お客様は天使です。

自分は店を経営している。ライヴ喫茶 亀、という名前の店で、もうじき始めてから四年が経つ。通りに面したガラス張りの店で、ライヴの無い夜は一応喫茶店として営業しているものの、表に看板を出さぬ日もあれば、電気を消している日もあるので、ただいま営業しております、と胸を張ることは出来ない。店内はろくに掃除もしていないので勿論汚く、普段は客席や舞台などそこら中に、機材、ビールケース、木片、ティッシュ、吸い殻、ギター、コップ、布、本、釘、ケーブル類、チラシ、筆、紙袋、小道具、カツラ、ねじ、座布団、などが散乱している。また、便所は窓が壊れて閉まらないために、冬場は極寒で、用を足すにも徒労する。そんな店内で、自分は客席に置かれたソファに寝転がり、欠伸をしながらじぃっとしている。どこからどう見ても、完全なコアラ人間である。

そんなふざけた店に一体誰が来るのだ、とお思いかもしれない。しかし、毎日必ず一人はお客が来るから不思議なものである。

いらっしゃいませ、と言ったことは無い。顔見知りの人なら、どーも、知らない人なら、どーぞ、である。お客に対して、あまり干渉することは無い。皆が自由に考えて、自由にやれば良い。だから自分は、誰かが裸踊りを始めようと、壁に落書きしようと、備品を盗もうと、何も文句は言わない。そもそも、接客、というものをしない。気の合いそうな人ならば会話もするが、そうでなければほぼ無視を決め込み、黙々と珈琲を淹れて、再びコアラ人間に戻る。後はお客が珈琲を飲んで、好きにすれば良い。

そんなふざけた店を一体誰が気に入るのだ、とお思いかもしれない。お怒りかもしれない。しかし世の中には稀有な人間が存在する。亀(自分の店を皆こう呼ぶ)はとても落ち着きますね、居心地が良くって、好きなんです、などというお客の声を、自分はこれまで幾度となく聞いてきた。なぜそんな心境になるのか。まさかお客は小汚いフェチの変態ばかりかといえば、そんなことは無くて、ほとんどが小綺麗な方ばかりである。

夜に開けているので、おそらく大半のお客が、労働終わりもしくは学業終わりにやって来る。つまり、亀にやって来た時点で、それまでの職場や学校における気疲れが蓄積されており、疲れたし珈琲でも飲もうかな、という気分。あれ?こんな時間にやってる喫茶店あったんだ。亀?変な名前だけど、まあいっか。中に入ると、眠たそうにソファから起き上がる男。どーぞ、とか言って欠伸している。寝癖髪に剃っていない髭、よれよれのセーターを着て、なんします?珈琲ね、はい。この男が店主なんだ。あぁ、ちょっと入る店ミスったな。チラと見ると、珈琲を淹れながら、無言の男、何だか嫌そうな、面倒臭そうな顔をしている。珈琲を出すと、寒いっすねえ、なんてどうでも良いことを言って煙草に火を付けた。後は再び眠たそうにしている。この店は…、なんかライヴとか、してるんですか?まあ、そうっすね。へぇ…、音楽の、ライヴとかですか…?まあ、別に…、色々っすね。まるでやる気が無い。何なのこいつ。さっきまで私は、職場で上司に媚びへつらい、取引先では嫌味を言われて、それでもニコニコ頑張った。それに比べてこいつは何なんだ、店内も散らかってるしさー、うわティッシュ落ちてんじゃん、って欠伸してんじゃねぇよ、客に対する態度じゃねえだろ、煙草消せよムカつくな、私嫌いなんだよ、煙が、何美味そうに吸ってんだこの野郎、ふざけんな、ニコニコしろよ、だるそうにしてんじゃねぇ、私は客だぞ?何が亀だ、お客様は神様だろ?てめぇが亀ならこっちは神だ!いい加減にしろぉ!という気持ちを抑えつつ、珈琲を飲むとなかなかに美味い。話してみると、店主の奴もそんなに悪い奴じゃなかったし、何より店が暇だから、ゆっくり落ち着くわ。けっこーいいじゃん。また来ようかな。



そんなライヴ喫茶 亀が四周年。さまざまな人を呼んで記念ライヴを致します。お客様は天使です。

2月11日(月祝)
祝!ライヴ喫茶 亀四周年記念
『Romantic To You』
★出演★
ヤング(漫才師)
山が動く寺岡(芸人)
ささ丸(現代美術家)
病気マサノリ(ミュージシャン)
しまのり子(役者)
こざきゆたか(歌手)
@ライヴ喫茶 亀
(大阪市中央区東平2-2-10)
谷町九丁目駅から徒歩2分
18:30/19:00
前1,500円 当1,800円

ご予約は舞台予定のページから、どーぞ。


何もいりません。舞台に来てください。