きっと何とか

我が店でやっているライヴで、集客力のあるライヴがある。我々以外の出演者が人気者なので、毎月、自ずと沢山の人が見に来てくれるのだ。定期的に開催しているそのライヴは、売上も多いので、店の利益はほとんど無いが、たっぷりと出演者にギャラが支払われる。皆、喜んでくれている。

自分はライヴの小屋を経営している立場として、出演者にはそれなりのギャラを支払うべきだ、という考えを強く持っている。金が全てではないが、またこのライヴに出たい、ここでライヴをしたい、と思ってもらうには、見合ったギャラは必要で、それが出演者の大切なモチベーションにもなる。そのため、自分が出演者の際には、それなりのギャラを頂くことも当たり前だと考えている。

さて、店が潰れることを出演者の皆に話したら、皆、何とかならんのか、と親身になってくれた。問題は金と場所、と言うと、年末までおれらのギャラを全て移転資金に回そう、と言ってくれた芸人までいた。その案は丁重に断ったが、嬉しかった。その後も、移転資金の稼ぎ方について、皆が色々とアイデアを出してくれた。

あれは、もう8年も前になる。東北の震災が起きたとき、我々の周りの芸人たちのライヴでも、急遽、売上は全て寄付します、とした人が大勢いた。自然な風潮であるにも関わらず、そのとき自分はなぜか、モヤモヤとした。ちょうど我々も主催の漫才ライヴがあったのだが、話し合いの結果、寄付はしない、寄付箱も置かない、と決まった。寄付をするならそういう名目のライヴをやるべきであって、元々は震災とは何ら関係の無いエンターテイメントの予定であった以上、安易に震災と繋げるのは主旨とも違う、お客も東北のためではなく、あくまで出演者を見に来ているだけのこと、寄付は各々で勝手にやるべき、というのが自分たちの考えだった。その後は、東北チャリティーの名目で行われたお笑いライヴもあった。その舞台には勿論ノーギャラで出て、売上が寄付されることに、別段、疑問は抱かなかった。

店が潰れる話は、震災の話とはまったく別の話である。自分自身の災難であり、問題なのだ。それに、店のことを想ってくれている人が沢山いるのも事実である。だからこそ、そうした想いを、自分は何か面白いものに転換させたい。今行われているライヴは、小屋が潰れようと、小屋が変わろうと、今まで通り、行うべきである。

移転資金を稼ぐには、そういう名目のライヴを新たに立ち上げれば良いだけの話である。なるほど、ライヴにするのはアリかもしれない。お客もその主旨を踏まえて見に来てもらう方が、分かりやすくて、気持ち良いのではないか。そのライヴに関しては、売上を全て移転資金に回す。クラウド・ファンディングなどをするよりも、性に合っているかもしれない。あと五ヶ月で、一体何が出来るだろう。やれることは何でも、楽しくやっちゃえ、と思っている。きっと何とかなるでしょう。

何もいりません。舞台に来てください。