喫茶門

谷町九丁目の駅通路の地下街にある喫茶門は、まず名前が良い。由来は知らぬが、門、は言いたくなる。もん行く?

赤い四角の看板に「TEAROOM門」と書いてあるのが目印。MON、とも書いてあった気がする。小さな店内にはカウンター(といっても、おしぼりや新聞が雑多に積まれているため誰も座れない)とテーブル席が4つほど、とても綺麗とは言い難い雰囲気で、無愛想な中年のマスターと甘ったるい声の老婆が切り盛りしている。驚くべきはメニューだろう。珈琲は230円、トースト100円、と破格の値段、そして肝心の味は、その値段に違わぬ質である。素晴らしい。

どこか昭和の光景である。それも、お洒落レトロな昭和などでは無く、もっとリアルな、フィルター無しの昭和だ。夏場は冷房が強く効いていて、高校野球のラジオが流れている。汚れたソファ席に座ったサラリーマンのおっさんが咥え煙草で新聞を広げている。腰の曲がった爺がトーストをゆっくりと食べている。はいどうぞ、と甘い声で置かれたアイス珈琲には、たっぷりとフレッシュを入れたい。ストローでかき混ぜるときの、氷が鳴る音が気持ち良い。

以前はよく相方とここで落ち合って、阿呆なアイデアを練りながら長居した。閉店間際まで居座ったとしても、マスターには何も言われない。会計のときに、はい230円ね、とぶっきらぼうに言われるだけである。お釣りは必ず濡れたままの手で渡される。それも全て込みで、門の魅力であるのだ。喫茶店かくあるべし。デートでは行かぬように。

何もいりません。舞台に来てください。