グッドバイ・コアラ

所詮我々はコアラを引き止めることなど出来ない。舌打ちをしながら、溜め息をつきながら、コアラを見送るだけの弱者なのである。

天王寺動物園のコアラがイギリスへ行ってしまった。自分はこのコアラが好きで、時折見に行っていたのだが、コアラは大抵いつも飼育小屋外の高い木の上で、じっとしがみついたまま微動だにせず、その姿は激烈に可愛かった。しかし、このコアラ一匹で、餌代が一日10万円以上掛かるそうで、そうした予算の問題のため、コアラは手放されて、繁殖契約をしてイギリスのサファリへと送られたのである。反対署名なども集まったそうだが、市の判断が揺らぐことは無かった。

また、近頃の天王寺動物園では、虎やリスやシマウマが死ぬ、アシカの赤ん坊が下水道に落ちて行方不明になる(発見されたらしい!)、など一連の不幸が起きており、それに加えてコアラの件もあったため、天王寺動物園、並びに園長が、インターネット上で非難されているという。非難されるのも仕方あるまい。しかし自分は実際この目で何も見ておらず、果たして園側の不手際だったのか、どのような経緯があるのかも知らないため、天王寺動物園を非難する気にはなれなかった。ただただ、残念な気持ちだけが募り、動物の安全を願った。

さて、もはや当たり前と化したインターネット上での非難攻撃であるが、彼らは、悪意ではなく正義の意志で攻撃をするため余計にタチが悪い。いわば自己正当化の鎧を身に着けたテロリストである。そして、そうしたテロを真に受けて冷静さを失う第三者もまた、多数存在している。マジぃ?天王寺動物園さいあくぅ、もう行かなぁい、となる世の中。仮想の噂も呟きも、何も信じるな。コアラの可愛さだけを、信じれば良い。

誰もコアラを引き止めることは出来なかった。それが全てだ。その怒りを、悲しみを、インターネットにぶちまけても、コアラは帰ってこない。だから自分は、舞台を大切にしようと思った。

コアラの幸せを祈る。もしかすると、また、会えるときが来るかもしれない。それまであのキュートな姿を、忘れないでおこう。グッドバイ・コアラ。

何もいりません。舞台に来てください。