HAREM

とある芸人は、様々な女性から連絡先を渡されたりアプローチを受けていて、それはもう毎晩のように取っ替え引っ替えをしているという。正直、自分にはそういった経験は無い。所詮は男子校で精液まみれの六年間を過ごした毛深きナナフシ男である。いやぁ、もてて困りますわ、HAREMですわ、と話す彼は自慢げで、完全に調子に乗っていた。何だかムカついた自分は、お前はもててるんじゃなくて女に舐められてるだけや、そんな芸人に成り下がっちゃあお終いです、とクールに一蹴したのだが、心の中のナナフシは秘かに、う、うらやま、と思った。

さて、結構前の話であるが、とあるライヴの企画で、男芸人たちと女芸人たちが集まり「ねるとん」的なことをやった。つまり、フィーリングカップル的なノリである。自分はその企画の司会をやらされたため、ねるとんに参加することは無く、周りを茶化しながら進行した。出ていた芸人は男と女が半々の12人ほどであったが、案外真剣な恋心のさぐり合いとなり、最後は見事カップルが生まれて、楽しく終わった。

そして後日、そのライヴに出ていた芸人に聞かされたのだが、実は終演後の打ち上げの席で(自分はいつも終演後は即帰るので打ち上げなどへは行かない)、女芸人たちが揃いも揃って、本当はシマナカさんが一番好きだった、あの中ではシマナカさんが一番良い、などと言っていたというのだ。まさか、と自分は笑った。なぜならそのライヴに出演する際はいつも、自分は楽屋で誰とも話さず、ましてや女芸人たちとは挨拶を交わすのみで一切関わりもしないのである。だから、まさか、そんな訳があるまい。しかしその芸人は嘘をつくような奴ではなく、シマナカさん、実はあんたが一番もてていたのですよ、と真剣な顔で言った。

自分はその言葉を鵜呑みにした。そうか、自分は気付いていないだけで、もてていたのか。あの女芸人たちは、自分に対して一切媚びることも愛想を振りまくこともしないが、あれはいわば照れ隠しで、本当は皆、自分に惚れていたのである。何と可愛い奴らだ。今度全員まとめて抱いてやろう、HAREMの始まりだ、と思うと気分は上々、頭にお花が咲いた自分はすこぶるルンルンして、その日は眠れなかった。

それから何度か彼女たちとは共演しているが、依然、こちらへのアプローチ並びに連絡先の提出は無い。おはようございます、と淡々とした挨拶のみで、自分に惚れている様子もなく、皆一様に真顔である。逆にこちらは、あの話以来、妙に意識をしているせいか、今まで何とも思っていなかった彼女たちを見るたびに、勝手にほのかに赤面している。そして夢のHAREMへの渇望は止まらず、鼻の下が吸い餅の如く伸びて、もうライヴどころでは無い。

何もいりません。舞台に来てください。