名前

梅雨が過ぎたのでもう雨は降らない、なんて誰がついた嘘だったのか、昨日も雨と曇りの湿気た一日であった。昼過ぎ、いや夕方に起きて、腹が減る。冷蔵庫の中には、なめ茸ともずくくらいしか無かった。

東京で住み始めた友人に送った手紙が返ってきていた。住所は合っているが宛名が違っていたという。彼の本名を自分は知らなかったので、封筒には呼び名を書いて出したのだが、それがいけなかったのである。彼にその旨を伝えると、しばらく悩んだ後、レターポストに呼び名の方も書いておくからもう一度送ってくれ、とのことだった。郵便局へ行きその旨を言う。職員には上手く伝わらなかったようで、自分も、彼のもうひとつの名前なんです、とかよく分からない言い方をしてしまった。

そう思うと、自分には本名の知らない友人が何人かいる。彼らは当たり前のように、自らで考えたオリジナルな名前で、名乗り、呼ばれている。羨ましい。自分も本名で活動しなければ良かった、と思う。自分の名前は、いつまで経っても、あまり気に入らない。まあ、別にええけど、ううん、でもな、という感じである。もっと格好良い、いや、もっといい加減で、無意味な、名前の方がよっぽど良い。次、生まれ変わったときは、なめたけもずく、と名乗ろうか。そして本名は秘密、死ぬまで誰にも教えずに暮らすのだ、と、冷蔵庫を開けながら思った。

何もいりません。舞台に来てください。