物真似

あまり意識していなかったのだが、自分は人の物真似が結構好きなのかもしれない。芸能人や歌手などでは無く、あくまで周りの友達や、街で見かけたおばはんの物真似を、つい、してしまう。たとえばAさんという人の話を誰かにするとき、自分は時折Aさんの物真似を入れつつ、話す癖がある。また、そこには自分勝手な空想が入り込むこともしばしばあり、たとえばBさん、彼は非常に真面目で寡黙な男である。すると、自分はBさんの物真似で、「いやぁ、やっぱり人を殺す瞬間というのは、脳内のドーパミンの分泌が物凄いことになりますから、やはり殺人は健康に良いですよ…」などと言って、Bさんが絶対に言わないであろうことを、物真似する。勿論、本人の許可など取らずに、勝手にやっているのでタチが悪い。自分の知り合い、友達の人は、きっと一度くらいは、陰で自分に物真似をされていると思っていた方が良い。

それ以外にも、人物自体が架空の場合もある。あくまで空想に過ぎないのだが、自分の中では、その人物は確かに存在していて、その人の物真似をする。初老の変態紳士、偏差値4のギャル、外国人ナンパ師、キザでダサい自惚れ屋、嫌味なおばはん、原始人、無言でニタニタ笑うオタク、性欲の強いオカマ、当たり前のことをドヤ顔で言うインテリ、ぶりっ子娘、シャイ童貞、などの物真似を得意分野としている。特に、初老の変態紳士の物真似は無意識のうちにやってしまう癖があり、「おや、可愛いほっぺたしてるね。おじさんに触らせてごらん」と恋人に言って嫌われたこともある。一人のときにも人知れず物真似をしている。夜中に歩きながら、「夜になると暗くなるんだ。あと何時間かすれば日が昇りまた明るくなるけどね。つまりそれが朝さ」と呟き、桜の木を見て「オー、チェリーブロッサム。ビューティフォー。イエス」と呟く始末。

これらは漫才の中でも応用が効く。漫才の物語に出てくる人物たちには、一応はっきりとした人物像があり、その人物の台詞に関しても、その人物の枠を超えることは無い。極端な言い方をすれば、自分は、物真似をしているに過ぎないのである。

何もいりません。舞台に来てください。