今日は耳鼻科へ行った。もしかすると、ただそれだけの一日だったかもしれぬ。けれども自分は自分を褒めてやりたい。ようやく行ったのだ。

病院へ行くなど久しぶりのことで、いささか緊張した。そこは、子供の頃に何度か行ったことのある地元の有名な耳鼻咽喉科で、最近ではレーザー治療などもやっているらしい。レーザーで鼻の粘膜を焼く、という恐怖治療である。自分はレーザー治療をして欲しいと思った。

「初診ですか?保険証をお出しください。で、これを書いてください」受付の看護婦に言われて、自分は問診票を書いた。所々に丸を付けていく。服用している薬の有無や、持病の有無、現在の症状、などの項目がある。レーザー治療希望、にもしっかりと丸を付ける。そして、現在妊娠していますか?の欄には、いいえに丸を付けた。と、すぐその下に、女性のみお書きください、と書いてあるのを見つけて、途端に恥ずかしくなった自分は、いいえ、の丸に斜線を引いた。

問診票を渡すと、「調べたところ、シマナカさんは以前この病院に来たことがありますね」と言われた。確かにあるが、随分昔のことなので自分は初めてのフリをしていたのだ。覚えていないフリをするか、正直に告白するか迷った挙げ句、「はい。実はあります」と言った。

中へ通されると、何となく見覚えのある髭の先生がいた。「シマナカさん、20年前に来てますね」と言って、先生は昔のカルテを見ている。そんなものが未だに保管されていることに驚いた。「当時のレントゲンも残ってるんですよ。これです」と言って、小学生の頃の鼻レントゲン写真を見せられた。何と言って良いのか分からず、「懐かしいですね」と心にも無いことを言ってしまった。

ここは医者は一人であるが、看護婦は八人ほどいた。人気の医院なので、老婆やサラリーマンや赤ん坊など、様々な患者で繁盛している。シマナカさんこっち来てください、はいこっち座って、次はこちらに、と、様々な看護婦に案内されて、驚くほどスムーズに検査は行われた。レントゲン、血液検査、吸入(鼻に管を入れて薬剤入りの蒸気を送る)などをした。そして髭の先生に「なかなかの鼻炎持ちですな。蓄膿の気もある。すぐには治りません。とりあえず、薬を処方しておきます。一週間後、詳しい検査結果が出るのでまた来てください」と言われて、診察は終わった。レーザー治療は、してくれなかった。

治療代は思っていたよりも高かった。「クレジットカードいけます?」「現金のみです」この無愛想な受付の看護婦は、おそらくまだ20代だろう。ということは、自分がこの医院に来ていた頃、彼女も幼稚園か小学生だったわけである。ひょっとすると赤ん坊だったかもしれぬ。だから何なのだ。自分はなけなしの金を支払い、領収証と処方箋を貰った。

その後、すぐ近くの薬局で処方箋を渡して薬を受け取る。熊のようなおじさんの薬剤師だった。薬の説明を丁寧に教えて貰い、「1420円です」アッ。財布を覗くと300円足りない。「スミマセン、金を下ろしてきても良いですか」自分は情けない笑顔で言った。「はは、まあ、ほんじゃ次来たときでいいっすよ」熊は笑いながら言った。何と、薬代をツケにしてくれたのである。これが本当の薬ヅケ、と自分は言わず、スンマセン、とだけ言って帰った。

飲み薬が3種類と点鼻薬。これを一週間、毎日朝晩と服用すること。服用以前に、まず朝に起きなければならない。明日から自分は、薬の服用のために、早起きすることを誓った。

何もいりません。舞台に来てください。