でもすんなり受け入れられたからいいや(自己完結)。

叶が《蝉丸》を投げるシーンで、ふと思い出したのは、APEX LEGENDSというゲームをプレイしている時のことでした。
APEXというゲームは、銃で敵を倒していくバトルロワイヤル形式のFPSゲームなのですが、武器を2つ所持して、それを切り替えながら戦うことができます。
まず、自分がメインの火力とする武器を決めて、そして、一般的には“サブアーム”と呼ばれる2本目の『メイン武器で仕留めきれなかった時に使う武器』、もしくは、『メイン武器とは用途の完全に異なる武器』を持って、戦略を立てます。
そのサブアームに『スナイパー』を持っている敵と遭遇したときに、私が考えることは、「あ、じゃああの人は近距離戦に持ち込めばサブアームはないに等しいんだな」ということです。
スナイパーは近距離で当てるのが非常に難しく、スコープを覗いてしまうと動きが遅くなり、かつ、スコープを覗かないで撃つと全然当たらない、という性質を持っている武器だからです。
でも、ときどき、近距離戦闘に持ち込んでも、メイン武器での撃ちあいの後に、急にスナイパーに持ち替えて、しっかりこちらに弾を当ててくるプレイヤーと出会うことがあります。
仕様上、しっかり狙わなくてもたまたま当たってしまうこともあるのですが、こちらとしては「そもそもサブアームに持ち替えずに、メインアームをリロードするだろう」という試算の元に近距離戦を挑んでいるので、計算違いが起こり、結果負けてしまったという形になるわけです。
こういったことは、「お互いにそのゲームの競技性を理解している」からこそ起こる駆け引きであり、非常に奥深いのです。
そういった駆け引きが起こったバトルというのは、勝っても負けても、非常に気持ちが良い。
……めちゃくちゃ話が逸れてしまいましたが、叶の例のシーンでは、そういった気持ちよさがあったのです。
厳格に決まったルールの中で、ルールが決まっているからこそのお互いの読み合いがあり、とても弱いとされている武器で一矢を報いる。あのシーンの気持ちよさと来たら。
なんとなくで作られた異能で、なんとなくのド派手なバトルをしていたら確実に得られないカタルシスでした。


次に、これは書き手としての感想になってしまっているかもしれませんが、とにかく回想を入れるタイミングがめちゃくちゃいい
物語の進行の邪魔にならないどころか、ちゃんと、読んでいて意味があると感じられるタイミングで回想が入るんですよ。
ひと段落ついて、回想……じゃないんですよね。戦闘がめちゃくちゃ盛り上がってる途中にバツッと入ったりする。回想と自分の心が見せている幻想が入り混じって、それが現在の決断に向かってきちんと進んでいるのがめちゃくちゃ良かったです。
回想も、書き方によってはめちゃくちゃ目が滑る部分だと思うんですが、
過去の出来事、過去の感情、そして現在の感情、葛藤……『現在』と『過去』の扱い方がうますぎて、まったく読んでいて苦じゃないし、それどころか絶対に必要だと思える。とんでもない筆力だと感じました。

めちゃくちゃベタ褒めしてしまいましたが、
終盤の叶が急にデレるところと、急に女子二人と住むことになる展開は、重厚なエピソードで充実感を味わっているところに「あ! ラノベですよこれ! ラノベなんでね! よろしくお願いします!!」と耳元で叫ばれた感じがしてちょっと萎えました。
あんまり要らないと思った(女子二人と住む展開については、今後必要なんだと思いますが)。

気付いたら6000字くらい書いており、正直まだまだ書きたいことはある気がするのですが、まとまりがなくなってきたので終わります!!!
2巻も読んだら多分感想書きます!!!!!

読んでくださってありがとうございました!!!!!
勧めてくださった皆さんもありがとうございました! めっちゃ面白かった!!!!

しめさばでした!!!🐟


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