異世界放浪記 第一話

ガタンゴトンー、ガタンゴトンー

気付いたら、トラックの荷台で揺られていた。

ガタンゴトンー、キキーッ

トラックが止まったようだ。外から荷台のシャッターが開けられた。

「シンバ、お疲れ様!」

荷台から飛び降りると近くの建物から母が出てきた。
「長い間、トラックに揺られて大変だったでしょ?」
「ここがミシロタウンよ!」

トラックのたどり着いた町はミシロタウン。
呼びかけられたシンバ(つまり俺)はこの町に引っ越してきたことになる。

「どう?これが私達の新しいお家!」
目の前には昔ながらの二階建ての日本家屋が建っていた。

俺はこの町に来るのは初めてではなかった。
初めてこの町に来たのは約20年前・・・

当時、ようやくランドセルを担ぐようになったころに旅した世界にどうやら俺は迷い込んでしまったようだ。

「ちょっと古風な感じで住みやすそうなところでしょ?」
「今度はシンバのお部屋もあるのよ!さあ、中に入りましょ!」

俺は母に導かれるまま家に入った。

「ほら、シンバ!お家の中も素敵でしょ!」
「お家の片づけは引っ越しやのポケモンが手伝ってくれるから楽ちんね!」

家の中では数匹のヤルキモノ達がせっせと荷解きをしていた。

ポケットモンスター、縮めてポケモン。
この世界に存在するニンゲンとは違う不思議な生命体だ。
多くはニンゲンと共存しているが野生でニンゲンに対して牙を剝いてくる個体も多数いる。

「シンバも2階にある自分のお部屋に行ってごらん!」
「パパが引っ越しのお祝いに買ってくれた時計があるから時間を合わせておきなさいよ」

特に母の言葉に背く理由もなく、2階の自分の部屋に上がる。
扉の近くに先ほど話題に出た時計が飾ってあった。

『時間を合わせておきなさいよ』と母からは言われたが時計を見てこの世界の違和感に気づいた。
時計が進んでいない。時の流れが止まっているのだ。
20年前に訪れた懐かしき世界は時間という概念を失っていた。
その違和感に気づくことが出来るのはこの世界の住民ではない俺だけだった。

「シンバ、どう?新しい部屋は。」
「うん!きれいに片付いてるわね!下ももう片付いたわ!」
「ポケモンがいると本当に楽ね!」
「そうだ!机の上の物も大丈夫か見ておいてね」

