窓の向こうは夏みかん

ドブの臭いがする虫ケラから見れば、きみは可憐で甘い香りのする花だった。でも本当は、きみの正体も虫ケラなのかもしれない。虫ケラ同士ケラケラと笑い合おう。若さはいつまでも続かぬ。けれども、老いぼれるのは何も怖いことじゃない。皺くちゃになってもケラケラケラ…。そのとき、リンゴがひとつ木から落ちた。暗いニュースに泣くきみを、滅茶苦茶に抱きしめたい。不安に押し潰されそうになるきみを、滅茶苦茶に笑わせたい。大切なのはユーモアと想像だ。私はそれを信じて生きてきた。実はね、私も一人で押し潰されそうな夜があるのだよ。真夜中に突然現れる得体の知れぬ化け物に食われそうになったり、内臓がどす黒い膿に侵食されたり、千手観音に首を掻きむしられたり、して、いっそのこと田舎に逃げたくなるような、そんな心持ちで朝を迎えることがある。今、鳩が鳴いた。窓の向こうは夏みかん。もう少しだけ、頑張ってみようか。いつか何か素敵なことが巻き起こるような気がする。そんな想像ばかりしているよ。

何もいりません。舞台に来てください。