野音の後の夢

「ライヴ終わりに数人の芸人たちで中華料理屋へ行く。巷で噂の、一風変わった店である。半分仮面を付けた恰幅の良い中年女性店員が出てきて、「いらっしゃいなさいませ」と重低音で変な言葉を言う。それが、どことなく演技臭く、キャラっぽくて、皆少し笑う。その後も、何故かおどろおどろしい感じで「同伴うさぎは無料」「水没注意」などの意味不明な説明を受ける。誰かが冗談を言うと、店員もプッと笑って素が出る。店内の装飾は怪しげで、包帯が吊るされていたり、壁に目の玉が描かれていたりして、丸尾末広の漫画チックな趣きである。お客は若い女性で一杯、満席であったので少し待ってくれと言われる。店の外で、各々煙草を吸ったりしながら立ち話をする。

「これ、何か、そういうイマドキの店やなあ。ほんまに変な店じゃなくて、変な風にしようというコンセプトの元に作られた店や。お前らと一緒やな」
「ちょっとやめてくださいよ」
「別に中華が美味ければ良いけど」

自分は疲れていたので、もう帰りたかったが、しばらく待っていると、携帯に見知らぬ番号から着信、出ると男性の声で「ライヴとても面白かったです。ほんとに。直接感想を言いたいのでそちらに行っても良いですか」と来たので「誰か知りませんが、どうぞ」と言うと、5秒後に来た。眼鏡をかけたキツネ目の男、背は小さく色白で年齢不詳、若くも老けても見える。丁寧な口調であるが、時折白目になるのが気持ち悪い。「勝手に電話してすみません」「ライヴが面白くて」「あれはどういった経緯で」「あのネタが面白い理由は」「嶋仲さん的には」「嶋仲さんが好きで」「実はぼくも芸人で」「ライヴに出たいと思いまして」がつがつ来る男は嫌いではないが、物理的に近付いてくるのが嫌だ。喋りながら、所々で腕を触ってくる。そして顔を矢鱈と近付けてくる。

「全然何でも喋ってくれて良いけど、身体に触ってくんのはやめてくれへんかな」と優しく言った。するとキツネ目、満面の笑みでこちらに近付くと、思い切り抱きついてきた。皆、笑っている。自分は怒りに震えて、身体を離した瞬間に、キツネ目の顔面を本気の拳で殴り、「お前どっか行けや。キモいんじゃ」と吐き捨てた。キツネ目は鼻血を出して、ぐふぐふ言っている。誰も笑わず、引いていた。悲しかった。キツネ目のハグには笑い、自分のパンチには笑わぬのだ。

「おいちょっとやりすぎ…」誰かが言ったとき、キツネ目がポケットからカッターナイフを取り出したかと思うと、猛然と襲いかかってきて、二の腕の辺りを切られた。それから、顔や首を切られて、自分は血塗れになって倒れた。痛みは無く、意識もある。店から半分仮面の店員が慌てて出てきた。「警察を呼んでください」しかし動揺しているのか、「店長に聞かないと分からなくて」と役に立たない。そのうち、キツネ目に馬乗りになられて、シャツを引き裂かれ、自分は身体中をまさぐられた。「今度ぼくのネタ見てもらえませんか。嶋仲さんに、見てもらいたいんです」自分は虚しさと怒りにこんがらがりながら、泣きそうになるのをただ堪えていた。」

久しぶりの悪夢である。これは、昨日行われた「ナイトオブコメディー イン 野音」というライヴの後、朝まで出演者たちと過ごして、へろへろで帰宅した後に見た夢。相当疲れていたのだろう。ちなみに、野音でのライヴはとても楽しいものだった。

何もいりません。舞台に来てください。