母が示した机の上を見ると『たんけんのこころえ』なるものが記載されたノートが開いておいてあった。
簡単に目を通した後、俺はリビングに向かった。

「あ!シンバ!シンバ!」
「早くこっちにいらっしゃい!」

部屋に配置されたばかりのテレビの前で母が騒いでいる。
「トウカのジムが映ってるわ。パパが出るかもよ!!」

「以上、トウカジムの前からでした!」

俺がテレビをのぞき込むと同時にその番組は閉幕した。

「あらら、、終わっちゃった。」
「パパが出てたみたいだったのに残念ね」

パパと呼ばれているのはトウカジムのジムリーダーであるセンリだった。
この世界の俺は恵まれた家庭で育ったようだ。

「あ、そうそう!この町にはオダマキ博士っていうパパのお友達がいるの。」
「博士の家はお隣だからきちんと挨拶してくるといいわ!」

母はそう告げるとこれも配置したばかりであろうダイニングテーブルに腰掛けた。

俺は母に言われる通りにお隣さんに挨拶することにした。

家を出るとすぐ隣に似たような作りの建物があった。
ここのことだろうと表札も確認せず、俺は扉を開ける。

「えーと、どなたかしら?」

その家にいた女性に尋ねられると俺は簡単に自己紹介を告げる。

「そうか。あなたがお隣に引っ越してきたシンバ君ね!」
「うちにもあなたと同じ年頃の娘がいるのよ!」

「『新しいお友達が出来る!』なんて言ってとっても楽しみにしてたの!」

家の中を見ると先ほどまでいた自分の家と内装が似通っていた。
違う点は家の中にまだ小さい子供がいる事だった。

女性に促され、俺は2階に上がる。
これまた先ほどの自分の部屋と瓜二つな部屋だった。

「え!?あなた、誰なの?」

部屋の主である女の子が驚きながら問いかけてくる。

「あなたがシンバ君、、そうか今日引っ越しだったんだ」
「あ、あたしハルカ!よ、よろしくね!」

緊張しているのか噛み噛みながらもその女の子は自己紹介をしてくれた。

「あたし、世界中のポケモンと友達になるのが夢なの、、」
「で、でね お父さん、、オダマキ博士からシンバ君のお話聞いて。」
「あたしシンバ君ともお友達になれたらなぁ、、なんて思ってたの、、」
「あっあたしったらシンバ君と初めてお話してるのに何言ってんだろ、、てへへ」

女の子ー、ハルカはやや顔を赤面させながら教えてくれた。
俺も20年前にはこんな初々しさを持っていたのだろうか、、甘酸っぱ過ぎてこっちまで赤面しそうである。

「あっいけない!」
「あたしお父さんのお手伝いで野生のポケモン捕まえにいくところだったんだ!」
「出かける支度をするからシンバ君、また後でね!」

そう言うとハルカは自分の机に向かい、お手伝いの準備を進め始めた。

これ以上居座っても邪魔になるだけだ。そう思い、俺は部屋を後にする。

自分の家に帰ろうとした途中、横目に心配そうに森を眺める女の子に気づいた。

「ねえ!ねえ!」
「今、町の外からこわーいポケモンの声が聞こえたよ!」
「何が起こってるのか見に行きたいけど、私ポケモン持ってないし、、」
「おにいちゃん、私の代わりに見てきてくれる?」

年端も行かない子に頼まれて断れる訳もない。
俺は少女の視線の先に足を進めた。

「た、助けてくれー!!」

すぐに誰かの叫び声が聞こえた。

慌てて声のする方に駆け寄ると一匹のポケモンに追いかけまわされる白衣姿の男性が見えた。

「おーい!そこの君!助けておくれー!」
「そこにあるカバンにモンスターボールが入ってる!」

俺は男性の言われるがままに近くに落ちていたカバンを開く。
カバンの中には3つのモンスターボールが入っていた。

とっさに一つのボールを掴んで、男性に対峙しているポケモンに向かって投げた。
男性を追いかけていたポケモンはジグザグマと呼ばれるポケモンだった。
投げたモンスターボールからはミズゴロウが飛び出した。

ミズゴロウはボールから飛び出した勢いのままたいあたりをジグザグマに向かって繰り出した。
急な刺客に面食らったジグザグマはいとも簡単に退散した。

「はぁ、はぁ」
「野生のポケモンを調査しようと草むらに入ったら、突然ポケモンに襲われて、、」
「とにかく助かったよ、ありがとう!」

そこで男性がふと何かに気づく。

「おや?君はシンバ君じゃないか!」
「こんなところではなんだからちょっと研究所まで来ておくれ」

ポケモンに襲われていた男性はハルカの父、オダマキだった。

「さて、シンバ君!」
「君のことはお父さんからいつも聞かされていたよ!」
「君はまだ自分のポケモンを持ったことがないんだって?」
「それにしてはさっきの戦いぶりなかなか見事だったよ!」
「やっぱり君にはお父さんの血が流れているんだな!」
「そうそう!助けてくれたお礼にさっきのポケモンは私から君へのプレゼントにしよう!」

オダマキ博士はそう言うと先ほど俺がとっさに投げたボールを渡してくれた。

「これからさらに経験を積んでいけばいいトレーナーになれそうだ!」
「ちょうどうちのハルカも私を手伝いながらポケモンの調査をしているんだ」
「シンバ君、一度会いに行ったらどうだろう?」

実はさっき会ったばかりではあるが俺は二つ返事で返した。

「そうか!それはハルカも喜ぶぞ!」
「トレーナーがどんなものか教えてもらうといいぞ!」

俺はミズゴロウの入ったモンスターボールを握りしめ研究所を後にした。

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