まったく、このまま日本はどうなってしまうのか。底知れぬ不安の日々を過ごしながら、自分はこの国の未来を憂いている。

その一端は、須磨海浜水族園(通称スマスイ)である。神戸の方にある水族館で、大阪の人間ならば学校の遠足で一度は行ったことがあるはずだ。
「スマスイが3月いっぱいで一旦終了。民間事業へと変更し、5年後に大幅なリニューアルオープン。周辺の浜辺とともに豪勢なリゾート計画。入園料は1200円→3000円に。シャチ来る」

自分は、うわぁ、と思った。溜め息の方の、うわぁ、である。これはつまり、スマスイは金儲けに走りまっせ、という宣告なのである。自分は何年か前に恋人とスマスイへ行った。魚への愛が溢れた水族館で、少し古びた雰囲気も素敵であった。地元の子供たちの絵などが飾ってあり、レストランの海老フライカレー(900円)はしっかりと不味かった。格好良い陸亀が闊歩して、売店では亀パンが売られていた。水族館の向こうには海、浜辺、夕暮れ…。あぁ、自分も須磨に生まれたかった、とさえ思ったのである。これは何もノスタルジーにすがっているのでは無い。新しくリニューアルするのならば、「新しく」「面白く」変わって欲しいのである。どこか嫌な予感がするのだ。大型リゾート化に伴い、貧乏臭い子供たちの絵は撤去され、不味い海老フライカレーの味は絶品となり、亀パンではなくアボカドチーズバーガーなどが売られるのではないかと…。

それだけでは無い。南大阪にある、みさき公園が今月限りで潰れることが決定した。ここは、広大な土地に様々な動物がおり、また、イルカやアシカが跳んでいる。全く怖くない手作りのお化け屋敷もある。一言で言うと、最高の公園なのだ。ところが、金を出していた南海電鉄が事業撤退を表明し、みさき公園は閉鎖へと追い込まれたのである。

更に、更に。布施ラインシネマが、先月いっぱいで潰れた。東大阪にある、80年以上も続いたローカル映画館である。自分は昔、ここで漫才をしたこともあった。数えるほどしか行ったことは無いのだが、好きな映画館であった。最終日、自分は雨の中、「イエスタデイ」という映画を見に行った。映画自体は大したもので無かったが、場内は満席で賑わっていた。美しい拍手で包まれる中、最後の上映が終わると、本日は特別に映写室を開放します、と言って、お客一人一人に中を見学させてくれた。そして古いフィルムを切ったものをプレゼントしてくれた。スタッフの方々が横並びで、ありがとうございました、とお礼をしていた。行って良かったと、心から思った。跡地が何になるのかは知らない。

法善寺のトリイホールも今月で劇場運営を終える。我々もお世話になった演芸の劇場である。支配人は住職で、千日前界隈では有名なお坊さんであった。当時ワッハ上方という劇場が潰れて、単独ライヴをする場所を探していた我々は、飛び込みでトリイホールの事務所を訪れた。何のツテも無かった。住職は我々の話を真摯に聞いてくれて、ちょっと今漫才出来る?と言った。我々はその場で短い漫才を披露した。住職は、おもろい、単独やってください、と言って、隔月の舞台を格安料金で貸してくれた。正月の寄席などにも出演させて貰えた。ライヴ喫茶 亀を始める前の話である。

天王寺動物園も、今年から事業形態が変わるという。独立行政法人化?という、詳細は分からぬが、スマスイのようにならないことを祈る。周辺の街、新世界は、もはや単なる観光地と化してしまった。唯一の救いは、喫茶「ドレミ」と喫茶「ニューワールド」と「佐兵衛寿司」である。その三つの店が潰れたら、自分はもう新世界へは行かないだろう。

一体、何が起きているのだ?古いものは壊されて、新しい「しょうもない」もので世の中が埋め尽くされてしまう。心の腐った大人と頭の悪い若者が多すぎるせいで、誇りある文化が失われる。この国は直に破滅を辿るだろう。現代を見渡せば、これだけ沢山のエンターテイメントが溢れているにも関わらず、何だか心からワクワクしない、夢中にならないのは、自分だけだろうか。本当に面白いもの、美しいものを、その目で見つけよう。手洗いとうがい、そして、自分だけの小さなロマンを大切に。そのうち全て消えて無くなるよ。

何もいりません。舞台に来てください。