【思考実験】 日本の農業全体を一つの株式会社として再編した場合、未来は拓けるか?

日本の農業は、小規模な経営体の集合体だ。

近年、規模拡大を進める経営体が急増しているが、それでも農家一戸あたりの経営面積は欧米のそれに遠く及ばない。

現在、高齢農家の離農が進み、今後、主業農家による農地集約大規模化等により、農業全体の構造転換が進んでいくと予想されるが、日本の農業を巡る情勢は、労働力不足や資材燃料肥料費高騰など先行き不透明な部分が多く、浮沈の予測が難しい。

このような状況下、「日本の農業全体」を一つの経営体、例えば一つの大企業として再編できたと想像した場合(「組合組織」ではなく、例えば「全日本農業株式会社」のような)、現在日本の農業が抱える諸問題を克服可能かをシミュレートするのは、有意義なことだと思われる。

現在の「小さな経営単位の集合体」が「一つの大きな経営体」として再構築され、合理的に機能することでもたらされる恩恵とは何なのか。

この点を考察してみたい。


1) 需要に合わせたリスク分散型生産体制と農作物価格の安定化

経営体がバラバラである場合、どの品目をどれだけ作るかは、その経営体の判断に委ねられる。生産余力があるのなら、「とりあえず作れるだけ作れば良い」となる。

が、これは特に豊作時、市場に品物が過剰に流れ込み値崩れを引き起こす主因となっている。

国内で消費される各農作物の総量は統計データから想定可能であるが、各経営体は、そのデータや他の経営体の生産量を考慮して、自身の生産量を決めている訳ではない。

ここには生産計画を立てる時点での「需給バランスを調整する主体」が存在しない。

もちろん、天候不順等による不作時、急激に供給量が下がる可能性もあり、一概に供給過多な生産体制が悪とは言い切れないが、そのような天候リスクを考慮した産地分散によるリスク回避は十分に可能であり、需給バランスを生産者側でうまくコントロールできれば、低迷する農作物価格を安定させ、農業所得を向上させることができる。

どこの産地で何をどれだけ作るかを綿密に計画、指示し、過不足なく市場に流通させることで、価格の安定を図る。

現実的に日本の農業がそこまで高度に組織化されるとは考えにくいが、「価格安定」という点を考えれば、これが最も有効な手段であると考えられる。

2) 雇用と労働条件の安定化

農家の労働環境は、3Kの代表格と言われるほど過酷だ。

収入や労働時間も不安定であり、企業のような手厚い福利厚生もない。

これらを解決するには、企業のような労務管理が必要だが、農繁期・農閑期による労働量の変化や作る品目ごとにそれぞれ異なる専門性が必要など、乗り越えるべきハードルは多い。

「夏は長野で高原野菜の生産に労力を集中。冬は愛媛で蜜柑の収穫作業に労力を集中」

このような産地を越えた労働力の移動が可能となれば、季節ごとの労力の過不足問題を克服できる。

話はそう簡単ではないが、このような労力配分を高度に可能とする経営主体があれば、今よりも農業者の労働環境は安定、向上するはずだ。


この他にも、日本の農業全体の株式会社化は、就農希望者の育成などでも強みを発揮できると考えられるが、逆に、現代の巨大IT企業や大手自動車メーカーのように、日本の農作物市場のシェアを大きく確保し得るような経営体がなぜ作れないのかを考察するのは有意義かも知れない。

大規模化は、市場のシェアを大きく獲得し、取引価格に大きな影響力を与えるほど大規模でなければ意味がない。

将来、このような巨大農業企業が日本に誕生する時代を夢想しつつ…


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