女性をオトす攻略法

もう長らく会っていないが、女癖の悪い友人がいた。背は高かったが顔はそこまで男前でも無く、運動神経の良い奴で、中小企業の会社員をしていた。彼は、何故か女性にモテるらしく、恋人を次から次へと変えた。それに加えて、ワンナイト・ラヴの経験も豊富なようであった。自分は別段羨ましくも無かったのだが、興味本位で一度、女性をオトす攻略法を聞いたことがある。すると驚くべき答えが返ってきた。

「そんなん簡単やで。とりあえず優しくしといたらええねん」

いやいや、と自分は言った。自分も女性には極力優しくはする。というか、大半の男は女性に優しくするものだろう。たったそれだけのことで女性をオトせるわけが無い。彼は頷きながら、「いやらしさが見えたらあかんよ。さらっとした優しさ、やね」と言った。

彼曰く、どうやら世の女性の大半は優しさに飢えているらしい。彼女たちは決まって自身のコンプレックスや生活などについて思い悩み、暇さえあれば寂しがっている。そこで、ハァと溜め息を吐くタイミング、そこにつけ込みさらっとした優しさを与えることで、あっさりとモノにすることが出来るという。何と単純な生き物だ。なるほど、と自分は言った。しかし、この、さらっとした優しさ、というのが理解出来ぬ自分は、「たとえば荷物持ってあげるとかそういうこと?」と猿の赤ん坊のような顔で聞いたが、彼は、良くないね、と言ったきり、それ以上の秘訣は教えてくれなかった。

そのとき自分は、もう金輪際、女性の荷物は持たないと誓ったのだが、優しさの実態については依然分からぬままであった。

そして考えているうち、他人に優しさを与える以前に、まず自分自身が優しさに飢えていることに気がついた。更に今までの人生を思い返すと、とんでもない事実が判明したのである。つまり自分は、弱っているとき、落ち込んでいるとき、ちょうどそんなタイミングで誰か女性の何気ない優しさに触れたとき、決まって恋に落ちていたのだ!攻略法は至ってシンプルで、目ヤニだらけのこの猿が溜め息つくのを見計らって、笑顔で「しっかりしろぉ」と一言与えるだけである。それだけで、おぉ、何と優しい聖母、麗しきマリアよ、貴方が大好きです、となり、オトすことが出来る。簡単なのは自分の方であった。

何もいりません。舞台に来てください。