【研究ノート】中山間地における持続可能な営農とは?【3】
▼「生産性の向上」に拠らない所得向上
農業で高い収益を上げるには、生産性を向上させることが最短の最善手だ。
生産性の向上には、1)広大な農地あるいは高価な施設、2)大型で高性能な農業機械、3)潤沢な労働力が必要だが、中山間地でそれらを駆使した高生産農業を行うのは難しい。
農地面積が小さく、大型機械が導入しづらく、労働力も集まりにくいという事情があるからだ。
これらの条件を鑑みると、必然的に小規模な営農手法に拠らざるを得なくなるが、家族経営を主とする零細農家の所得水準は大規模農家のそれに大きく劣る傾向がある。
つまり、生産性では勝負できない。
単純な「生産性の向上」というのではない方法で、いかに所得を向上させるか。
「生産性を向上させ、食糧需要の高い都市部の大きな市場へと商品を流通させていく」
そのような一般的に志向されている農作物流通とは異なる方向性がここでは求められる。
大きな市場に対してではなく、より小さくニッチな市場に対しての営農戦略。そこが問題だ。
折しも昨今の日本の農業を巡る事情は、厳しさを増している。
統計的に見て、例えば穀物生産において、日本の生産性では海外の産地には勝てない。
例えばアメリカ産米の生産コストは、日本の6分の1程度であり、無関税の国際競争ともなれば、日本の農業が海外産地に駆逐されるのは明らかだ。
さらに人口減や食生活の変化等により、農作物の消費量も減少傾向にあり、この先需要が拡大することも考えにくい。こうなると、生産性の向上が所得向上に比例するどころか、「コストは上がるのに販売価格が上がらない」「いくら作っても売れない」状態に陥る危険性が高い。
生産性の向上のみを重視した営農は、中山間地だけではなく、日本の農業全体として見ても、国際競争力や国内市場縮小という二点から見直される時期に差し掛かっている。
では、「生産性の向上に拠らない所得向上方法」は具体的にどういうものか。
一つには、生産の多様性と柔軟性。
一部では必要とされつつも、全体的にはさほど需要のない農作物を小規模に多品目生産する。
例えば、イタリアンレストランに向けたヨーロッパ固有の野菜の栽培、あるいは、無農薬有機栽培野菜の生産などはそれに当たる。
ただ、これらは中山間地で行う必然性はなく、その地域特性を生かした営農とも言えない。
より中山間地の地域特性を生かした、多様性と柔軟性を併せ持つ小規模で独創的な営農方法。
この点をどこまで深く突き詰めていけるかが、まさに中山間地農業の生命線と言えるわけだ。
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