僕と共鳴せえへんか?

町田町蔵+北澤組の曲で「僕と共鳴せえへんか?」というのがあるが、実はこれは織田作之助の「夫婦善哉」という小説の中に出てくる台詞である。主人公の男が安カフェーの女給(今でいうキャバ嬢みたいなものだと思う)を口説く際に、「僕と共鳴せえへんか?」と言うのだ。な、何ちゅう口説き文句だろうか。「共鳴せえへんか?」は勿論素晴らしいのだが、ミソなのは「僕と」である。「おれと共鳴せえへんか?」とは違った、何とも言えぬワイルド・ボーイな格好良さ、ファズ・ギターの歪みのような趣きを感じる。この関西弁の「僕」の良さ、分かります?

──小銭を持って安カフェー「お兄ちゃん」へ行き女給の手を握って「僕と共鳴せえへんか?」

確か、このような一節だったと記憶している(曖昧)。カフェーの店名「お兄ちゃん」て!と思ったのも束の間、件の文句にやられて、当時大学生だった自分は文庫本を片手に吹き飛んだ。そういう、本筋とは違うけれども妙に印象的な一節、というものが、小説や漫画や映画にはある。勿論、漫才にも。自分の場合は初めて「夫婦善哉」を読み終えたときに、この箇所が矢鱈と脳裏に残ったわけである。

以来、いつかキャバクラへ行った際には、小マシな女の手を握って「僕と共鳴せえへんか?」と言ってやろうと目論んでいるのだが、未だ実現はしていない。「お兄ちゃん」という店を見つけたら入ろうとも思っているのだが、こちらも見つけたことは無い。同じく大阪育ちの町蔵も織田作の影響は強く受けているに違いなく、きっとこの一節にはやられたのだろう。

「夫婦善哉」は他にもパンチの効いた節が多く登場する。物語としては結構普通で、大阪で暮らす夫婦の話、そこまで凄い展開があるわけでも無いのだが、文章の軽快なリズムと語感が素晴らしく、何度でも読んでいられる。そして端々から匂い立つ、大阪の街の湿気具合が堪らない。小説最後のくだりも自分は非常に好みであるので、気になる人は読めば良い。

何もいりません。舞台に来てください。