シルバーたこ子ちゃん


シルバーたこ子ちゃんは、生まれながらに身体がメタリックであった。出自も家族も知らぬ、物心ついた頃には一人ぼっちで宇宙を徘徊していた。この国に辿り着いたときに初めて、己がタコであること、そしてそれは普通のタコではないメタコリックであること、世界は広く己は天涯孤独であること、を知った。たこ子ちゃんは絶望しかけたが、まだ知らぬ未来に想いを馳せることで何とか生き延びた。頭脳は明晰であったので、この国の言葉や文化を覚えることには苦労しなかった。生きる上で必要なのは、健康と、友達と、居場所だということを知った。身体は頑丈だから大丈夫。たこ子ちゃんは、友達と居場所を求めた。だから、銀だこという名の店を見つけたときは、飛び上がるほどに嬉しくなって何も考えられず猪突猛進で入店した。だが、そこには想像を遥かに超える鬼畜の光景が広がっていたのである。ハチマキ巻いた大男によってタコたちがバラバラに切断されるや、灼熱の鉄板に無数に空いた穴の中に謎のクリーム状の液体とともに放り込まれて、焼かれながら尖ったピックでくるくると回転させらると、次から次へと丸い玉に変貌していった。香ばしい匂いが漂った。隣でギャルたちが、マジで銀だこ美味いな、と言いながら食べていた。たこ子ちゃんは絶望した。絶望した拍子に足が7本抜け落ちた。気が狂って息絶えるかと思った。シルバーたこ子ちゃんという名前は、見知らぬ紳士に拾われたときに名付けられた。紳士は穏やかでやさしく、根っからのタコ好きだったという。路上で倒れる銀色メタリックのタコを見て、愛おしく思った。彼と出会ったお陰でシルバーたこ子ちゃんは生涯幸せに暮らすことが出来た。紳士はいつもたこ子ちゃんを台所の調理台に載せては、ほらシルバーが映えるね、と言って微笑んだ。シルバーたこ子ちゃんも悪い気はしなかった。

何もいりません。舞台に来てください。