伝説の下心

先日、久しぶりに本屋で新刊の本を買った。早川義夫の「女ともだち」という、最近発売されたものである。内容は、さまざまな恋の話と、そして、去年癌で亡くなった、しい子という奥さんについての話。とても素直で切ないエッセイであった。恋の純情に年齢など関係無く、そして純情とは時に変態的であり、非道徳的なものだ。

早川義夫のイメージといえば、やはりジャックスの頃のオドロオドロしい歌だろうか。バンドを即解散して音楽界を退いたことから、界隈では伝説とも称される存在となっている(本人はそうした見られ方をとても嫌がっている)。彼は音楽をすっぱり辞めて、それから長年本屋を営んだ後、再びソロとして音楽を始めた。作る歌はどれも魂を燃やしたようなものばかりで、「この世で一番キレイなもの」や「天使の遺言」を聴くと、とにかく偉大な音楽家、表現者であることは分かる。そして本を読むと、スケベで、気弱で、いじけていて、けれども純情で、偽りの無い、お爺であることが、分かる。この本の書き出しは、「本屋時代、ぼくは時々レジでナンパをしていた。」である。面白くて、一気に読み終えた。

我が店、ライヴ喫茶 亀がオープンしたのは2015年の2月で、まず初めに開店のオープニングライヴをすることになった。そのときは自分と、もう一人音楽をしている友達との二人の店だったので、初日は「笑いの日」、次の日は「音楽の日」という二日間の構成で企画をした。そして、「音楽の日」に早川義夫を呼ぶことは出来ないか、となり、ダメ元でホームページから出演依頼のメールを送った。我々も若かった。何せ相手は伝説である。普通ならばこんな素性も知れぬ若者からの依頼を相手にするわけも無いのだが、後日、本人からきちんとした長文の返事が来た。結局は色々なことが重なり出演は叶わなかったのだが、とても丁寧で謙虚な人だった。

それとは別の話で、知り合いの女性が昔Twitterで早川義夫をフォローした。彼女は別にファンでも何でも無く、本を一冊読んだことがあるだけで、歌も聴いたことが無かったらしい。そんなある日、彼女の元に本人から突然のDMが来たという。そこには「ぱっつんの前髪可愛いですね!」と書いてあったという。伝説の下心が、丸見えであった。

何もいりません。舞台に来てください。